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日経「私の履歴書」の読み方

2014年01月22日 | 経済

人材を創るグローバル体験

                           2014年1月22日

 

 都知事選で原発問題がどういう位置づけになるのかをブログのテーマにしようと思い、細川・小泉元首相連合の選挙公約の発表を待っていました。発表がどんどん遅れ、まだ詳細が分かりませんので、今回は愛読している経済専門紙・日経の「私の履歴書」に対する感想を紹介することにしました。

 

 「私の履歴書」はわたしにとって必読のコラムです。ひと通り新聞に目を通してから、じっくり読み、切り抜いて保存しています。一流の人材はどのようにして創造されるのかに興味があるし、企業経営者が登場人物になった場合は、自分が関係する経営問題の参考にしようとした時期もありました。

 

 今は第一線を退いている日経の幹部に「このままだと、履歴書に登場してもらう人物、特に経済人が見当たらなくなるなるのではないですか」と、何度、問いかけたことでしょうか。経済人が登場する場合、書き方が枠にはまっていました。だいたいが貧しい戦前の生活、次に戦争体験、というより敗戦体験が根底にあり、戦後の荒廃の中からどう立ち上がっていったかという物語がベースになっていました。実力社長、会長になった人たちの多くは、戦後の復興期、経済成長期の波に乗り、長期政権を確立したのです。今の時代からみると、想像もできないくらいすさまじい苦労があったことは間違いなく、読ませるのに十分な面白さはあったものの、ワンパターンなのです。

 

 日経の幹部にいいました。「まるで戦争体験、敗戦体験がないと、第一級の人材として育ち、成功しないみたいな履歴書が多すぎる。戦後、何十年も経ち、そんな人材はいづれ尽きるでしょう。どういう体験が人材を育てるのか、新しい視点を持つ必要があるのではないか」と。愛読しているコラムであるがゆえに、余計な心配を申しあげたのです。日経もそのことには気がついているのでしょう。「履歴書」のストーリーの展開に変化が起きているような気がします。

 

 ひとことでいうと、海外における人生体験、おおげさにいうとグローバル体験こそが人材を育てる時代になったということです。国内の小さな業界、分野で生き残っていく場合は国内体験だけでもいいのでしょうね。もっと飛躍し、世界の第一線、最先端で活躍しようと思えば、企業人でも芸術家でも、学者でも、若いうちからグローバル体験をしないと、大成しないのです。日経はそういう人物を発掘し、シリーズに仕立てる努力をしているように見受けられます。

 

 「履歴書」で今、やっているシリーズは、指揮者の小澤征爾さんのシリーズです。音楽学校を卒業するころ、来日した米国のオーケストラが演奏するブラームスの交響曲1番を聴き「その音にいきなりぶっとんだ。日本のオーケストラとは響きがまるで違う」。こういうショックが音楽観、人生観を変えるのですね。「音楽をやるなら、外国にいって勉強するしかない」。そういう思いを固め、苦労に苦労を重ね、海外に行き、海外で経験を積み、一流への道を歩みます。

 

 小澤さんは音楽的才能があったばかりでなく、人並みはずれて、神経がず太かったのでしょう。世界的指揮者だったミンシュ氏をつかまえて「弟子にしてくれ」と体当たりで頼みこみます。弟子にはなれなかったものの、レッスンを受けるチャンスがめぐってきます。手を取り、足を取りという教え方ではありません。ミンシュ氏はフランス語でしきりに「スープル、スープル(柔軟に)」というだけです。小澤氏は「指揮をするのに力を入れてはいけない。音楽を感じていれば、手は自然に動くのだ」と、指揮の極意を悟ったといいます。カラヤンやバーンスタインとも顔なじみになり、かわいがられたそうです。海外における一流の人物との出会い、交流が小澤氏を育ていくのです。

 

 昨年10月のシリーズは、ノーベル賞受賞者の分子生物学者(免疫学)、利根川進さんの人生航路でした。大学受験の頃、大学生の頃はそれほど優秀な学生ではありませんでした。海外に留学して、研究の第一線の動きに肌に触れ「免疫学には、抗体の多様性という未解決の問題がある」と知ります。「分子免疫学という学問の分野が創出され、免疫学では、これが主流になっていく。自分が貢献できて幸運だった」と述べています。

 

 「履歴書」で日経が工夫しているらしいのは、外国人を年に1、2回くらいは、登場させるようにしていることです。昨年12月は米国のマーケティング学者、コトラー氏を取り上げました。アメリカはグローバルな世界そのものです。コトラー氏はその米国にとどまらず、若いころインドで研究生活を送ったり、日本になんども来たりして、グローバル体験を深めていきます。「産業、企業ばかりでなく美術館、演劇、都市、地域、宗教などもひとをひきつけるには、マーケティングの考え方が必要だ」という柔軟な考えのひとです。

 

 猛烈社員として休日返上で働き、ダントツの営業成績を上げ、社長にたどりついたという人物も「履歴書」には登場します。それは大切なことです。新しい時代にもっと大切なことは、グローバル体験により新しい発想、思考方法を身につけて、頭の中で創造的化学反応を起していくことでしょう。国内でも、武田薬品が英国の薬品業界の経営者を新社長に迎えると発表しました。ソフトバンクは米国の携帯電話会社を買収し、売り上げ高が世界第3位になるそうです。国内市場のシェアだけを競う時代ではなくなったとの判断でしょう。時代は急激に変わりつつあるのですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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