National Geographic News November 19, 2012
アメリカ、アラスカ州南岸の都市アンカレッジから南西へ400キロほど移動すると、サケが回帰する河川域が約10万平方キロに渡って広がっている。夏の数週間、ブリストル湾には、海で成長した3000万~4000万匹のベニザケが戻り、5つの河川を駆け上がって太古の昔から繰り返されている生命の再生をまっとうする。しかし近年、アラスカ最大のイリアムナ湖から北へ数キロ、サケが産卵する河川上流部に世界最大級の鉱床が見つかり、「サケをとるか、黄金をとるか」の大論争が巻き起こっている。新発見の鉱床には、約3600万トン銅と約3000トンの金が眠っているという。
合名会社「ペブル」を設立したノーザン・ダイナスティ・ミネラルズ社(カナダ)とアングロ・アメリカン社(イギリス)は、現地で大規模な開発を行う予定だ。幅3キロ、深さ500メートル程度の露天掘り、同規模の地下採掘、鉱石を砕いて金属を含む精鉱と廃石(尾鉱)に選別する工場、廃石をためておく廃石池などがプランに示されているが、野生動物やその生息地に深刻な被害はないと主張している。
反対派は、先住民団体や漁業者、村議会、地元住民、アウトドア用品メーカー、自然保護団体などが大同団結。経済的利益より環境保護の方がはるかに重要で、開発が進めばサケへの影響が計り知れないと訴えている。
両陣営はこれまで、請願活動や法案提出、訴訟、広報などさまざまな活動を行ってきたが、対立はようやく最終局面に入ったようだ。少なくとも、アラスカ州経済の行方を左右する資源開発論争はターニング・ポイントを迎えている。
◆州から国へ
2012年5月、アメリカ環境保護庁(EPA)は、ブリストル湾流域圏の鉱山開発に関する環境影響評価書(草稿)を公開。少なく見積もっても、原始のまま残る河川が90キロから140キロにわたり破壊され、周辺の湿地約1000ヘクタールも失われる可能性があるという。最も懸念されるのは廃石池の決壊だ。酸性水や重金属がサケの産卵場所に流れ込み、回復不能なダメージを被ることになる。
アラスカ州当局やペブル社はこの内容を直ちに否定。非難の的になったEPAでは、この件に関するパブリック・コメントを募集した後、さらに環境評価プロセスの妥当性を確保するため、利害関係のない科学者12人から成る評価委員会を設置。11月9日に公開された報告書は、おおむね、EPAの環境評価の信頼性を裏付ける内容だった。ある委員は、「長期の開発を考えれば、これでも過小評価かもしれない」と論じている。
「鉱山開発にはリスクが付きもの。委員会の報告書が出たところで、プロジェクトが必ず中止になるわけではない」と、元アラスカ州議会上院議員(共和党)のリック・ハルフォード(Rick Halford)氏は言う。筋金入りの開発推進派だった同氏は、議員引退後に姿勢を180度転換、現在は北米のサケ・マス類の漁場と流域の環境保護を目的とする団体「トラウト・アンリミテッド(Trout Unlimited)」などと協力して、プロジェクト中止に尽力している。「現行プランでの開発はかなり難しくなったのではないか」とも話している。
Edwin Dobb for National Geographic News
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20121119001&expand#title
アメリカ、アラスカ州南岸の都市アンカレッジから南西へ400キロほど移動すると、サケが回帰する河川域が約10万平方キロに渡って広がっている。夏の数週間、ブリストル湾には、海で成長した3000万~4000万匹のベニザケが戻り、5つの河川を駆け上がって太古の昔から繰り返されている生命の再生をまっとうする。しかし近年、アラスカ最大のイリアムナ湖から北へ数キロ、サケが産卵する河川上流部に世界最大級の鉱床が見つかり、「サケをとるか、黄金をとるか」の大論争が巻き起こっている。新発見の鉱床には、約3600万トン銅と約3000トンの金が眠っているという。
合名会社「ペブル」を設立したノーザン・ダイナスティ・ミネラルズ社(カナダ)とアングロ・アメリカン社(イギリス)は、現地で大規模な開発を行う予定だ。幅3キロ、深さ500メートル程度の露天掘り、同規模の地下採掘、鉱石を砕いて金属を含む精鉱と廃石(尾鉱)に選別する工場、廃石をためておく廃石池などがプランに示されているが、野生動物やその生息地に深刻な被害はないと主張している。
反対派は、先住民団体や漁業者、村議会、地元住民、アウトドア用品メーカー、自然保護団体などが大同団結。経済的利益より環境保護の方がはるかに重要で、開発が進めばサケへの影響が計り知れないと訴えている。
両陣営はこれまで、請願活動や法案提出、訴訟、広報などさまざまな活動を行ってきたが、対立はようやく最終局面に入ったようだ。少なくとも、アラスカ州経済の行方を左右する資源開発論争はターニング・ポイントを迎えている。
◆州から国へ
2012年5月、アメリカ環境保護庁(EPA)は、ブリストル湾流域圏の鉱山開発に関する環境影響評価書(草稿)を公開。少なく見積もっても、原始のまま残る河川が90キロから140キロにわたり破壊され、周辺の湿地約1000ヘクタールも失われる可能性があるという。最も懸念されるのは廃石池の決壊だ。酸性水や重金属がサケの産卵場所に流れ込み、回復不能なダメージを被ることになる。
アラスカ州当局やペブル社はこの内容を直ちに否定。非難の的になったEPAでは、この件に関するパブリック・コメントを募集した後、さらに環境評価プロセスの妥当性を確保するため、利害関係のない科学者12人から成る評価委員会を設置。11月9日に公開された報告書は、おおむね、EPAの環境評価の信頼性を裏付ける内容だった。ある委員は、「長期の開発を考えれば、これでも過小評価かもしれない」と論じている。
「鉱山開発にはリスクが付きもの。委員会の報告書が出たところで、プロジェクトが必ず中止になるわけではない」と、元アラスカ州議会上院議員(共和党)のリック・ハルフォード(Rick Halford)氏は言う。筋金入りの開発推進派だった同氏は、議員引退後に姿勢を180度転換、現在は北米のサケ・マス類の漁場と流域の環境保護を目的とする団体「トラウト・アンリミテッド(Trout Unlimited)」などと協力して、プロジェクト中止に尽力している。「現行プランでの開発はかなり難しくなったのではないか」とも話している。
Edwin Dobb for National Geographic News
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20121119001&expand#title