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甲子園球児のファウル打法に思う

2013年09月14日 | 社会

               

      残念な話だ    2013年9月14日

 

 夏の甲子園の高校野球で、物議をかもした選手のファウル打法は、野球のあり方を考えるうえで、本質的な問題がひそんでいるようにみえます。この打法を事実上、禁止されたこの選手は号泣したそうで、今も、きっと苦しんでいることでしょう。本当は、わたしも、そっとしておいてあげたいし、責める気持ちもありません。その一方で、日本の野球の将来を思うと、そうばかりいってはおられません。 

 

 甲子園の大会が終わって、一ヶ月近くなるのに、なぜ今ごろになって、この問題を持ち出すのか。まず、プロ野球、楽天の田中将大投手が連戦連勝、無敵の連勝記録を達成したからです。14日現在で開幕21連勝、昨季からだと25連勝です。巧みな投球術と闘志むき出しのスポーツ精神は感動的ですね。ヤクルトのバレンティン選手は今季、55本のホームランをうち、王選手の記録と並び、今季、この記録を塗り替えるのが時間の問題となっています。この選手の姿も迫力満点ですね。スポーツの醍醐味があります。イチロー選手は日米通算で4000本安打を達成し、その頭脳的プレーは、野球に芸術的ともいえる世界を切りひらいてくれました。 

 

 これらとの比較で、ファウル打法のことを再考したくなったのです。自分の特性にあった野球技術を考え、何度も何度も練習して、身につけていくことは、大切です。相手の嫌がるプレーをして、プレッシャーをかけること、この場合は四球をださせ、出塁することも、ゲーム展開では許されますよね。プロ野球にも、ファウルをしきりと打っては好球を待ち、ヒットを打つ打法が上手な選手がいます。今回の問題は、この高校球児がひたすらファウルを打つことを究極の目標にしてしまったところにあります。

 

 スポーツは、特にプロスポーツは普段の日常生活と違った世界を見せてくれるから、ファンをひきつけるのでしょう。現実の生活で死闘を演じたら、えらいことになります。スポーツの世界ではそれが許されるのです。そこがおもしろいのです。間のびしたり、はぐらかしたりでは、そっぽを向かれます。

 

 ダルビッシュ投手が米国に渡り、メジャー・リーグで大活躍です。メジャーでも第一級のレベルのプレーを見せてくれています。かれが日本を去るとき、記者会見で言った言葉が強く記憶に残っています。「日本でわたしが登板すると、相手チームは全力をあげて、戦おうとしない。勝つことをはじめからあきらめて、まともにぶつかってこない」という意味のことをいいました。手ごわい投手で、勝てそうもない、相手チームはじめから手をぬいて試合に臨んでいる、だから日本ではあまりやる気がしない、そこでメジャーで自分の本当の実力を試したいのだ、そういいたかったのでしょう。

 

 巨人の松井選手もおそらく、同じような心境で米国に向かったのでしょう。日本での試合をみていると、投手はまともに勝負していないように見えました。松井選手に対しては、投手はストライクかボールかぎりぎりのゾーンによく投げていました。ホームランを打たれるより、四球で歩かせても、まだそのほうがましと、相手の投手は考えたのでしょう。そうしているうちに、リズムが狂い、調子が悪くなってしまうのです。打者に対して逃げず、投手は真っ向勝負で挑んでくる世界にいきたい。松井は米国で真剣勝負の野球をやりたかったのでしょう。いい成績を残して、今年、引退しました。

 

 甲子園の話に戻ります。高校野球には、特別規則があり、「打者が意識的にファウルする打法は審判員がバントと判断する場合もある」と、明記されているそうです。2ストライクに追い込まれた打者が、バントまがいの打法でファウルをすると、「3バント失敗は打者のアウト」のルールが適用されるとのことです。この選手にこのルールが適用され、以後、ファウル打法が事実上、禁止されたと、記事にかいてありました。なかなか判定は難しいでしょうね。厳密な判定できるか、何度までなら許されるのか、これまでこうしたプレーがなぜ見逃されてきたのか、監督は特別規則を知ったうえで指導してきたのか。これらの点は専門家の議論に譲ります。

 

 わたしが申し上げたいのは、日本の野球はスピード感に欠け、だらだらとしたゲーム展開が多すぎるのではないかということです。監督やコーチがグラウンドに歩を運び、何度も間合いをとり、野球解説者が「いいタイミングですね」とほめます。投手は強打者には、ストライクかボールか紛らわしいところに、しきりに投球します。テレビなどで見ているわれわれは、いらいらがつのります。 

 

 プロスポーツの魅力は、野球に限らず、たくましい闘志と闘志のぶつかりあい、それが人間の本能をくすぐる、だから快感を覚えるのです。そういうプロ野球を育てていかないと、有力な選手はさらに米国に行ってしまいますよ。

 

 

 

 



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