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おやすみなさい

 おかしい、最近寝つきの悪いことが時々ある。この前は「帰郷」を見た夜、そして昨晩、どちらもすっと眠れなかった。眠れないぁとしばらく悶々とした。これまでそんなことはあまりなかった。風呂の浴槽でうとうとしながら、部屋に戻って布団に入ればほとんどその瞬間に眠りについていた。それなのに、ここ数日の寝つきの悪さはどうしたんだろう。変な感じだ。
 妻は以前から眠りが浅いとこぼしている。朝方目が覚めると、もう眠れないらしい。4時とか5時とかに目覚めると、もう駄目だと言う。うとうとしても眠りが続かないことが多く、起床してからもずっと「眠い、眠い」と言い続けている。「昔はそんなことはなかったのに・・。年のせいかな」とあきらめ顔だが、眠れないのは誰もが辛い。頭がはっきりしないし、体もだるい。眠りが生活の基本であると、眠れないとよく分かる。だが、毎日「眠い、眠い」と妻から聞かされるのもいい気持ちがしないので、先日催眠薬を買ってやった。「ドリエル」という薬だ。効能書きにはこうある、『ドリエルとは、全国の薬局・薬店でご購入いただける睡眠改善薬です。「寝つきが悪い」、「眠りが浅い」といった多くの現代人の抱える一時的な不眠症状を緩和し快適な睡眠を確保することで、生活全体を充実させQOL(Quality of life:生活の質)の向上に貢献いたします』
 「いつ飲んだらいいのかなかなかタイミングがつかめないから」、とまだ一度も服用していないらしいが、どれだけ効き目があるのか早く知りたい気もする。
 そんな妻の睡眠不足が私に伝染したわけでもないのだろうが、眠れない夜が続くと心配になる。毎日バスの運転をしなければならないから、睡眠不足は大敵だ。たまたま、妙に頭が冴えてしまった日が続いただけかもしれないが、睡眠が足りないと耳の奥がボーンとして音が聞こえにくくなるからイヤになる。余り気にせずにいれば自然と改善するだろうから、穏やかな心持でいることが何よりだとは思うが、やはり気になる。
 そんなことを考えていたら、ふと石垣りんの「おやすみなさい」という詩を思い出した。名古屋地区のTV局が一日の放送の終わりに流すクロージングVTR用にと依頼して書かかれた詩だと言われている。穏やかな映像を背景として、クロード・チアリのギターとともに山田昌が朗読するこの詩を聞いていると、「一日が終わったんだな、もう寝なくちゃ」という気になったものだ。今はもう流されていないが、ぜひもう一度視聴したい。

おやすみなさい。

夜が満ちて来ました
潮のように。
ひとりひとりは空に浮かんだ
地球の上の小さな島です。

朝も 昼も 夜も
毎日
何と遠くから私たちを訪れ
また遠ざかって行くのでしょう

いままで姿をあらわしていたものが
すっぽり海にかくれてしまうこともあるように。
人は布団に入り
眠ります。

濡れて、沈んで、我を忘れて。

私たち 生まれたその日から
眠ることをけいこして来ました。
それでも上手には眠れないことがあります。

今夜はいかがですか?

布団から やっと顔だけ出して
それさえ 頭からかぶったりして
人は 眠ります。
良い夢を見ましょう。

財産も地位も衣装も 持ち込めない
深い闇の中で
みんなどんなに優しく、熱く、激しく
生きて来たことでしょう。

裸の島に 深い夜が訪れています。
目をつむりましょう。
明日がくるまで。

おやすみなさい。



 これから眠れない夜があったら、この詩を思い出して、ゆっくり落ち着いた心持ちで眠りが訪れるのを待てばいい。「おやすみなさい」と天に向かって呟きながら。
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