身辺無防備のほうが問題
2014年1月13日
日本の新聞記事で、オランド仏大統領(59)が仏女優(41)と愛人関係にあり、オランド氏が愛人の元へ頻繁にスクーターで訪れているとの仏芸能誌の記事が紹介されました。密会写真が掲載されているそうです。それに対し、大統領が「プライバシーの侵害」だとして、法的措置も辞さないと怒っているとのことです。この一ヶ月ほど、オランド氏の密会問題はパリのうわさとして、ずっと流れていたようですから、銃眼ならぬカメラのシャッター・チャンスとして狙われていたのでしょうか。
これにはびっくり仰天しました。かりに日本の首相が首相官邸から、あるいは私邸から、不倫相手の愛人の元にスクーターか何かで通っていることが、ばれたら、即刻、辞任に追い込まれることでしょう。同じ先進文明国、民主主義国といっても、なんという違いでしょうか。驚いたのは、浮気のスケールの大きさ以上に、大統領がほぼ無防備で夜か、恐らく深夜、それもスクーターで通っていたというくだりです。パパラッチならともかく、テロリストの標的にでもなったら浮気報道ではすまされない国家の安全保障という大問題に発展します。大統領にはボディーガードが一人ついていたという話もあります。その程度では、無防備と同じことでしょう。日本なら国会に喚問して、問いただすべきセキュリティー感覚の問題ですね。
この正月、手嶋龍一氏(元NHK)と佐藤優氏(元外務省情報分析官)が対談でインテリジェンスをテーマに語る本を読みました。インテリジェンスとは、情報収集、諜報活動でもあり、膨大な情報から核心に触れる要素をえり抜いて、精緻な分析を加え、一国の指導者が重大な決断をくだすよりどころとするものだ、とかれらは語っています。日本に最も欠けている分野で、国際情勢の舞台裏が詳述されているので、興味深く、次々に買って3冊(3部作)とも読みました。
そこに興味深い話が載っておりました。今は昔、対ロ情報・インテリジェンスの人材養成スクールだったハルピン学院(満州)でのことです。学院出身のひとが若い連中に「きみたちな、ロシア娘と遊ぶのはいい。しかし、結婚だけはやめたほうがよい」と忠告します。「分っていますよ。共産圏の連中はそういう人間も利用しますから」とこたえると、「そんなことではない。若いうちはいいが、40歳くらいになると、体があわなくなってくるのだ」とつけくわえます。
その時は「?」でした。忠告されたひとはモスクワに赴任して、ロシア人のとの間で「ロシア人は週何回するのか。日本人は何回か」という寝室の話になりました。「日本人は週2,3回だろう」と答えると、そこにいたモスクワ大学の女子学生が「ロシアではそれでは許されない。愛しているなら週16回よ」。「日本もロシアも1週間は7日、1日は24時間だ。どうやって16回なの」「出勤前に1回、家に帰って1回、土日は昼間にも1回、つまり朝、昼、晩の3回、計16回」。
このくだりを読んでいるところに、オランド氏の浮気話が飛び込んできたので、「ロシア人ではないにせよ、あちらの人はそうなんだ」と理解できました。オランド氏は現在はジャーナリスト(48)と事実婚、その前は社会党の元大統領候補、ロワイヤルさん(60)との事実婚、そして今回は、大統領選のキャペーンガールを務めた女優が相手です。浮気か不倫か区別はつかないにせよ、スケールが違うのですね。
ミッテラン大統領に優秀な隠し子の娘がいたことが発覚し、記者会見で質問を受けたとき、「エ・アロール」と一言。「それで」「それがどうしたの」という意味です。作家の渡辺淳一さんがさっそく「エ・アロール」というタイトルの性愛小説を書きました。クリントン米大統領が研修生の若い女性とスキャンダラスな性的関係を結んでばれたとき、仏の女性法務大臣は「こんなことは、フランスでは記事にならない」と切り捨てたそうです。国際機関に長く勤め、パリ在住のわたしの友人の話です。「フランス社会はグランゼコール(超エリート校)出身のエリートが牛耳っており、右も左もセックススキャンダルは問題にならない」とメールを送ってきました。恐らく、みなが同じことをやっているからでもあるのでしょう。
なるほど、なるほど。いろいろな国があるんだ。そうはいっても、スクーターで、ほぼ無防備で愛人の元にお忍びで通うとなると、話がまるで違ってきます。メルケル独首相が米国の情報機関は自分の携帯電話の通話を盗聴していたと、オバマ大統領に抗議したことがあります。スノーデン事件というか、盗聴事件は国際問題に発展しています。これなどは、一国の首相ともあろうものが、携帯電話で話すこと自体のほうが問題なのです。インテリジェンスの本を読んでいただけに、結構、欧州の首脳も間がぬけているのだ、と思いました。
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