慶応義塾大学准教授である、皆さんご存知の秋山美紀先生の新しい著書「コミュ
ニティヘルスのある社会」が出版されました。第3章では、コミュニティヘルス
のある社会へー鶴岡市での地域連携の試みーとして、ここ10年の鶴岡での取り組
みが詳しく紹介されています。
第3章
1、緩和ケアのプロジェクトが地域を変えるまで
2、コミュニケーションを支えるツールとは
3.からだ館の挑戦
4、みらいの世代への贈り物
私は、鶴岡モデルの特徴は、さまざまなレイヤーの多様な職種の人たちの活動が
相互作用的に機能し、地域全体のレベルの向上につながっていることにあると思っ
ています。そして、そのガイド役あるいは触媒としての「よそ者」(秋山氏)の
役割がとても大きいと感じます。介入型モデル?他力本願型モデル?
日本が今後さらに成熟した社会を形成していくためには、人と人のつながりを大
事にしながら、お互いをお互いが支え合うまちづくりが必要なのだと思います。
是非、読んでみて下さい。
http://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&url=search-alias%3Daps&field-keywords=%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%81%82%E3%82%8B%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%B8
はじめに
本書で紹介する「コミュニティヘルス」の世界には、スーパースターもヒーロー
もいない。本書は、「自分自身や周囲の人の生き方を輝かせたい」「自分たちが
生活する地域を健康で豊かなものとしたい」と願う複数の役者たちが、住民の視
点に立って相互作用を起こしながら織りなす物語である。
これまでの医療、特に病院を中心とする治療の物語には「神の手を持つ医師」
のように並外れた臨床の腕を持った医師がいたり、すばらしい経営手腕とリーダー
シップで周囲に変革を起こしていくカリスマ院長がいたりした。そうしたベスト
プラクティスと呼ばれる個人や組織の功績から学ぶことは多いし、何より物語と
してもわかりやすい。多くの場合、そこには高い専門性が存在し、自ずと、提供
者と受益者、主体と客体、勝ち組と負け組といった境界がはっきり存在していた
ように思う。
ところが、いま先端医療や先端科学と呼ばれる分野が進化し、そうした専門分
化した山の頂上が高くなっているのと同時に、興味深いことに、人間を生活面や
環境とともに捉えながら「コミュニティ」にアプローチする健康や医療の取り組
みも盛んになっている。
その背景には高齢化と疾病構造の変化がある。ケアの場が病院から「住まい」
を中心とするものになる中で、あるいは、疾病構造が病院治療で完結する急性期
中心から、完治の難しい病気と長くつきあっていく慢性期中心へと変化する中で、
本人や家族、その周囲を取り巻く人々、専門家ではない人々もケアの担い手とし
て役割に重みを増しているのだ。
どんなに医療が発達しても人の命には最終的に「終わり」が来る。やがて訪れ
る死を意識しながら、その時が来るまで「自分なりの健康で幸せな暮らしを続け
たい」「誰かの役に立つ自分でいたい」と願う人たちが増えている。
そのような中で、患者や住民がこれまでの「受益者」から「行為の主体」へと
変化しつつある動きが日本社会に広がっている。このような、客体が主体化する
うねりは、「公衆衛生」「地域福祉」「まちづくり」「地域経営」といった多く
の分野でも共通であり、成熟社会を迎えた我が国に起きつつある大きなパラダイ
ムシフトだともいえる。
コミュニティヘルスとは、一人一人の当事者が、自分なりの健康や幸せを実現
しながら、結果としてコミュニティ自体も豊かになっていく営みをいう。ここで
いうコミュニティとは、構成員が何らかの役割を持って活躍できる場である。
コミュニティヘルスの成否は、究極的にはいかに数多くの住民が「主体化」す
るか、つまり当事者として意識を持った上で、問題の解決へ向けて自ら進んで具
体的な行動をとろうと考えるか否かに依存している。
「自分たちのことだ」という意識のもとで「主体化」した人材が核となって、
つながりながら、コミュニケーションを重ね、客体に終始しがちな住民その他に
働きかけ、地域でいかに活動するか――そこが問われている。
そのためには「仕掛け」も必要になるし、時には「よそ者」が与える刺激が功
を奏することもある。しかし、まずはそこに豊かな土壌がなければ種をまいても
芽は出ないし育っていかない。
ここでいう地域の土壌とは、長い歴史の中で育まれた文化、誇り、人への信頼
や助け合いの精神なども含まれる。欧米から借りた言葉だと「ソーシャル・キャ
ピタル」にあたるだろう。失われつつある古き良き地域社会を嘆くのではなく、
ふたたび豊かな土壌を耕し育てていくのがコミュニティヘルスの取り組みだと考
えている。
そうしたコミュニティヘルスの活動は全国各地で行われている。本書はその中
から、私が関わる機会のあったいくつかの地域での実践を紹介することで、地域
コミュニティを構成する多様な主体が、みずから課題解決をしていくために役立
つ方法や具体的なヒントを提示してみたい。そのため本書は四つの章で構成され
ている。
第1章は、「コミュニティヘルス」という本書のコア概念を、「健康」「コミュ
ニティ」「エンパワーメント」に関する先行研究を読み解きながら論じていく。
その上で、具体的な実践例として、日本のコミュニティヘルスの源流のひとつで
ある佐久総合病院の現在、過去、未来に、実践のヒントを探す。医療者が地域に
入り、時に試行錯誤もしながら、「場づくり」「人づくり」「役割づくり」をど
のように展開していったのか、五〇年以上にわたる歴史から、今こそ学ぶべきこ
とを引き出していく。
第2章では、「役割」を上手につくることで、人を輝かせたり、地域を再生し
たり、Wellbeing(健康で幸せな状態)を実現しようと取り組んでいる四つの事
例を紹介する。宮城、高知、東京、埼玉を舞台にしたそれぞれのコミュニティヘ
ルスの取り組みには、地域の人という財たからを活かすための工夫や仕組みがあ
る。多様な人々が主体性をもって関わりたくなる魅力ある場づくりの秘訣をここ
で解き明かしたい。
第3章は、私もプレーヤーの一人として活動している山形県の南庄内が舞台で
ある。ここでは市や保健所といった行政、地区医師会、病院、介護福祉施設、各
種訪問系サービス、そして大学等の様々な組織および人々が連携をしながら、緩
和ケアや在宅医療と介護の連携、健康な地域づくりに取り組んでいる。鍵となる
「顔の見える関係」をどうつくっていったのか、またITというツールをどうし
たら活かせるのかも提示する。さらに大学が地域にどう貢献できるのか、未来の
世代に何を残せるのかも考察する。
終章では、中村伸一さん(福井県名田庄診療所所長)と藤本晴枝さん(NPO
法人「地域医療を育てる会」理事長)という二人の実践者とともに、コミュニティ
ヘルスを実現する方法を議論した。「クロストーク」という形で、これからの地
域の健康や医療についての考え、コミュニティづくりの方向性、場づくりや役割
づくり、そして人の心を動かすコミュニケーションの秘訣も紹介する。
取り上げる事例は、決して理想郷ではない。いろいろな課題を抱えながらも、
それらを解決していくために、新しい仕組みやつながりをつくっていくことに奮
闘し、汗を流している人々や組織の取り組みである。本書は、これらの事例を通
して、コミュニティとその成員である個々人のWell-being について考察していく。
本書が紹介する各地の生きた取り組みから、読者の皆さんが、地域における課
題解決の糸口や、すぐにでも実行できそうな取り組みのヒントが得られるならば
幸いである。本書を通じて、コミュニティヘルスの輪が社会に広がっていくこと
を期待している。
ニティヘルスのある社会」が出版されました。第3章では、コミュニティヘルス
のある社会へー鶴岡市での地域連携の試みーとして、ここ10年の鶴岡での取り組
みが詳しく紹介されています。
第3章
1、緩和ケアのプロジェクトが地域を変えるまで
2、コミュニケーションを支えるツールとは
3.からだ館の挑戦
4、みらいの世代への贈り物
私は、鶴岡モデルの特徴は、さまざまなレイヤーの多様な職種の人たちの活動が
相互作用的に機能し、地域全体のレベルの向上につながっていることにあると思っ
ています。そして、そのガイド役あるいは触媒としての「よそ者」(秋山氏)の
役割がとても大きいと感じます。介入型モデル?他力本願型モデル?
日本が今後さらに成熟した社会を形成していくためには、人と人のつながりを大
事にしながら、お互いをお互いが支え合うまちづくりが必要なのだと思います。
是非、読んでみて下さい。
http://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&url=search-alias%3Daps&field-keywords=%E3%82%B3%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%81%82%E3%82%8B%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E3%81%B8
はじめに
本書で紹介する「コミュニティヘルス」の世界には、スーパースターもヒーロー
もいない。本書は、「自分自身や周囲の人の生き方を輝かせたい」「自分たちが
生活する地域を健康で豊かなものとしたい」と願う複数の役者たちが、住民の視
点に立って相互作用を起こしながら織りなす物語である。
これまでの医療、特に病院を中心とする治療の物語には「神の手を持つ医師」
のように並外れた臨床の腕を持った医師がいたり、すばらしい経営手腕とリーダー
シップで周囲に変革を起こしていくカリスマ院長がいたりした。そうしたベスト
プラクティスと呼ばれる個人や組織の功績から学ぶことは多いし、何より物語と
してもわかりやすい。多くの場合、そこには高い専門性が存在し、自ずと、提供
者と受益者、主体と客体、勝ち組と負け組といった境界がはっきり存在していた
ように思う。
ところが、いま先端医療や先端科学と呼ばれる分野が進化し、そうした専門分
化した山の頂上が高くなっているのと同時に、興味深いことに、人間を生活面や
環境とともに捉えながら「コミュニティ」にアプローチする健康や医療の取り組
みも盛んになっている。
その背景には高齢化と疾病構造の変化がある。ケアの場が病院から「住まい」
を中心とするものになる中で、あるいは、疾病構造が病院治療で完結する急性期
中心から、完治の難しい病気と長くつきあっていく慢性期中心へと変化する中で、
本人や家族、その周囲を取り巻く人々、専門家ではない人々もケアの担い手とし
て役割に重みを増しているのだ。
どんなに医療が発達しても人の命には最終的に「終わり」が来る。やがて訪れ
る死を意識しながら、その時が来るまで「自分なりの健康で幸せな暮らしを続け
たい」「誰かの役に立つ自分でいたい」と願う人たちが増えている。
そのような中で、患者や住民がこれまでの「受益者」から「行為の主体」へと
変化しつつある動きが日本社会に広がっている。このような、客体が主体化する
うねりは、「公衆衛生」「地域福祉」「まちづくり」「地域経営」といった多く
の分野でも共通であり、成熟社会を迎えた我が国に起きつつある大きなパラダイ
ムシフトだともいえる。
コミュニティヘルスとは、一人一人の当事者が、自分なりの健康や幸せを実現
しながら、結果としてコミュニティ自体も豊かになっていく営みをいう。ここで
いうコミュニティとは、構成員が何らかの役割を持って活躍できる場である。
コミュニティヘルスの成否は、究極的にはいかに数多くの住民が「主体化」す
るか、つまり当事者として意識を持った上で、問題の解決へ向けて自ら進んで具
体的な行動をとろうと考えるか否かに依存している。
「自分たちのことだ」という意識のもとで「主体化」した人材が核となって、
つながりながら、コミュニケーションを重ね、客体に終始しがちな住民その他に
働きかけ、地域でいかに活動するか――そこが問われている。
そのためには「仕掛け」も必要になるし、時には「よそ者」が与える刺激が功
を奏することもある。しかし、まずはそこに豊かな土壌がなければ種をまいても
芽は出ないし育っていかない。
ここでいう地域の土壌とは、長い歴史の中で育まれた文化、誇り、人への信頼
や助け合いの精神なども含まれる。欧米から借りた言葉だと「ソーシャル・キャ
ピタル」にあたるだろう。失われつつある古き良き地域社会を嘆くのではなく、
ふたたび豊かな土壌を耕し育てていくのがコミュニティヘルスの取り組みだと考
えている。
そうしたコミュニティヘルスの活動は全国各地で行われている。本書はその中
から、私が関わる機会のあったいくつかの地域での実践を紹介することで、地域
コミュニティを構成する多様な主体が、みずから課題解決をしていくために役立
つ方法や具体的なヒントを提示してみたい。そのため本書は四つの章で構成され
ている。
第1章は、「コミュニティヘルス」という本書のコア概念を、「健康」「コミュ
ニティ」「エンパワーメント」に関する先行研究を読み解きながら論じていく。
その上で、具体的な実践例として、日本のコミュニティヘルスの源流のひとつで
ある佐久総合病院の現在、過去、未来に、実践のヒントを探す。医療者が地域に
入り、時に試行錯誤もしながら、「場づくり」「人づくり」「役割づくり」をど
のように展開していったのか、五〇年以上にわたる歴史から、今こそ学ぶべきこ
とを引き出していく。
第2章では、「役割」を上手につくることで、人を輝かせたり、地域を再生し
たり、Wellbeing(健康で幸せな状態)を実現しようと取り組んでいる四つの事
例を紹介する。宮城、高知、東京、埼玉を舞台にしたそれぞれのコミュニティヘ
ルスの取り組みには、地域の人という財たからを活かすための工夫や仕組みがあ
る。多様な人々が主体性をもって関わりたくなる魅力ある場づくりの秘訣をここ
で解き明かしたい。
第3章は、私もプレーヤーの一人として活動している山形県の南庄内が舞台で
ある。ここでは市や保健所といった行政、地区医師会、病院、介護福祉施設、各
種訪問系サービス、そして大学等の様々な組織および人々が連携をしながら、緩
和ケアや在宅医療と介護の連携、健康な地域づくりに取り組んでいる。鍵となる
「顔の見える関係」をどうつくっていったのか、またITというツールをどうし
たら活かせるのかも提示する。さらに大学が地域にどう貢献できるのか、未来の
世代に何を残せるのかも考察する。
終章では、中村伸一さん(福井県名田庄診療所所長)と藤本晴枝さん(NPO
法人「地域医療を育てる会」理事長)という二人の実践者とともに、コミュニティ
ヘルスを実現する方法を議論した。「クロストーク」という形で、これからの地
域の健康や医療についての考え、コミュニティづくりの方向性、場づくりや役割
づくり、そして人の心を動かすコミュニケーションの秘訣も紹介する。
取り上げる事例は、決して理想郷ではない。いろいろな課題を抱えながらも、
それらを解決していくために、新しい仕組みやつながりをつくっていくことに奮
闘し、汗を流している人々や組織の取り組みである。本書は、これらの事例を通
して、コミュニティとその成員である個々人のWell-being について考察していく。
本書が紹介する各地の生きた取り組みから、読者の皆さんが、地域における課
題解決の糸口や、すぐにでも実行できそうな取り組みのヒントが得られるならば
幸いである。本書を通じて、コミュニティヘルスの輪が社会に広がっていくこと
を期待している。