説明責任を果たせ
2014年7月31日
与党税制協議会は7月下旬、消費税の軽減税率の導入をめぐり、新聞協会などからヒアリングをしました。12月に消費税を10%に引き上げるかどうかを決める場合、新聞も軽減税率の対象にするのでしょうか。社会の支持を深めるために、新聞界はもっときちんと説明責任を果たしていくべきだと思いますね。
わたしは、生活必需品を中心に軽減税率を導入しなければならないと考えます。財政再建、社会保障費の財源確保のためには、消費税の引き上げ(1%で2兆5千億円)しか主要財源はありません。ずっと先まで見通すと、欧州並みの20%、すくなくとも15%に近づいていくしかありません。1000円の買い物をしたら200円(消費税20%)を消費税で支払うのでは、消費者にとって相当な重荷です。
低所得層ほど負担感が重く、年収2、300万円の所得層が多くなっておりますから、必需品を中心に税負担を軽くしないと、暮らしは厳しくなります。安倍政権は物価上昇率を年2%、政策的に引き上げるつもりです。どんどん消費税が上がり、それと2%インフレが同時に進んだら、購買力がそがれ、相当な消費不況に襲われます。脱デフレどころか、デフレに逆戻りかもしれません。政治的にも、消費者の反発が強まり、与党は選挙に負けるでしょう。選挙対策の意味でも軽減税率は不可避です。消費税を今後も引き上げていくうえでも、軽減税率を導入し、国民の抵抗感をなくしていくことは必要です。
次の課題は、新聞、書籍・雑誌などもその対象に含めるのかです。与党のヒアリングに対し、白石新聞協会会長が、10%に引き上げる際に新聞購読料に5%の軽減税率を適用するよう求めました。すでに8%になっている消費税を5%に戻すのは、現実的には無理な話で、これは駆け引きでいっているのでしょう。以前、社説で「14年4月の3%引き上げは見送り、15年10月に10%へ。その時は新聞を含め軽減税率の導入を」と提言したことも尾を引いているのでしょう。
白石会長は「新聞は知識水準の維持・向上、文化の発展、ひいては民主主義を守る必需品だ」と述べ、その指摘には、わたしも賛成です。新聞より幅をきかせているようなテレビの報道番組でも、キャスターにとって新聞は必読の存在であり、新聞論調の影響を強く受けていると見られます。知識社会、情報社会の基軸のひとつが新聞であり、健全な新聞は必要ですね。
白石会長の発言には、これまで新聞界が触れてこなかった部分があり、「どきっ」と思ったところがあります。軽減税率を適用する新聞の範囲を「1回の発行部数にしめる発売部数が8割以上」とするとの部分は極めて重要な意味を持ちます。
新聞記事(7月30日の読売新聞)では、発言の要点だけ伝えていましたので、新聞協会のホームページを開いてみました。「声明、見解、新聞界の動向」のところで白石発言が載っております。新聞記事並みかそれ以下の要約に過ぎません。怠慢ですね。「1回の発行部数」の「1回」という意味は分りませんし、発言のもっと詳しい説明、解説が必要です。
これまで新聞界は発行部数に触れることはあっても、発売部数に触れることはまずなかったように思います。この二つを使い分けているところを見ると、発行部数はおもに印刷部数、発売部数は実売部数(実際に読者が買った部数)をさしているのでしょう。協会のホームページには「新聞の発行部数 4699万部、一般紙4312万部 2013年」などとなっており、発売部数(実売部数)の紹介はありません。
新聞界では、これまで発売部数(実売部数)に触れ、それを公表することは、最大のタブーでした。白石会長はそのタブーに踏み込む決断をしたと受け取れますね。コンビニや駅売りでは、相当数の返品があります。その部数は大して大きくないので、発行部数と発売部数の実質的な差は、新聞販売店に直送した新聞の売れ残りに相当すると、考えているのでしょうか。それを2割以下とすることを示唆した白石発言は大きな波紋を呼ぶことでしょう。直販制をとっていれば、売れ残りが少なくなるはずです。そのわりには、「2割」の差とは相当に大きな数字ですね。発売部数を基準にしている広告収入に影響がでるかもしれません。
そこまで発言をしたからには、今後、新聞界全体および各社ごとの発売部数(実売部数)を公表していかなければなりません。その大きな差(販売店に滞留した部数)こそが新聞社や販売店の経営を圧迫しているというのが業界の常識です。公共財として軽減税率の適用をうけるからには、その差がどこからきているのか、収益をどの程度、圧迫しているのか、の説明を求められます。
白石発言が触れなかったいくつかの重要な論点もあります。列挙してみましょう。
・消費税引き上げを契機に、新聞購読をやめる読者は少なくないと思います。今、月々4000円弱の購読料のうち消費税は約300円です。負担は決して小さくありません。では、4月の消費税引き上げ(3%)の結果、どの程度の部数が失われたのか。そこが肝心なのに、そのデータは公表されていません。
・毎年、地方紙一社分もの発行部数(10年で600万部)が減り、経営が苦しい新聞社が増えております。新聞社は非上場で経営の実態がよく分りません。新聞を公共財として軽減税率の適用を求めるなら、消費税が圧迫している経営状況を公にしていくのが、新聞界の責務だと思います。
・新聞社が自ら始めたネット新聞の影響です。若い世代の活字離れを後押ししているのが、ネット新聞、その背後にある情報伝達のネット化です。新聞もその流れを無視できず、新聞のネット化に力をいれています。その影響はどの程度なのか。もっともネット化が進んでいる日経新聞は多数の有料購読者を獲得し、会社全体の経常利益は朝日新聞に並ぶほどの高収益企業です。ネット新聞は紙の新聞の足元を侵食することが分っていても、ネット化に取り組む。その影響を強く受けている新聞社もあります。この問題をどう考えるかです。
・新聞への軽減税率の適用によって、税収はどの程度、減るとみられるのか。また、軽減税率が適用されても、仕入れ(紙、インク、燃料費、輪転機、その他の機器など)には標準税率で消費税がかかります。仕入れにかかった消費税をどう購読料に上乗せするのか、しないのか。横並びだった新聞料金は新聞社によってかなりばらつきがでるようになるのか。標準税率でなくなることで、やっかいな問題もでてきますね。
世論調査では、軽減税率の導入を70%が支持しています。恐らく新聞も適用されることになるでしょう。そのためには、新聞界が説明責任を果たすべき論点はいくつもあります。みずからに厳しい説明責任を課すべきではないでしょうか。
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