夢で逢えたら

　先週末、バスを運転しながらラジオを聞いていたら、吉田美奈子の懐かしい「夢で逢えたら」が流れてきた。

　　夢で　もし逢えたら　素敵なことね
　　あなたに逢えるまで　眠り続けたい
　
大瀧詠一作詞作曲のこの曲は、１９７６年に吉田美奈子が最初に歌って以来、多くの歌手がカバーしてきた。最近では、キンモクセイがカバーしたのを聞いたことがあるが、他にも原田知世、シリア・ポール、ラッツ&スターが歌っているのを耳にしたことがある。YouTube で探したところ、吉田美奈子が歌っているのは残念ながら見つからなかったので、シリア・ポールのものを貼っておく。　




　　あなたは私から　遠く離れているけど
　　逢いたくなったら　まぶたを閉じるの

大瀧詠一が作詞したのだから、「あなた」というのは女性なのかもしれないが、歌っているのが吉田美奈子やシリア・ポールという女性だと、「あなた」は男性のように思えてしまう。遠く離れている男性のことを想って、会えない寂しさを夢の中で会うことで紛らそうとする・・、やはり女性のほうが絵になる。むくつけき男がそんな気持ちを歌ったとしても、誰も共感を持てないだろう・・。
　しかし、会いたくても会えない人にせめて夢で会いたいと、人知れず念じるのなら、それは性別を問わない、人間として普遍的な心模様だろう。今すぐにでも会いたい人がいたとする。しかし、その人とは空間的であれ、込み入った事情であれ、どうしてもすぐには会えないとしたらどうするだろう。悶々と思い悩む以外には手立てのないことは分かっていても、なんとかしたい、そんな心から滲み出た思いが夢のなかに発露され、愛しい人の面影に接することができたとすれば、それはかなり素敵なことではないか！

　　薄紫色した　深い眠りにおち込み
　　私はかけ出して　あなたを探してる

　　夢で　もし逢えたら　素敵なことね
　　あなたに逢えるまで　眠り続けたい


私には、この曲を聴くたびに思い出す小野小町の和歌がある。

　　思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを

「あの人のことを思い続けて見た夢だからあの人の姿が見えたのだろうか、夢だと知っていれば目覚めずにいたものを」などと解すればいいのだろうが、なんだか「夢で逢えたら」のアンサー・ソングのように聞こえるから不思議だ。言うまでもなく、小野小町の和歌のほうが１０００年近くも前に詠われたものなのだから、そんなはずはない。大瀧詠一がこの和歌を意識して作詞したかどうかも知らないから迂闊なことはいえないが、１０００年の時を超えて二人の思いが共鳴しているのは興味深い。平安時代も２１世紀の今も、人間の恋心は何も変わっておらず、愛しい人を求める心は時空を超えることができるのだなあ・・、などと当たり前のようでいて、新鮮な思いを抱いたりした。
　
　なお、吉田美奈子とシリア・ポールの「夢で逢えたら」には、歌の途中に次のような語りが入っている。もしこんなことを言われたら、夢の中にでも飛んで行っちゃうよなあ。。。
　　
　　今も私　枕をかかえて　眠っているの
　　もしも　もしも　逢えたなら
　　その時は力いっぱい 私を抱きしめてね　お願い