【ちょっとネタバレ注意!】
非常に遅ればせながら、2月27日、大阪・十三の第七藝術劇場にて公開が始まった、ドキュメンタリー映画監督・想田和弘さんの新作「牡蠣工場」を観てきました。
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想田監督については、2年ぐらい前からツイッターなどでその発言の内容を注目していた方のお一人でした。
それも最初は特にフォローしていたわけではなく、僕がフォローしている方が想田監督のツイートをリツイートしていたのがその存在を知るきっかけでした。
その存在を知った後しばらくした頃、以前よりダムタイプ関連で注目している舞台芸術のアーティスト・高嶺格(たかみねただす)さんの「ジャパン・シンドローム~ step3. “球の外側”」を観賞したのですが、その作品に出演されたいたバレエダンサー(でいいのだろうか)・柏木規与子さんがこの舞台の観賞後しばらくしてから、想田監督の奥様であることを知り、驚いていたのでした。
「ジャパン・シンドローム」は東日本大震災とそれに伴った原発事故後の日本と世界をテーマにした社会的訴求が強い作品のシリーズであり、それに参加されていた柏木さんと、ドキュメンタリー映画の監督である想田さんと、ともに社会的なことをテーマに芸術活動をしているご夫妻ということで、「すげぇ!」と思ったのでした。
という経緯で、奥さんの出ている作品を観て、旦那さんの作品を観ない選択肢はない!と思い、ぜひ劇場で新作を観たいと思っていて、今回の機会となったわけです。
想田監督の作品はその手法から「観察映画」と自ら仰っていますが、
これはドキュメンタリーの一つの方法として、台本、ナレーション、字幕、BGMなどを排したものを、自ら「観察映画」として提唱し実践している作品です。
今回の作品は、「選挙」、「精神」、「PEACE」、「演劇1・2」、「選挙2」につづく観察映画第6弾。
前置きが少し長いですが、今回の「牡蠣工場」。
その柏木さんの母親の故郷である岡山県・牛窓にある牡蠣工場が舞台。
岡山県は広島県に次ぐ牡蠣の産地ですが、近年、ほかの地方都市と同じく、少子高齢化、過疎化の問題や第一次産業の後継者の問題、労働者不足の問題、それに伴う移民の問題など。そして、東日本大震災の影響も垣間見え、今の社会の数々の大きな問題が、牡蠣の栄養の豊富さと同じようにこの「牡蠣工場」には含有し訴求されています。
はじまりは猫です。
そして、この猫、途中でちょくちょく出てきて観客をほっこりさせます。
このあたり、今の流行りの猫で今の観客の気持ちをつかむことに成功しているように思いました。
あらすじは今も上映されている劇場もあり、また公式サイトなどで調べていただきたいので、ここでは触れないようにします。
それよりもこれはあくまでも僕の理解の話になりますが、
とかくドキュメンタリーというものはそのシリアスさゆえに一定の観客層が敬遠してしまう傾向があります。
しかし、ドキュメンタリーで扱われる多くのテーマは当然のことながら現実社会で起こっている何かしらの問題を取り上げており、その問題は同じ現実社会に生きる世の中の人々に何らかの形で関係があるはずで、大概の場合、重要であり、多くの人々に考えてもらわないといけない問題であることが多いです。だからこそ、その問題が重要なほど多くの人々に観てもらわなければならないはずです。
この矛盾した状況は、今の日本では慢性的な風潮で、おそらく今後も続きそうなものですが、想田さんの「観察映画」はこの風潮にうまく入り込み、徐々に観客を増やしていこうとしている「努力」が感じられます。それはやがて問題を一緒に考える人を増やし、社会を良くする風潮になるかもしれません。そんな希望を感じました。
はじまりの猫は、想田さんたちが取材のために借りていた家に入り込むのを狙っており、そんな夫妻との「せめぎあい」の場面を時折挟んだり、
その猫に餌をやることに関して夫婦の議論の場面もあったり、
工場の方から逆インタビューを受けている場面や
偶然遭遇した海に落ちてしまったおじさんが救出される!場面も挟んであったり、
最後のほうで工場の方から「撮影中止」を要請される場面では、想田さんがカメラを持つ手が震えていたのか、映像が何分間かブレ続けていた映像をそのまま使っていたり、他にもあったと思いますが、
そういう主題の要素に直接関係ないことや内実はシリアスなのにどこか和かな場面が所々に挟んであることで、今の観客を引き込む、観客の気持ちをつかむ「努力」しているように思われました。
そして、その直接関係ないように見えることも実はまったく関係がないわけではなく主題に何らかの関係があり、逆に予定調和を求めない「観察映画」の主旨にもかなっているようにも思われました。
映画は2時間30分ほどもありましたがグダグダではなく、あまり疲れなかったです。
ただ中途半端なところで終わっていた印象が拭えなくて気になっていたのですが、上演後のトークショーで、実は本編でもあった「撮影中止」を要請された場面の撮影の後日、あらためて「撮影中止」の要請が正式にきたためで、それは撮影の同じ年に起きていた広島の牡蠣工場での中国人労働者による殺人事件の影響もあり牛窓でも神経質にならざるをえなかったこともあったのでしょう、と想田さん。
終わり方も現実に則って行き当たりばったりで予定調和を求めないやり方で「観察映画」を突き通しているんだと理解するに至りました。
このブレないやり方で6作品。
これまでの作品も観てみたいと思うと同時に今後も注目していきたいと思いました!