今日も暖かなお天気となりました。桜の花も散り始め、桜吹雪が風に舞う美しい光景が見られるようになりました。
ところで、今日4月7日は宮城道雄の誕生日です。
宮城道雄(1894〜1956)は、神戸市に生まれた日本の作曲家・箏曲家です。
7歳の時に失明した宮城道雄は、この失明が転機となって音楽の道を志すことになりました。8歳で生田流箏曲の門を叩くとその才能を開花させ、弱冠11歳で免許皆伝となったといいます。
1930(昭和5)年には東京音楽学校(現東京芸術大学)講師となり、1937年同校教授となりました。1953年にはフランス、スペインの国際民族音楽舞踊祭に日本代表で参加して絶賛を浴びましたが、1956(昭和31)年6月25日に関西への演奏旅行の途上、東海道線刈谷駅付近で夜行列車から転落して亡くなってしまいました。
宮城道雄は作曲だけでなく新たな楽器の開発にも取り組みましたが、その中で生み出されたもののひとつが
十七絃箏という低音域の箏です(写真左)。宮城道雄はこの楽器のための作品も数多く遺していて、現在でも箏曲アンサンブルの貴重なレパートリーとなっています。
その後も宮城道雄は二十絃箏などの大型楽器を次々と開発していきましたが、その究極型が
八十絃箏という巨大箏です。これは88鍵のグランドピアノとほぼ同じ音域をカバーするものでしたが、あまりの巨大さと調弦や演奏の複雑さ故に実現化することはありませんでした。
宮城道雄が開発した八十絃箏は太平洋戦争で消失してしまいましたが、
戦後に再現したものがあります。ただ、これも演奏されることは殆どないようです。
戦後に再現したものがあります。ただ、これも演奏されることは殆どないようです。
さて、宮城道雄の代表作といえば何を置いても尺八と箏との二重奏曲《春の海》でしょう。タイトルだけ聞いて分からない方も、よくお正月になるとあちこちから流れてくる和風BGMといえばピンとくるのではないかと思います。
《春の海》は1929(昭和4)年に、翌年の歌会始の勅題『海辺巖』に因んで、かつて宮城自身が瀬戸内海を船で巡った時の印象を基にして制作されました。瀬戸内の穏やかな波の音や鳥の声、船頭の舟唄などが織り込まれ、麗かな春の風情が音で紡がれています。
この《春の海》が本格的に有名になったのは、フランスの女流ヴァイオリニストのルネ・シュメー(1888〜1977)が尺八パートをヴァイオリン用にアレンジしたものが1932(昭和7)年にレコーディングされたことでした。このレコードは日本だけでなくアメリカやフランスでも発売され、この作品の知名度と評価を世界的に一気に押し上げたのでした。
現在ではオリジナルの編成は勿論のこと、尺八パートをヴァイオリンやフルートで、箏パートをハープやピアノで演奏されることもあります。私も2度ほどヴァイオリンで演奏したことがありますが、冒頭の舟唄感を出すのはなかなか難しいと感じています。
最近はどうしてもお正月の和風感をかもし出す音楽として使われがちな作品ですが、この曲は正月の海ではなくあくまでも『春』の海ですから、むしろ桜の咲く今の時期にこそ聴くべき曲です。
ということで宮城道雄の誕生日である今日は、この作品の世界的評価を高めるきっかけとなったルネ・シュメーのヴァイオリンと宮城道雄自身の箏との共演を収録した1932年のレコードをお聴きいただきたいと思います。桜の季節に、尺八での演奏とはまた一味違う《春の海》をお楽しみください。