昨日の天気予報の通り、今日は冷たい雨の降る一日となりました。運動会が先週の土曜日で、本当によかったと思います。
ところで、今日11月2日は《ハイドンの主題による変奏曲》が初演された日です。
《ハイドンの主題による変奏曲》は、
ブラームスが1873年に作曲した変奏曲で、《ハイドン変奏曲》の略称や《聖アントニウスのコラールによる変奏曲》の別称でも親しまれている作品です。先に2台ピアノ版(作品56b)が書かれ、次に管弦楽版(作品56a)が完成し、同年11月2日にウィーン楽友協会ホールで初演されました。
1873年頃のブラームスは指揮者としても活躍中でしたが、交響曲第1番の構想中でもあり管弦楽に強い関心を持っていました。この曲は、管弦楽曲としては1859年、26歳の時に書かれた《セレナード第2番》以来14年ぶりの作品です。
ブラームスがこの主題を取り上げたのは1871年、ブラームスが38歳の時にウィーン楽友協会の芸術監督に就任したことが大きなきっかけでした。
ブラームスは、当時楽友協会の司書で音楽学者であり、ハイドン研究家だったカール・フェルディナント・ポールという人物と親しくなりました。ポールは以前から当時ハイドン作とされていた《ディベルティメント Hob II.46》の写譜稿に関心を持っていて、そのパート譜から総譜を独自に書き上げていました。
すでにポールと知り合いだったブラームスは1870年頃にこの総譜を見ていたようですが、楽友協会の芸術監督就任後にポールと再会したことによって、ハイドン変奏曲の構想を拡大させたといわれています。ブラームスが主題に用いたのは、その《ディベルティメント》の第6曲の第2楽章で、冒頭に『コラール聖アントニー』と記されていたことから《聖アントニウスのコラールによる変奏曲》とも呼ばれていますが、近年の研究によってこの《ディベルティメント》はハイドン作ではないのではないかといわれています。
《ハイドンの主題による変奏曲》は、主題と8つの変奏曲、終曲から成ります。
●主題 アンダンテ 変ロ長調 2/4拍子
最初にオーボエとファゴットにより主題が提示されます。低弦楽器がピッツィカートを奏でる中、オーボエが中心となって音楽が進行します。
●第1変奏 ポコ・ピウ・アニマート 変ロ長調 2/4拍子
弦楽器がゆったりと流れるように歌います。8分音符と3連符、上行する旋律と下行する旋律が組み合わさって、奥行きのある響きを作り出しています。
●第2変奏 ピウ・ヴィヴァーチェ 変ロ短調 2/4拍子
主題冒頭の付点リズムを利用した変奏で、強弱の変化に富んだ躍動的な旋律が印象的です。
●第3変奏 コン・モート 変ロ長調 2/4拍子
オーボエとファゴットが8分音符を主体とした牧歌的な旋律を歌い上げます。この旋律は、弦楽器へと引き継がれていきます。
●第4変奏 アンダンテ・コン・モート 変ロ短調 3/8拍子
オーボエとホルンがゆったりと奏でる旋律がヴィオラの細かい動きと組み合わさって、憂いを帯びた雰囲気を作り出しています。そして、弦楽器と管楽器が入れ替わりながら音楽が進んでいきます。
●第5変奏 ヴィヴァーチェ 変ロ長調 6/8拍子
一変して活動的な変奏となります。3拍ずつのまとまった旋律がスタッカートで演奏されますが、休符やスフォルツァンドによって拍子感が乱されます。
●第6変奏 ヴィヴァーチェ 変ロ長調 2/4拍子
活動的な変奏が続き、弦楽器のピッツィカートにのせてホルンとファゴットが美しい和音を軽快に奏でます。後半は弦楽器も加わり、変奏曲はクライマックスを迎えます。
●第7変奏 グラツィオーソ 変ロ長調 6/8拍子
シチリアーノ(舞曲の一種)による変奏で、始めにフルートとヴィオラが優しく穏やかに奏でます。
●第8変奏 プレスト・ノン・トロッポ 変ロ短調 3/4拍子
暗く密やかな変奏で、弦楽器と管楽器が交替しながら8分音符で不気味に動き回ります。
●終曲 アンダンテ 変ロ長調 2/2拍子
最初にバスによって提示されたフレーズが16回繰り返され、変奏されていきます。終曲自体が小さな変奏曲となっていて、最後に再び現れた主題は壮大なコーダへと続き、この変奏曲は華やかに締めくくられます。
そんなわけで、今日はブラームスの《ハイドンの主題による変奏曲》をお聴きいただきたいと思います。ジョージ・セル指揮によるクリーヴランド管弦楽団の演奏で、なんとも多彩なブラームスの変奏曲の世界をお楽しみください。
因みに、今回は先に完成した2台ピアノ版も載せてみました。お時間がありましたら、管弦楽版との響きの違いをお楽しみください。