ポポロ通信舎

(旧・ポポロの広場)姿勢は低く、理想は高く。真理は常に少数から・・

降りかかる不条理に抗す(8)

2020年10月04日 | 研究・書籍
理念と感情の相克


聖戦(革命)の大義(理念)のもとに人は兵士となり人を殺(あや)める。

疫病ペストによるロックダウン(都市封鎖)の町オランから脱出を試み失敗を重ねる新聞記者のランベール。疲れ果てた彼が医師リウーと旅人タルーを自分の部屋に招く。

「僕もあなた達の保健隊のことはずいぶん考えました。僕が一緒にやらないのはそれなりの理由があるのです。僕もスペイン戦争(内戦)に参加しましたから」。タルーが尋ねる「どちらの側で?」。ランベール「負けた方の側で」。

負けた側というのは反ファシズムで戦った人民戦線のことだ。ランベールは理念の世界に反発し自分の感情の世界にこだわる。それはスペイン内戦でヒーローが理念のために人を殺すのを目にしたから。負けた左派の人民戦線側も勝った右派のフランコ側もたくさんの兵の命を奪っている。

ランベールは言う「僕はヒロイズムは信じません。それが人殺しをすることだと分かったからです。僕が心を惹かれるのは愛するものために生き死ぬことです」それに対して医師のリウーは「今回の問題はヒロイズムの問題ではない。問題は誠実さということです。こんな考えは笑われるかもしれないがペストと戦う唯一の方法は誠実さです・・私の場合、自分の仕事を果たすことだと思っています」

「人間の行為を美醜で判断し、それを善意の問題に還元するのは危険だということ。たとえ善意から発していても結果として悪く結びつく行為はあるし、その逆もある。『ペスト』は決して勇敢な美談ではないし特別に強い精神を持った主人公による美しいヒロイズムの物語ではない、ということが分かります」(中条昌平氏100分で名著「ペスト」)

理念か感情か、本当の幸福は感情にあるのか。ヒロイズム(英雄主義)に対して疑問を常に抱く著者カミュの不条理に抗する姿勢が強く感じられる名場面の一幕と思います。



 
 


お父さんとこどもさんの明るい笑い声『パパと踊ろう』♪
1956年?これほど昔の曲とは思いませんでした。

Andre Claveau - Viens valser avec papa パパと踊ろうよ - アンドレ・クラヴォー
コメント
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