goo

「殯の森」

 カンヌ国際映画賞で審査員特別大賞「グランプリ」を受賞した、河瀬直美監督の「殯(もがり)の森」をNHK・BShiで見た。映画館上映前の作品がNHKで放送されるのは異例だが、この映画の企画段階からNHKの関連会社が製作協力していたため、NHKが昨年放送権とビデオ化権を購入していて、受賞を記念して放送されるようになったらしい。
 

 100分弱の映画の内容は簡単にまとめられる。「グループホームで暮らす認知症の男性とわが子を亡くした介護士の女性が、男性の妻の墓を探して森の中をさまよう物語」、それだけの話だ。しかし、その底流には「老いと死」というテーマが語られていて、見ようによっては深い味わいを感じ取れる内容になっている。「見ようによって」と言うのは、「そういうテーマが描かれているんだよ」と教えらて見た場合のことであって、何も考えずにぼんやり見ているだけでは、冗長な感じがしないでもない。1つ1つのシーンが長くて間延びするし、なにより認知症の老人と新米の介護士を二人だけで山間の施設から外出させるだろうか、と素朴な疑問が湧いてきた。そんな瑣末なことにこだわるなと言われるかもしれないが、一旦そう思い始めると、これは現実にはありえないだろう、と思ってしまう場面が幾つも出てきて少々見る気が失せた。
 と言うのも、本編が始まる前にNHKが流した、「河瀬監督はドキュメンタリー映画の出身」という短い解説が頭に残っていたからだろう。確かにドキュメンタリータッチで最初のうちは映画を見ている気が余りしなかった。深夜のTVで、ドキュメンタリー番組を見ているような雰囲気で話が進んでいく。淡々としていると言えば言えるし、情緒がないと言えばそうなのかもしれない。こうした映画がカンヌでは評価されるのか、と素人の私は驚いたが、その辺りを映画評論家の北川れい子がうまく解説してくれている。
 
 『「殯の森」は、新人賞「カメラドール」を受賞した「萌の朱雀」に比べても物語性が少なく、登場人物が緑の中をさまようシーンが中心。異国の美しい風景に対する驚きとともに、生と死の哲学的テーマが読み取られたのではないか。最近のカンヌ国際映画祭は、独立系の難解な作品が評価される傾向にあり、受けそうな映画だと思っていた』(中日スポーツより)
 
確かに、森や田畑の緑が美しい。青々とした稲の上を風が吹き過ぎるシーンなど、日本の原風景とも言うべき美しさが描かれている。しかし、生命力にあふれる緑の中で老人たちの姿を見るのは、少々痛々しい気がした。何故これほどまで、老人を横溢する生と対照する必要があるのだろうか。老人には老人にふさわしい命の輝きというものがあるのだから、それを圧倒するような生命力を私たちに見せ付けて何を伝えようとしているのかよく分からない。などと、繰り返される緑の演出についつい文句をいいたくなってしまった。
 なんだか納得いかないまま最後まで見終えたが、映画の最後に「殯(もがり)」という言葉の意味、「敬う人の死を惜しみ、しのぶ時間のときのこと」が画面に映し出されたときにやっと合点がいった。この映画は、「殯」という言葉の意味を忠実に映像化したものではないだろうか。33年前に亡くなった妻への老人の愛惜と、自分の落ち度で亡くしたと思い込む介護士の息子への思慕に一つの区切りをつけるための心のさまよいを描いたものなのかもしれない、そう思った。そうでなければ、やっとの思いで亡き妻の墓を見つけ出した老人に向かって介護士が言った「ありがとう」の意味が分からなくなってしまう・・。
 
 でも、映画ってこんなに考えて見なければいけないものなのだろうか。こんな小難しいことなど一切考えずに画面を見ているだけで楽しかった、日曜の夜に見た「パイレーツ・オブ・カリビアン」の方が私向きの映画であることは言うまでもない。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )