現金が語る後ろめたさ 2013年11月23日
東京都の猪瀬直樹知事が医療グループ「徳洲会」から5000万円を受領した問題で、「あなたも大金を現金で受領したのか」という思いを抱きました。政界の人たちは現金が好きなのですね。小沢一郎氏もそうでした。
猪瀬氏は昨年12月の知事選で大勝しました。本人の実力で史上最多の434万票を獲得できたと考えている人はまず、いないでしょう。橋下大阪市長が率いる「日本維新の会」に石原氏が合流することになり、副知事だった猪瀬氏がその後釜に座っただけのことです。「維新」の風が吹いて、それに乗っただけでしょう。あのころ維新旋風は政界の台風の眼でした。
わたしには猪瀬氏がうさんくさい人物と、かなり前から映っていました。歳をとると、どんどん忘れることが増えてきます。その中で、決して忘れないことも結構あるのですよね。そのひとつをお話しましょう。
わたしは新聞社から、経営不振の出版社に何年か出向していた経験があります。どうやら経営が軌道に乗りだしたころ、新聞社の資金でビルを解体し、新社屋を造り、社員の気分一新を図ることになりました。そこで開いた何かのパーティーに外部の出版関係者もこられ、猪瀬氏もひょっこり姿を見せてくれました。ノンフィクション・ライターとして「ミカドの肖像」で、大宅壮一賞をとったりして、著名な人でしたから、さっそく挨拶し、名刺を交換しました。
その名刺には驚きました。名前の肩書きに「〇〇審議会委員」「△△委員会委員」など、確か二つほど、政府の審議会の名称が書かれていました。作家の名刺は本名だけか、あるいは「ノンフィクション・ライター 誰それ」と、書くのが普通です。このひとは相当な苦労人で、学生運動の経験も持ち、特殊法人や天下り問題をはじめ社会批判の著作もたくさん書いております。そんなことから、批判派の意見を聞くため、審議会の委員にという声がかかったのでしょう。
学者、評論家の人たちも審議会の委員に招かれます。まあ他には、自分の名刺に審議会の肩書きを印刷する人はいないでしょう。審議会の委員になっても、別にえらいわけでもないのに、この人は上昇志向が強く、肩書きにそう書けば権威づけになるとでも考えたのでしょうか。
もうひとつ驚いたことがあります。わたしの名刺をしばらく眺めてから、わたしに向かって「ああ、〇〇新聞」と無遠慮にいうのです。名刺には「〇〇新聞」とは、どこにも書いてありません。わたしの肩書きを見て「〇〇新聞からの出向」を連想したのでしょう。わたしの本名はちゃんとあります。普通の方は「中村さん、今後ともよろしく」です。相当に妙な人だとの印象が強く残っています。
都知事によくなれたものだと思っていたら、今度は「徳洲会」から現金を「借りた」という話が飛び出しました。記者会見の模様を読むと、「所変われば、これほど人も変わるのだ」です。事実、真実を追及する仕事を半生にわたりしてきた人物とは別人です。選挙直前に相手を訪問した後に、現金を受領しながら「選挙とはまったく関係がない」、東京地検特捜部の事件捜索後に、現金を返却しながら「たまたま遅れていただけ」、とか説得力のない答えばかりです。
「あくまで個人の借金」といいたいなら、銀行振り込みにして証拠を残しておき、きちんとした借用書を書いておくべきでしょう。後ろめたいところがあるので、札束で受け取り、貸金庫、それも妻名義の金庫に保管し、あわてて返却したのだと想像されます。相手も相手ですがね。陸山会事件の小沢一郎氏も、自宅か事務所の金庫に約5億円の現金があったそうです。現金ならだれから受領したか、どのように使ったか分らないので、後ろめたい世界の住人には、これほど都合のいいものはありません。
事件に発展するかどうかは、これからの捜査を待つしかありませし、灰色かなという気もします。はっきりしたことは、政治倫理上、この人物は相当に後ろめたいということです。本人は再選を続け2020年の東京五輪を知事で迎えたいのでしょう。その願いがかなうかどうか、分りませんね。
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