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とうふ

 ある飲食店の前を車で通りかかったら、ずらっと立てられたのぼりに「豆富」の文字が躍っていた。「?」と思って目を凝らしたら、それはどうも「豆腐」のことのようだった。「豆腐料理」を売り出そうとするのに、「腐」を「富」に置き換えたらしい。う~ん、一本取られたような気がした。豆腐の作り方はよく知らないが、大雑把に言えば、「水につけて柔らかくした大豆をつぶして煮た汁を漉し、苦汁(にがり)を入れて固めた食品」と「語源辞典」(講談社)にあるように、豆を腐らせて作るのではない。「漢字の『腐』は本来、肉がただれて腐る意であるが、固体でも液体でもないようなものをさすときにも用いられる」とあるように、その形状を指して言った名前であるようだ。しかし、よく考えれば、食べ物に「腐」という漢字が使われているのもおかしなものだ。語源を調べれば納得できるが、だれもそんなことはしない。ただ普通に「くさる」という意味を知っているだけだろう。そんな「腐」という字を食べ物にずっと使ってきたのも無神経といえば言えなくもない。そうした観点からこの飲食店が「豆富」とあえて表記したとしたなら、なかなかな感覚の持ち主であると賞賛したい。「豆に富んだ食品」、実にいい表記ではないか。
 でも、「豆富」と書かれた「とうふ」が売られているのを見たことはない。そこで、市内に新しく開店したばかりのスーパーを見学しがてら、実際に「豆富」と表記された「とうふ」はないだろうか、調べてみることにした。

 

実にたくさんの種類の豆腐が並べられている。絹ごしだの、木綿だのと宣伝文句がうるさいほどだ。しかし、不思議なことにそのほとんどが「とうふ」と表記されている。平仮名で豆腐の柔らかなイメージを引き立たせようとしているのだろうか。その中にひときわ異彩を放つ豆腐があった。言わずと知れた「男前豆腐店」。何とここだけは堂々と「豆腐」の二文字を使っている。さすがだ。何がさすがだかよく分からないが、さすがだ。他のスーパーでは「男前豆腐店」の商品がどんどん増殖を続けていて、かなりの売り場面積を占めていたが、このスーパーではまだそんな盛り上がりを見せていない。と、思っていたら、「ジョニ男」という小ぶりな商品を見つけた。

 

袋に"Are you jonile tonight?" などと意味の分からぬ英語もどきの言葉が書いてある。「おいおい、大丈夫か」と思いながらも手に取ってしまったのが、間違いだった。"THE WAY TO JONIO MEISTER" と書かれた下に、この豆腐の食べ方がいくつか書かれている。"NORMAL" な食べ方としては、・一味唐辛子+ポン酢 ・紅葉おろし+あさつき+ポン酢 ・オリーブオイル+黒胡麻+岩塩 ・わさび醤油 ・醤油+ラー油+お酢・・・。そのすぐ下には "ABNORMAL"な食べ方の例がいくつか記されている。 ・はちみつ ・きな粉+黒蜜 ・メープルシロップ ・フルーツソース ・オリゴ糖  これを読んだ瞬間に、これは私に対する挑戦だ、と直感した。何がそんなにカチンときたのか分からないが、そっちがそういうつもりなら受けて立ちましょう!と豆腐代108円を払って家に持ち帰った。
 
 どうやって食べてやろうかあれこれ考えた。よし、まずはマヨネーズと胡麻だれで試してみよう!


男前豆腐は、「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」で痛い目にあっていたから、これもどうせうまくないだろうと高をくくっていた。マヨネーズの味でごまかして食べたら案外いけるかも、などと思いながら一口食べてみた。最初はマヨネーズの味しかしなかった。しかし、しばらく口の中で味わっているうちにだんだんと豆腐の味が広がってくるではないか。「何、これは?」と思いながら胡麻だれも食べてみた。すると結果は同じだった、豆腐がうまい!マヨネーズも胡麻だれも邪魔だ、いらない。さらにポン酢も試したがまったく同じだった。こうなったら、最後はシンプルに醤油だ、と残った豆腐にかけて食べてみた。おいしい!!まったく奇を衒ったところのない昔ながらの豆腐だ!!だけど、うまい!!


とは言っても、結局は普通のありきたりの豆腐が私には一番おいしいということが分かっただけの話である。もしも、この「ジョニ男」がひどい味だったら、あんこを乗せて食べてやろうと思っていたのだが、そんなことにならずに済んだだけよかった。でも、いつか試してみたいなあ。
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