反原発派にもリスク
2014年1月11日
1月23日告示、2月9日投票の知事選が俄然、熱気を帯びてきました。反原発派の細川元首相が同じ考えの小泉元首相の支援を受け、立候補する方向が固まってきたからです。舛添升添氏の圧勝と思われていた知事選の行方が混沌としてきました。都政には多様な政策課題があり、原発を最大の争点にすべきではないと思います。そうはいっても、細川陣営は原発を争点にするでしょうから、今回はこの問題を考えましょう。
小泉氏自身が立候補すれば、知事に当選できるかもしれません。細川氏が相手となると、接戦になっても、行政手腕がありそうな升添が勝つような気がします。政治、選挙は空気、風で決まりますから、断定はいたしません。勝敗よりも、舛升添対細川・小泉連合の戦いとなると、どちらが勝つか以上に、考えるべき重大な要素がたくさんあると思います。さらに「反原発」だけで細川氏が知事選に勝つのは難しいでしょう。しかも、かりに細川氏が負ければ、「反原発」派の受けるダメージは計り知れないものとなるでしょう。
細川氏は75歳、20年前の人、過去の人です。1993年に日本新党の代表として、38年ぶりに誕生した非自民連立政権の首相になりました。首相としては落第でしょう。94年2月3日、わたしは帰宅し、テレビをつけましたら、深夜の記者会見が開かれており、「国民福祉税構想」が突然、発表されました。驚いたというより、政治史に残る、前代未聞、空前絶後の事件でしょう。何か重大な事件が発生したというならともかく、国家財政の根幹に関わる税制、それも最も関心が高い消費税の引き上げの構想です。
事前に税制調査会などの検討、与党内の民主的議論も経ず、それもなにを思ったのか、皆が寝静まっている深夜の時間帯になってからの発表です。消費税を社会保障財源に当てる考えはいいにしても、3%から突如7%に引き上げるというのです。数字の根拠をきかれて「腰だめの部分」が含まれる、つまりさばを読んで大きめの数字にしてある、といったからたまりません。連立与党の内部でも大騒ぎになり、2月4日、白紙撤回されました。知事、国会議員を何期かやりながらも、国政、政治の素人でした。さらに佐川急便からの借入金問題が発覚し、4月8日の退陣表明で政権を放りだしました。
政治的リーダーにも政治にも不向きであると自らよく悟ったのか、引退して陶芸の趣味を生かす余生を送っているのかなと思っていましたら、反原発を陣旗に掲げ、都知事選にうってでるというのではないですか。首相は務まらなくても、知事なら務まるというのでしょうか。消費税引き上げをこんなに遅らせ、財政を悪化させた細川氏の責任は本当に重いのです。
東京は電力の大消費地です。原発の立地県というなら、「原発反対」「原発は認めない」と知事がいえば、影響は大ですね。原発問題は当然、争点になります。東京で何ができるのでしょうか。首都ですから、原発反対運動のシンボル的拠点として、援護射撃は送れるでしょう。一方、「反原発」と叫ぶなら、電力の大消費地として、エネルギー節約を強力に進め、都庁、特に知事室は冷暖房を切るとか、都会のネオン・照明は消すとか、東京湾岸に巨大な火力発電所にずらりと並べるとか、風力、太陽光発電の増強を財政支援するとか、具体的な構想を発表しなければなりません。「原発反対」「原発ゼロ」を叫ぶだけでは、行政として無責任です。
支援すると伝えられる小泉氏も同じです。首相として、原発路線を容認してきた人物としては、細川氏以上に、責任が重いでしょう。それへの反省の発言もなく、今頃になって、「原発ゼロ」叫ばれては、国民が迷惑します。
東京都は東電の大株主でした。今は原子力損害賠償支援機構が55%の株を持ち、都は1.2%の比率に過ぎません。東電に直接、影響力を振るうには少なすぎます。原発の問題点を憂慮しているというのなら、まだ分りますが、知事選にでるという真意はどこか他のところにあるのかなと思いたくなります。
ここでメディアの報道ぶりを見てみましょう。朝日新聞が活気づいています。反原発キャンペーンを続け、さらに安倍政権の安全保障政策、外交政策批判を強めるきっかけを探していたところですから、いいチャンスがめぐってきたと思っているのでしょう。
読売新聞は、これまでのところ、細川・小泉連合に関する記事はあまり見当たりません。黙殺に近いといっていいでしょう。恐らく、正式にこの話が決まった段階でどーんと論陣を張るのかもしれません。今から記事にすると、かれらの宣伝に乗せられることになってしまうのがいやなのでしょう。読売には読売の編集路線はあって当然です。ただし、報道は報道、主張は主張ですから、路線に合わない動きが出てきたとしても、記事にして読者にきちんと伝えてくれないようでは困りますね。
「原発ゼロ」ないし「原発依存度引き下げ」の道を選択した場合の問題点は数多くあります。原発は今、全て止まっているのに、エネルギー不足が顕在化していないのは、省エネ運動の浸透もあるにせよ、新旧の火力発電所がをフル稼働しているためで、電力に占める火力は9割になってしまいました。その対価として、年間3・8兆円も化石燃料の輸入代金が増えています。何年、それを続けられるのでしょうか。原発なしに、温暖化ガスの削減の国際要求を満たすことはできそうにありません。日本のエネルギーの自給率は4%に過ぎません。エネルギーの安全保障面で日本は脆弱すぎます。原子力規制委員会が認めた原発も止めよというのでしょうか。原発を今すぐゼロにしたところで、廃炉、放射性廃棄物の処理の処理の問題が消えるわけではありません。
複合的視点、国家的視点から考えるべき原発問題を、都知事選の争点にすることは、正しい道ではないでしょう。争点にしたところで都ができることには、限界があるからです。冒頭のどちらが勝つかというテーマに戻りましょう。「反原発」だけで、細川氏が勝つのは容易ではありますまい。かりに細川氏が敗北すれば、「反原発」派にとってはダメージは計り知れないものとなります。細川氏はそれをちゃんと計算しているのでしょうか。
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