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「報道」という名のもとに

2002年11月11日 23時33分00秒 | 「徒然随想。」

近頃、というよりは9月ぐらいから少しひつこいと思わせる程、北朝鮮の拉致被害者に関する報道がテレビや新聞をにぎわせています。某新聞では、「拉致報道ばかりで埒(らち)があかない。」などと風刺する漫画が載っていたりもしました。
そして、拉致被害者の方々が帰国してから、いっそうその状態に拍車がかかり、各社共、し烈な報道合戦を繰り広げています。
いい加減、「拉致被害者が今日どこで、なにをしたか」などはどうでもいいので、例えば、共同通信だけの、代表取材にして、せっかく24年ぶりに我が家に帰ってきたのですから、ゆっくりさせてあげた方がいいのではないかと、素人目には思ってしまったりするのですが、これまでの経緯と今後のことを考えると、どうもそういう考え方だけではいけないようです。
それにしても、拉致被害者の方々が東京からそれぞれの地元に帰っていく途中の(生中継も交えた)テレビ映像を見ていて、マスコミという組織が、この20年ほどの間、やはり体質的にあまり変わっていないのだな、と再認識させる瞬間がありました。
それは、上越新幹線で新潟に向かった拉致被害者の方々が、駅ホームでのセレモニーに望んでいるテレビ映像を見ている時でした。どこからともなく「おかえりなさい。」という女性の声が聞こえ、曽我さんが「ありがとう。」と応えていました。このとき、直感的に僕は藤原新也さんの「東京漂流」の中のある話を思い出してしまいました。1981年、東京深川で起きた通り魔事件に関する文章の中での「カメラマンが叫ぶ」話です。
ろう城していた飲食店から逮捕されて出てきた犯人、川俣軍司に対してレンズの砲列を向けていたカメラマンたちがレンズだけでなく、罵声という口撃でもって、犯人という被写体をさらに犯人として絵づくりするために「演出」をくわえていたのでした。
藤原さんもその話の中で述べていますが、事実をありのまま伝えるという報道という観点からすると、これはルール違反です。しかし、今日、この手の「演出」、さらにわかりやすく言えば「やらせ」は、報道の現場では日常茶飯事のこととなっています。
上越新幹線の駅のホームでの「おかえりなさい。」も、確証はないですが、現場の状況、声をかけたタイミング、応えた曽我さんの目線の方向が僕の見ていたテレビのカメラの方向とあまり違いがないことなどを考えると、まず、間違いなくその若い女性の声はマスコミの女性記者、あるいは女性カメラマン(この10年で、女性記者と女性カメラマンは物凄い勢いで増えました。)だったと僕は考えます。そして、その目論見は見事に成功して、曽我さんは贈呈された綺麗な花束をもった、いわいる絵になる状態で「ありがとう。」とさらに絵になる行動をとって(とらされ)、郷里に向かう駅ホームでの姿に「演出(やらせ)」を加えることができたのです。その後も、他の拉致被害者の方に、いろいろと「演出」は加えられていたようです。
何年か前、NHKが、その看板番組「NHKスペシャル」で「やらせ」をしていたことが明るみになり、世間が騒いだことがありましたが、「なにをいまさら」という思いでしたし、同時に普段から日常茶飯事的に行われている「演出(やらせ)」は、どうなるのか?という思いでした。いつから、「演出」が日常茶飯事になったのかわかりませんが、そのマスコミの行為を仕事として考えると、マニュアル化されたその「演出」は仕事の能率を上げます。その時(最終的に記事になる事象)が来るまで、記事になる材料がない場合、待つ必要がないからです。つまり、報道ではなく、その行為は単なるマニュアル化された仕事となってしまっています。(ある種、女性記者や女性カメラマンが増えたのは、そのせいかも知れません。)
また、逆に全く絵づくりなど「演出」をしないと、その面白みのなさから、他紙、他局との競争に敗れ、誰も見なくなり、誰も買わなくなりますし、視聴者率も下がり、スポンサー(広告主)もつかなくなります。
そんな悪循環の継続を批判しない世間があり、それを自発的に断つ努力をしないマスコミという業界があるわけです。
そして、少なくとも言えるのは、それを放置した状態が少なくとも20年は続いていることでしょう。
また、最近その是非が問われ続けている、いわいる「個人情報保護法案」について、以上のような理由も含めて考えてみると、このような国家の報道に対する介入は、ある意味必然だったように思いますし、僕は、法案には、半分反対、半分賛成の思いをぬぐいきれません。

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