じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

加藤幸子「海辺暮らし」

2021-12-15 15:50:25 | Weblog
★ 大学入試センター試験、2011年の国語で採用されたのは加藤幸子さんの「海辺暮らし」。なかなか面白そうなので、この作品が収められている加藤幸子短篇集「自然連禱」で、採用部分の前後も含めて読んだ。

★ 主人公はお治婆さん。漁師をしていた夫には先立たれた。そして夫が漁業権を売った補償金を元手に干潟で駄菓子屋を始めた。夏の間の稼ぎで、お治婆さんと愛猫のルルが冬を越すには十分だった。

★ この干潟にはさまざまな人が訪れる。アイスクリームを配達してくれる学生や命を断とうとやってきた女性など。「海辺暮らし」にはそうしたエピソードが盛り込まれている。

★ 試験で採用されたのは最終章のあたり。お治婆さんが50年住み続けた干潟も工場からの排水で汚染され始めた。水質検査の名目で役所の公害課の職員が月に1回やってくる。どうやらごみ処理施設をつくるため、お治婆さんに立ち退きを迫っているようだ。お治婆さんは役人(お治婆さんは「コーガイさん」とよぶ)を手づくりのアサリの甘露煮でもてなす。役人は干潟のアサリだと聞かされ、少々困惑気味だ。汚染の具合を知っているから。

★ 立ち退きの話になるとお治婆さん、耳が聞こえなくなる(演技なのか、本当に一時的な難聴になったのかはわからない)。仕方なく役人は帰っていく。ところで、汚染物質はお治婆さんやルルの健康をむしばみ始めているようだ。以前、水俣病に冒され、カラダをばたつかせる猫のドキュメンタリー映像を見たことがある。ルルの「ダンス衝動」はその様子に似ている。お治婆さんの視力にも異変が。

★ 「海辺暮らし」は昭和56年(1981年)に発表されている。加藤幸子さんは1982年に「夢の壁」で芥川賞を受賞されているとはいえ、この作品はメジャーではない。最近は戦前の作品が採用されることも多いが、出題者はよく見つけてくるなぁと感心する。
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