日経ビジネス オンライン-2014.07.25萩原 章史
アイヌが愛した北海道・虎杖浜の海は、毛ガニの宝庫
北海道・虎杖浜(こじょうはま)の目の前の海で水揚げされる毛ガニは、今が旬。特製のゆで汁で生きた毛ガニをゆでて熱々を食すか、あるいは、ゆでた身をほぐし甲羅に山盛りにした毛ガニを食すか……。熱々vs.簡単、どちらにしても虎杖浜の毛ガニは、テンションを上げてくれること、間違いありません! (写真=八木澤芳彦)
虎杖浜(こじょうはま)のある北海道の白老町は、アイヌ語「シラウオイ」から転訛(てんか)したもので、「虹の多いところ」という意味です。中でも虎杖浜(虎杖はイタドリのこと)はアヨロ海岸と呼ばれ、アイヌの遺跡も発見されています。かつて、アイヌの人々が大事に守っていた豊穣の海は、現在、アイヌの人々に代わって、漁師が厳しい漁獲制限を徹底し、アヨロの海を守っています。
毎年7月中旬~8月中旬の約1カ月間、虎杖浜は毛ガニ漁でにぎわいます。ただし、漁期内でも、漁獲制限量の87トンに達した時点で、その年の毛ガニ漁は終漁になります。
総漁獲量制限とは別に、メスの毛ガニと甲長8cm未満のオスの毛ガニは禁漁です。虎杖浜の目の前の海に仕掛けたカニ籠にはたくさんの毛ガニが入りますが、サイズ制限より大きい毛ガニでも、その多くはリリースされます。理由は総漁獲量が決まっているので、できるだけ大きな毛ガニ(相場が高い)を獲ることで、総水揚げ金額を増やしたいからです。
大きな毛ガニは1.2kgクラスです。そこまで大きくなるのは12年ほどの年月が掛かるといわれています。このクラスになると毛が濃く長くなり、見た目は黒くなります。そこで、私はこのクラスの毛ガニに黒毛ガニと名付けました。
デパ地下などに並んでいる毛ガニは400g前後、大きなものでも800gくらいですから、虎杖浜の大きな毛ガニがいかに大きいかが分かります。ただ、昔はもっと大きい毛ガニが獲れたそうです。白老町に残る戦後間もない頃の、浜の写真に映っている毛ガニは、どれも1kg以上はありそう。毛ガニなのかタラバガニなのか?と思うほどです。
毛ガニはゆでたてが美味か、それとも冷えたのが美味?
ゆでたてか、冷えたものがうまいのか。この選択肢、実に奥が深いです。
ゆでたてカニの熱々ジューシーさは、何とも言えない美味です。一方、ゆでて氷締めして冷蔵庫で寝かしたカニは、カニの汁が落ち着いていて、適度に余分な水分も飛び、濃厚な美味というのは事実です。
特に毛ガニの場合、冷蔵することで、カニ味噌も固まり、味が濃厚になるのは間違いありません。実際、多くのカニ専門店でも、ゆで毛ガニは冷たいものが多いです。
そうした一般的な価値観はともかくとして、子供の頃、ゆでたてガニ(ワタリガニ)が普通だった私は、カニはゆでたてが一番だと思っています。
お店でゆでたてを提供しない理由は色々とあると思います。まず、「熱々でジューシーな時は、カニに包丁を入れにくいので、冷めてカニの汁が落ちついてから提供する」のではないか。あるいは、「ゆでたてはカニ味噌が固まっていないので、お客様から『このカニ、痩せていない?』などと言われる可能性があるから」ではないか。また、「注文ごとにカニをゆでるのは、時間と手間が掛かるから」ではないか、などです。
純粋に冷たいゆでガニがおいしいというだけでなく、色々な他の理由もあり、店のゆでガニは冷たいのではないか、と私は思っています。
どうしても熱々、美味な毛ガニが食べたいという方には、虎杖浜のカネシメ松田水産が提供している商品などがお薦めです。これは、何百匹も毛ガニをゆでた汁をこして、パックした毛ガニのゆで汁と生きの毛ガニをセットしたものです。
普通の水でゆでれば、カニのうまみがゆでる水に溶け出してしまいます。そうなると、せっかくの極上毛ガニも味が薄くなります。一方で、特製ゆで汁は何百、千数百匹の毛ガニをゆでた汁です。これなら最高の状態で毛ガニをゆでることができます。
大きさによりますが、沸騰したゆで汁にカニを入れ、再沸騰したら火を弱め20分ほどでゆで上がります。あとは流水で表面のアクを洗い流せば、極上の毛ガニの完成です。
「ズボッ」とカニの身が口に飛び込む瞬間は最高!
カニの脚をもいで、歯か調理はさみで関節の狭くなった部分を切り、ストローを吸うのと同じように、一気に吸い込むと、「ズボッ」とカニの身が口に飛び込みます。このズボッを予期して、舌で喉への直行を防いでおかないと、いきなり喉へという悲劇になります。吸い慣れくると、このズボッが面白いように決まりだします。
特に生けのカニのゆでたてはジューシーなので、このズボッが簡単に楽しめます。熱々ジューシーで繊維質を感じる毛ガニの身は、本当においしいものです。
また、熱々のカニ味噌は固くはなくて、甲羅酒にも最高です。濃い黄色の肝臓だけでなく、脂分もカニ味噌を構成しているので、温度が高いと固まっていません。そのため、熱々のカニの味噌は少し水っぽいのですが、そういうものです。味噌の味は格別で、まさにすすりたい味。もちろん、甲羅酒にしても最高なのです。
自分でゆでる毛ガニの対局にある、毛ガニの甲羅詰め
一方で、毛ガニは好きだけど、殻から出すのが面倒くさいという方も多いのは確かです。こうした場合は、毛ガニの甲羅詰めなどが、カネシメ松田水産から提供されています。
朝競り落とした毛ガニを昼にはゆで上げ、氷で一晩締めてから、甲羅詰め作業に入ります。丁寧に足の先の身までほじり出し、1杯分の毛ガニを甲羅に詰めるのですが、毛ガニは可食部が多いので、まるで“毛ガニボウル”のようになります。
熱々vs.簡単、虎杖浜の極上毛ガニは、どちらもおいしいのは確か。後は、好みの問題です。読者のみなさまは、どちらがお気に召されるでしょうか?
http://business.nikkeibp.co.jp/article/jagzy/20140522/265170/
アイヌが愛した北海道・虎杖浜の海は、毛ガニの宝庫
北海道・虎杖浜(こじょうはま)の目の前の海で水揚げされる毛ガニは、今が旬。特製のゆで汁で生きた毛ガニをゆでて熱々を食すか、あるいは、ゆでた身をほぐし甲羅に山盛りにした毛ガニを食すか……。熱々vs.簡単、どちらにしても虎杖浜の毛ガニは、テンションを上げてくれること、間違いありません! (写真=八木澤芳彦)
虎杖浜(こじょうはま)のある北海道の白老町は、アイヌ語「シラウオイ」から転訛(てんか)したもので、「虹の多いところ」という意味です。中でも虎杖浜(虎杖はイタドリのこと)はアヨロ海岸と呼ばれ、アイヌの遺跡も発見されています。かつて、アイヌの人々が大事に守っていた豊穣の海は、現在、アイヌの人々に代わって、漁師が厳しい漁獲制限を徹底し、アヨロの海を守っています。
毎年7月中旬~8月中旬の約1カ月間、虎杖浜は毛ガニ漁でにぎわいます。ただし、漁期内でも、漁獲制限量の87トンに達した時点で、その年の毛ガニ漁は終漁になります。
総漁獲量制限とは別に、メスの毛ガニと甲長8cm未満のオスの毛ガニは禁漁です。虎杖浜の目の前の海に仕掛けたカニ籠にはたくさんの毛ガニが入りますが、サイズ制限より大きい毛ガニでも、その多くはリリースされます。理由は総漁獲量が決まっているので、できるだけ大きな毛ガニ(相場が高い)を獲ることで、総水揚げ金額を増やしたいからです。
大きな毛ガニは1.2kgクラスです。そこまで大きくなるのは12年ほどの年月が掛かるといわれています。このクラスになると毛が濃く長くなり、見た目は黒くなります。そこで、私はこのクラスの毛ガニに黒毛ガニと名付けました。
デパ地下などに並んでいる毛ガニは400g前後、大きなものでも800gくらいですから、虎杖浜の大きな毛ガニがいかに大きいかが分かります。ただ、昔はもっと大きい毛ガニが獲れたそうです。白老町に残る戦後間もない頃の、浜の写真に映っている毛ガニは、どれも1kg以上はありそう。毛ガニなのかタラバガニなのか?と思うほどです。
毛ガニはゆでたてが美味か、それとも冷えたのが美味?
ゆでたてか、冷えたものがうまいのか。この選択肢、実に奥が深いです。
ゆでたてカニの熱々ジューシーさは、何とも言えない美味です。一方、ゆでて氷締めして冷蔵庫で寝かしたカニは、カニの汁が落ち着いていて、適度に余分な水分も飛び、濃厚な美味というのは事実です。
特に毛ガニの場合、冷蔵することで、カニ味噌も固まり、味が濃厚になるのは間違いありません。実際、多くのカニ専門店でも、ゆで毛ガニは冷たいものが多いです。
そうした一般的な価値観はともかくとして、子供の頃、ゆでたてガニ(ワタリガニ)が普通だった私は、カニはゆでたてが一番だと思っています。
お店でゆでたてを提供しない理由は色々とあると思います。まず、「熱々でジューシーな時は、カニに包丁を入れにくいので、冷めてカニの汁が落ちついてから提供する」のではないか。あるいは、「ゆでたてはカニ味噌が固まっていないので、お客様から『このカニ、痩せていない?』などと言われる可能性があるから」ではないか。また、「注文ごとにカニをゆでるのは、時間と手間が掛かるから」ではないか、などです。
純粋に冷たいゆでガニがおいしいというだけでなく、色々な他の理由もあり、店のゆでガニは冷たいのではないか、と私は思っています。
どうしても熱々、美味な毛ガニが食べたいという方には、虎杖浜のカネシメ松田水産が提供している商品などがお薦めです。これは、何百匹も毛ガニをゆでた汁をこして、パックした毛ガニのゆで汁と生きの毛ガニをセットしたものです。
普通の水でゆでれば、カニのうまみがゆでる水に溶け出してしまいます。そうなると、せっかくの極上毛ガニも味が薄くなります。一方で、特製ゆで汁は何百、千数百匹の毛ガニをゆでた汁です。これなら最高の状態で毛ガニをゆでることができます。
大きさによりますが、沸騰したゆで汁にカニを入れ、再沸騰したら火を弱め20分ほどでゆで上がります。あとは流水で表面のアクを洗い流せば、極上の毛ガニの完成です。
「ズボッ」とカニの身が口に飛び込む瞬間は最高!
カニの脚をもいで、歯か調理はさみで関節の狭くなった部分を切り、ストローを吸うのと同じように、一気に吸い込むと、「ズボッ」とカニの身が口に飛び込みます。このズボッを予期して、舌で喉への直行を防いでおかないと、いきなり喉へという悲劇になります。吸い慣れくると、このズボッが面白いように決まりだします。
特に生けのカニのゆでたてはジューシーなので、このズボッが簡単に楽しめます。熱々ジューシーで繊維質を感じる毛ガニの身は、本当においしいものです。
また、熱々のカニ味噌は固くはなくて、甲羅酒にも最高です。濃い黄色の肝臓だけでなく、脂分もカニ味噌を構成しているので、温度が高いと固まっていません。そのため、熱々のカニの味噌は少し水っぽいのですが、そういうものです。味噌の味は格別で、まさにすすりたい味。もちろん、甲羅酒にしても最高なのです。
自分でゆでる毛ガニの対局にある、毛ガニの甲羅詰め
一方で、毛ガニは好きだけど、殻から出すのが面倒くさいという方も多いのは確かです。こうした場合は、毛ガニの甲羅詰めなどが、カネシメ松田水産から提供されています。
朝競り落とした毛ガニを昼にはゆで上げ、氷で一晩締めてから、甲羅詰め作業に入ります。丁寧に足の先の身までほじり出し、1杯分の毛ガニを甲羅に詰めるのですが、毛ガニは可食部が多いので、まるで“毛ガニボウル”のようになります。
熱々vs.簡単、虎杖浜の極上毛ガニは、どちらもおいしいのは確か。後は、好みの問題です。読者のみなさまは、どちらがお気に召されるでしょうか?
http://business.nikkeibp.co.jp/article/jagzy/20140522/265170/