今日は二十四節気のひとつ『立春』です。外は凍えそうな寒さですが、暦の上では誰が何と言おうと今日から春です。
そんな立春の今日、私はとあるところで開催されたミニ演奏会に出演していました。極々内輪の演奏会なので会場や出演者等の写真撮影はNGだったのですが、和気藹々とした楽しい演奏会となりました。
私は主催者から依頼されて、ベートーヴェンの《ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調『春』》を演奏しました。
この曲を演奏するのは十数年ぶりだったので不安がありましたが、何とか皆さんに喜んでいただけたようでした。
《ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調》は、ベートーヴェンが1800年から1801年にかけて作曲したもので、全体に幸福感に満ちた明るく暖かなメロディであることからから『春』の愛称でも親しまれています。ただ、数々のヴァイオリンの名曲を世に送り出したベートーヴェンですが自身のヴァイオリンのテクニックは稚拙だったそうで、ソナタのメロディやリズムは、ピアノのものが中心になっているそうです。
第1楽章はヘ長調、4/4拍子のソナタ形式。ピアノの伴奏に乗って、ヴァイオリンで有名な第1主題が歌われます。
主題は10小節のもので、順次進行で下降したあと跳躍を含む音型が3回繰り返されて、もりあがって終わるというバランスの美しい旋律です。
その旋律がピアノで繰り返されたあと、第1主題と対比して和音連打による第2主題が導かれます。コデッタは連打による動機の模倣と音階によるもので、展開部は第2主題が使用され、再現部は提示部と逆にピアノからヴァイオリンの順で第1主題が奏されます。
第2楽章は変ロ長調、4/3拍子の三部形式(または変奏曲形式)。分散和音の伴奏に乗って美しい旋律がピアノ、ヴァイオリンの順で歌われます。主題が再現する際には、装飾的な変奏、転調などで彩られています。
第3楽章はヘ長調、4/3拍子のスケルツォ。音階が跳ね回るように上がったり下がったりする主部と急速なトリオからなる、かなり短い楽章です。
第4楽章はヘ長調、2/2拍子のロンド形式。
A – B – A – C – A – B – A – コーダ
の構造を持っています。
軽やかなAの主題は、同音が3回連打されることで印象づけられます。それに、ハ短調に陰るなど様々な要素を持つBと、3連符とシンコペーションのリズムを伴うニ短調のCが絡んでAの主題がニ長調で再現され、喜びに満ちたまま曲は終わります。
しかめっ面の肖像画でお馴染みのベートーヴェンからすると、
『どうした…?』
と思うくらい全体に浮かれた明るい曲ですが、あまり難しいことを考えずに聴いてもらえるのがこの曲のいいところでもあります。聴いていただいた方々にも、この明るい雰囲気を喜んでいただけたようです。
そんなわけで、今日はベートーヴェンの《ヴァイオリン・ソナタヘ長調第5番『春』》をお聴きいただきたいと思います。ミドリ・セイラーのヴァイオリン、ジョス・ファン・インマゼールのフォルテピアノでの演奏で、春を思わせる暖かなメロディをお楽しみください。