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復活

 そう言えば、トルストイに「復活」という小説があったなあ、などと軽い思いで始めたカブトムシの「復活」のための儀式・・。これほどまで苦労するとは思わなかった。たかがちっぽけなカブトムシの幼虫の命なんざ、チョチョイノチョイで「復活」させてみせる、簡単さ、などと我が家秘伝の奥義の書を片手に始めたのはよかったが、何せ遥か昔に書かれた書であるため、ところどころ破損し、しかも墨跡がかすれ気味で読み取れない箇所もいくつかあり、呪文を何度も間違えてしまった。そのたびにピクリとする幼虫の死骸にちょっと気味の悪さを感じながらも、このままBK(Beetle Killer)の汚名に甘んじているわけにはいかない、何としてでも雪がねば!と強い意志を持って、昼夜を分かたず、ここ数日必死になった。これほど心血を注いだことは今までなかったなあ、などと妙な充実感を抱いたころにふと唱えた呪文(門外不出ゆえ、ここに書き記すことはできないが)、これが思いがけずもビンゴ!!、硬く黒ずんでいた幼虫の体に一瞬電気が走ったかのような反応が起こり、すっと体全体から黒ずみが消え、かつてのような透き通った白さが戻ってきた。「おお!!」と思わずあげた私の叫び声に呼応したかのように幼虫の何本もある足がもぞもぞし始めた。「成功だ!やったぞ!!」


 死体を残してあったのが、2匹の幼虫だけだったので、前と比べれば数は減ってしまった。それによく見れば体も小ぶりだ。「復活」の際にエネルギーを相当使ったのだろうか、どことなく元気もない。しかし、これからちゃんと世話すれば元の大きさくらいまでは戻るだろう。とにかく、私は「復活」させたのだから、後は自分たちの生命力で何とかカブトムシにまで成長してほしい・・・。


 などといかにも黒魔術師のような言辞を操ってしまったが、まさか私にそんな妖力が備わっているはずがない。これらは、カブトムシの幼虫を死なせてしまって落胆していた私の様子を塾生でもある子供たちから聞いた私の妹が、わざわざ持って来てくれたものである。元々は父から押し付けられたものであるから、私が飼っていた幼虫たちとも兄弟になるのだろう。今度こそ馬鹿なことはしないで、成虫になるまで世話を怠らないように気をつけなければならない。何とかしてBB(Beetle Breeder)の称号が頂けるよう育て上げなければならない!!

 そんな折、塾の教室の窓にこんなものがへばりついていた。


 ノコギリクワガタだ!!すぐに窓を開けて捕まえたが、体長6cmほどの小ぶりなものだった。しかし、力は強く、全身の力で私の指から抜け出そうともがくのを押さえつけるのは大変だった。今の子供たちは虫が嫌いな者が多く、クワガタを持って嬉しそうにしている私を、不思議そうに見ている(それどころか虫など見たくないとばかりに目をそらしているものが多い)。「誰か欲しい?」と聞いても誰も「欲しい」と言ってくれない。仕方なく、逃がしてやった。実はカブトムシよりクワガタのほうがずっと好きな私は、逃がすのはかなり残念だったが、飼うなどと言ってさらに生徒たちから白い目で見られるのもイヤだったから、ぐっと我慢した。
 でも、カブトムシの幼虫たちも、もうそろサナギにならなければいけない時期なのではないだろうか。ちょっと気にかかる・・。
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