じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

加賀乙彦「雨の庭」から

2021-12-13 16:39:20 | Weblog
★ 加賀乙彦さんの「雨の庭」は2009年の大学入試センター試験に出題された。

★ ある生命保険会社を実直に勤め上げ、取締役まで昇進したが、定年で退職。その後、苦労の末他社に職を見つけるが10年がたち、70歳ともなれば身体が言うことをきかなくなる。貯えも減り、子どもたちの勧めに応じて100坪の家屋を売却し、高層住宅に転居することになった。

★ 仕方がないこととはいえ、この家は父親の人生そのものであった。不要物を庭で燃やし、それを眺める父親。その感慨を慮ると胸が痛む。

★ 試験問題に挑む18歳あたりの人々にこの思いはわからないだろうねぇ。それもまた仕方がないこと。いつの日か、大学入試問題でこんな問題があったなぁと思い出してもらえばよいか。

★ 加賀さんの作品、作品によっては手に入りにくいものもある。いつの日か「雨の庭」の全文を読んでみたいものだ。

★ 今日は、大学1年生の数学の課題(教職課程をとっているという)と大学4年生の卒論(ジェンダー論をやるらしい)を手伝った。

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堀江敏幸「送り火」

2021-12-13 00:31:27 | Weblog
★ 大学入試センター試験「国語」、2007年に出題された小説は堀江敏幸さんの「送り火」。

★ 父親が亡くなり母親と娘の絹代さんは二人暮らしになった。女性二人だけの暮らしは何かと心細い。昔、養蚕に使っていた20畳ほどの空き部屋があるので、独身女性限定で貸し出すことにした。ところが、その部屋を借りたいとやってきたのは40代の中年男性だった。

★ 男性は書道教室を始めたいので部屋を貸してもらいないかと頼む。最初は女性専用なのでと断っていたが、男性の誠実さに心を動かされて貸すことに。教室を始めてみれば、少しずつながら生徒が増え、最初は不安がっていた母親も子どもたちにお菓子や食事を出すことを生きがいにするようになった。出題範囲は、その母親が心臓発作で亡くなり、男性が絹代さんにそれとなくプロポーズする場面で終わっている。

★ 「送り火」は堀江敏幸さんの「雪沼とその周辺」(新潮文庫)に収められているので、出題部分の前後を読んでみた。この作品、実は回想形式で書かれている。出題部分はその回想部分だ。

★ 「送り火」はそのタイトルから想像されるように、必ずしもハッピーな作品ではない。絹代さんの家族にも予期せぬ不幸が襲う。しかし、その不幸を抱えつつ生きている姿が心を打つ。「スタンス・ドット」にせよ「イラクサの庭」にせよ「河岸段丘」にせよ、この作品集全体が感動的だ。派手なアクションがあるわけではないが人生というものをじんわり感じさせてくれる。

★ さて、「日本沈没 最終回」を観終わった。政府や官僚に視点を置いた独自の演出だったが、それはそれで面白かった。原作が書かれたのは高度成長が終わり、日本が経済的に沈没しそうな時期(1973年)だった。それから、阪神淡路大震災やオウム事件、東日本大震災などフィクションを超えた出来事を私たちは経験してきた。アメリカの同時多発テロや昨今のパンデミックなどもSFの世界の話だった。今回の「日本沈没」は地球温暖化を始めとする地球の環境変化に警鐘を鳴らしている。

★ 作品の中で日本国民のほとんどは海外への移民に成功したようだが、もしどこかの国が沈没するような事態が起きたとき、日本は果たして移民を受け入れるだろうかと考えた。
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