全国ニュースにもなりましたが、恐れていた事態が起きてしまいました。私が住まう厚木市でも、遂に新型コロナウィルスの集団感染が確認されたのです。
発生場所は本厚木駅からも程近い相州病院という精神科内です。感染経路が不明ながらも、入院患者と看護師に新型コロナウィルス感染の陽性反応が出たということでした。緊急事態宣言が発令されてから極力自宅待機に努めていますが、こうして生活圏内に魔の手が忍び寄って来ていると、やはり心穏やかではありません。
さて、先日SNS上で話題となっている『アマビヱ』を紹介しましたが、この他にも疫病に関する日本美術があります。それが、現在奈良国立博物館に所蔵されている国宝《辟邪絵(へきじゃえ)》です。
《辟邪絵》は平安末期から鎌倉初期にかけての12世紀頃に描かれた絵巻物で、かつては後白河法皇が建立した蓮華王院(三十三間堂を擁する寺院)が所蔵していたことが伝わっています。仏教説話を元にした《地獄草紙》《餓鬼草紙》《病草紙》といった、人間の生老病死を表す『六道絵』のひとつとして制作されたものと考えられています。
元々は絵巻物だったのですが、大正期に実業家で茶人でもあった益田孝(益田鈍翁)によって切断され、現在のかたちになりました。因みにこの益田鈍翁、《佐竹本三十六歌仙絵巻》等の様々な絵巻物を切断して御軸に仕立ててしまったりと、かなりやりたい放題やった通人でもあります。
話を戻しますが、《辟邪絵》は疫病を組み伏せたり喰らったりして調伏する神々を描いた作品です。上の写真はその中のひとつ『天刑星』という憤怒の形相の神様の絵で、四本の腕で疫病たる鬼を引きちぎり、左側に置いてある鉢の中のお酢に浸してムシャムシャと食べている様が描かれています。
《辟邪絵》にはこの他にも、端午の節句で見かける鍾馗様や四天王のひとりである毘沙門天等も描かれています。中世の人たちはこうした神像を観て、世に蔓延した疫病の調伏を願ったのでしょう。
益々混迷の度合いを深める昨今ですが、こうした神々の存在を感じながら辛抱することが、日本人にとって大切なのかも知れません。今は何よりも自身がコロナに罹患してしまわないよう、また、自身が知らぬ間にウィルスの運搬役になってしまわないよう、十分に気をつけて日々を過ごしたいものです。