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いざ!

 いよいよ入試が始まる。この日のためにずっと頑張ってきた生徒たちが日頃の成果を試すときがやってきた。私にとっても己のやってきたことが正しかったどうか審判が下される時であるから、心は自ずと引き締まる。
 21日(土)にセンター試験が始まる。しかし、高校3年生ともなると自分たちの力でなんとか乗り越えて行ってくれるので、さほど心配はしないですむのだが、私立中学入試の場合はとてもそんな余裕を持ってはいられない。まず21日に最初の入試がある。偏差値的には低い学校だが、ここで入試本番のピーンと張りつめた空気を体験させ、少しでも場馴れさせようという意図の下に受験させるため、逆に絶対に取りこぼしができない。子供たちには普段どおりにやれば必ず合格できる学校だから、とにかく落ち着いて本番の試験がどんなものなのかをしっかり味わって来い、と言い聞かせている。
 その後、1週間毎の土・日に、当地の私立中学入試が行われるため、生活のリズムや体調を整えながら、2月12日の最終の入試まで決して気を抜くことができない日々が続く。受験生も私も長く苦しい戦いになるが、良い結果を信じて頑張るしかない。
 しかし、ここまで来たら、どれだけ勉強したかではなく、どれだけ落ち着いて普段の力が出せるかが合否の分かれ目となる。いくら模試などで合格確率が低いとされた生徒でも、何かの拍子に受かってしまうことがあるのが中学入試だ。それだけ小学生には不確定要素が多い。当日の体調は勿論のことだが、気持ちの持ちよう如何でかなりのプラスαが期待できる。昨年も、中堅校までしか合格できないだろうと私が危ぶんでいた生徒が、一気に上昇気流に乗って受験した学校全て、トップ校まで合格したのには驚いた。少子化とゆとり教育の影響によって、私立中の合格レベルは年々確実に下がってはいるが、私の予想をはるかに超えたこの生徒の強運さ、本番での強さには本当に舌を巻いたし、小学生の可能性を大人の柔軟性に欠けた頭で判断してはいけないと、目から鱗が落ちた思いだった。
 しかし、この小学生の土壇場での踏ん張りを引き出したのは、私の塾秘伝の「梅干」であると私は密かに思っている。以前も書いたことがあるが、京都北野天満宮で販売されている「神梅」なるものを受験生全員に配り、実を食べて残った種をお守りとして携行すれば「受験の神様がきっと力を貸してくれる」と勇気付ける。すると皆素直に受け取って、食べられる者はその場で食べ、梅干が苦手な者は家に持ち帰って家族に食べてもらい、種をお守りとして大切に持って行ってくれる。中には何故梅干なのかと尋ねる者もいるので、「それはその神社に菅原道真が祀られているからだ。菅原道真といえば学問の神様だ。学問の神様が祀られた神社の境内にある梅の木から採れた梅を使っているから、効果抜群に決まっている。信じてちゃんと持っていろよ」と怪しい宗教家めいた言葉で子供たちに説明する。すると、さすがに受験勉強を重ねてきた者たちには「菅原道真」の名前は心に響くらしく、それ以上誰も文句は言わない。こうやって少しでも子供たちの心の支えとなり、自信を持って試験に臨むことができればと願って、もう10年以上続けている。目に見えぬ効果は必ずあると、私は信じている。
 この梅干は昨年から京都に住んでいる娘が北野天満宮まで出向き、参拝し、絵馬に塾生全員の合格祈願をしたためた上で買ったものを宅配便で送ってくれるようになった。今年も先日送ってきてくれたが、包みを開けてびっくりした。一箱の中に入っている梅の数が明らかに昨年より減っている。以前は箱にびっしり詰まっていたのが年々減ってきて、今年はとうとう12個になってしまった。3箱送ってくれたが、これでは小中高全ての受験生に配るには数が足りない。「う~ん、困った」と唸りながらも、とりあえず今週末に受験する小学生・高校生に配った。「必ず受かるからね、心配するなよ」と一人一人を勇気付けながら。
 よし、これで準備万端整った。

「落ち着いて、焦らずにしっかり問題を読みさえすれば必ず合格するんだから、自信を持って全力を尽くして来いよ」

 あとは祈るばかりである。

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