失意の黒田氏の再任はない
2016年11月3日
黒田日銀総裁が消費者物価引き上げの公約について、5回目の先送りを決めました。達成時期を「2018年度ころ」としており、ご自分の任期が切れる18年4月までに間に合いそうにありません。つまり任期中の実現が困難になりました。景気はよくない、賃金は上らない状況の時に、物価だけ無理やり上げると、生活は苦しくなりますから、多くの国民はほっとしているでしょう。
実際は「18年度中」でも難しい経済情勢なのに、なぜ「18年度ころ」としたかといえば、安倍首相が「消費税を10%に引き上げる時期を19年10月に延期する」と、約束していることと関係しているでしょう。そのころまでに景気が好転し、その結果として物価も上がっていないと、消費税も引き上げる環境が熟さないからでしょう。役人らしいつじつま合わせの見通しですね。
18年といえば、4月に黒田総裁の5年の任期が切れます。このことが1日の記者会見で取り上げられ、「あなたの再任はあるのか」と、問われました。会社の社長ではありませんから、そんなことを聞いても答えようがありません。「国会がお決めになることなので、ノーコメントです」と、質問をかわしました。
噂される二人の人物
実はすでに「次の総裁は誰か」がその筋で話題になっております。「異次元金融緩和によって、経済心理を劇的に変え、2年で2%の消費者物価の上昇を実現する」との公約を何度も先送りしてきた失意の総裁に代わるのは誰か。再任を打診されても、本人は受け入れるほど鈍感ではないでしょう。アベノミクスの失点になっている安倍首相も再任を考えないでしょう。
では誰なのか。首相の側近である本田・前内閣官房参与(現在スイス大使)か、これも首相が評価する岩田日銀副総裁という二人の名前が流れています。かなり先のことなので聞き流すとしても、風評は風評としても、相当に違和感を持つ人事構想です。かりにかれらが本命とすれば、安倍首相は異次元金融緩和に強いこだわりを持っていることを意味します。
本田大使は財務省出身で、現役時代の力量は目立つほどでなく、地方大学教授に転身していました。夫人同士の縁で首相と親しくなり、官房参与に抜擢されました。消費税引き上げの先送りを2度も進言し、その通りになりましたし、そのことを事前にあちこちで公言する役回りで、官邸の露払い役といわれました。スイスに赴任後もしばしば帰国しているとの噂です。
辞任して責任を取るといった人も
岩田副総裁は黒田総裁以上、強硬なリフレ派(超金融緩和による景気、物価の押し上げ派)だそうです。黒田総裁と同時に就任した際、「異次元緩和で2年2%の物価引き上げが実現できなければ、自分は辞任する」と、大見えを切った人物です。かりに総裁になったら、また、同じことを公約するのでしょうか。副総裁だから気楽にいえたとしても、総裁になったらそうはいきません。
私は風評で終わることを願っています。「経済の長期停滞期に入り、経済成長率は低迷し、物価も上がらない。人口減の日本は特にそうだ」。「国内経済は外的要因で大きく左右される時代になり、国内金融政策だけでは物価目標を達成できない」。「デフレ脱却を急ぐとまでいっても、中央銀行がその時期を明示するのは乱暴すぎる」。「無理を続ければ、日本経済に大きな後遺症を残す」。このあたりは常識の範囲です。2人はどう考えているのでしょうか。
根深い二派の対立
日銀は9月に量的緩和中心の政策を、「長短金利操作付き量的、質的金融緩和」という小難しい表現に変えました。市場関係者の間では「量的緩和の修正なのか、金利重視型への転換なのか」と、議論は尽きません。議論が割れるのも当然かもしれません。日銀政策委員会では、今後の金融政策について、審議委員の意見の対立があるそうです。
路線変更を拒否するリフレ派と、量的緩和は壁にぶつかりつつあるとする修正派の対立です。リフレ派の筆頭が岩田副総裁とか。当然、官邸筋の意向を受けての話でしょう。だから黒田氏も逆らえません。私は「すでに分厚い壁にぶつかりつつある」との考え方軍配をあげます。それがこの二派の調整はどうにもつかないので、両者の主張を足して2で割った、という情勢分析を聞いたことがあります。金融政策の解説が割れるはずですね。
ともかく、異次元緩和の継続派が矛先を収めていないようなのです。安倍首相は3選される見通しです。意中の人物を総裁に据え、異次元緩和を継続していったら、金融正常化(量的緩和策の停止、修正)という出口がますます遠のき、先行きどうなるかと、心配でたまりません。
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