共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

奈良時代の一木造の名品たち〜《奈良・大安寺の仏像》展

2023年01月08日 15時15分15秒 | アート
昨日の《松林図屏風》特別公開に続き、今日は東京国立博物館で開催されているもう一つの展示についてご紹介しようと思います。それが



特別企画《大安寺の仏像》展です。

奈良の大安寺(だいあんじ)は、日本で最初の官営寺=国によって建てられた寺です。古くは舒明天皇が発願した百済大寺(くだらのおほてら)や高市大寺(たけちのおほてら)に始まり、その後藤原京に建てられた大官大寺(だいかんだいじ)と名前や規模を変えながら、平城京遷都に伴って現在の地に移築した時に大安寺という名前になりました。

現在の大安寺は、東大寺や興福寺がある奈良公園と、薬師寺や唐招提寺が建ち並ぶ西ノ京との中間地点にひっそりと建つ小さななお寺です。しかし、かつては境内に90余の堂宇が建ち並び、800余名もの僧侶を擁した巨大寺院でした。

近年、奈良文化財研究所監修の下で製作された再現画像では



南大門に金堂や講堂をはじめとしたいくつもの巨大な建物が建ち並び、その前には



巨大な七重塔が東西に二基建ち並ぶ『薬師寺式』と呼ばれる伽藍配置を誇る、正に大寺であったことが分かります。俯瞰図で見ると境内には



杉山古墳という天皇の墳墓たる古墳まで擁してしまっていますが、これも官営寺だからこそ可能だったことでしょう。

大安寺の特徴的な点といえば、奈良時代に製作された木彫仏が多く遺されているということです。これらはいずれも一本の大木から彫り出された一木造(いちぼくづくり)で作られていて、優れた身体表現や細やかな表現が素晴らしいものばかりです。

今回の展覧会ではフラッシュを焚かなければ写真撮影がOKということでしたので、お言葉に甘えて撮影させていただくことにしました。お寺では絶対にできないことですから、そういった意味でも貴重な機会です。

本館1階11室に設けられた会場に入ると



ガラスケースに入った四天王の一人『多聞天』が出迎えてくれます。

左手を腰に当て、戈(ほこ)か戟(げき)を携えていたであろう右腕は力強く振り上げられています。丁寧にまとめられた太い体つきは奈良時代彫刻の伝統的な特徴ですが、一方で身に着けた鎧には



緻密な文様が彫り込まれていて、こうしたところには唐時代の彫刻表現の影響が見られます。

こちらは360度展示となっているため、お寺ではあまりよく観ることのできない仏像の背面をしっかりと観ることができるようになっています。勿論、『多聞天』の背面も



ガラスケース越しにしっかりと拝見することができました。

その先に進むと、江戸時代に作られた弘法大師像の向こうに



大安寺を代表する仏像『楊柳(ようりゅう)観音菩薩立像』が展示されています。観音菩薩というと慈愛に満ちた穏やかな表情が多く見られる中で、楊柳観音菩薩は観音菩薩としては珍しく目をカッと見開いて口を大きく開く忿怒の形相が特徴です。

均整のとれたプロポーションや衣の柔らかな質感も見事で、着衣にはわずかに彩色の痕が残っています。そして更にこの観音菩薩立像が特徴的なのが、通常なら蓮華座の上に裸足で立つところを



ゴツゴツした岩座の上に履物を履いて立っている点です。

こちらの展示でも、普段はまず目にすることのできないや仏像の背面も見られることです。楊柳観音菩薩立像も背面を見ることができるのですが、





礼拝対象として絶対に目にされることのない像の背面にまでも隙のない造形が施されていることが分かります。

その隣には



『聖観音菩薩立像』があります。こちらも頭部から



足元の履物までを一木から彫り出していますが、制作当時は下の岩座まで一木で彫り出していたのではないかともいわれています。

衣の細かな襞や柔らかな身体表現は天平時代の彫刻の特徴が、一方で胸に刻まれた装飾の緻密な浮き彫りには唐からの影響が色濃く表れていて、伝統的な天平彫刻と大陸からの新しい表現とを巧みに融合した奈良時代木造彫刻の名品のひとつとなっています。こちらも背面が観賞することができて





楊柳観音菩薩立像と同様に、柔らかいながらも細部にまで隙のない造形を見ることができます。

そして、部屋の一番奥には



『不空羂索(ふくうけんさく)観音菩薩立像』が展示されています。八本の腕は後の時代に作られたものですが、それ以外は頭の先から台座の蓮肉まで一木から彫り上げられています。

全体に木のもつ重厚感が発揮されていていますが、弾力を感じさせるような肌や柔らかな衣の表現には天平期に流行した乾漆造(かんしつづくり)像の特徴も見て取れます。勿論、こちらも





しっかりと背面を拝見してきました。

この他にも、先程の『多聞天』とセットの



『広目天』や



『増長天』



『持国天』も揃い踏みしていて、見応えのある展示でした。

普段は見られないような角度から貴重な奈良時代の一木造の仏像を堪能できるこの展示会は、3月22日まで開催されています。日時指定も必要なく常設展のチケットで入場できますので、興味をもたれた方は是非おいでになってみてください。


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