普通な生活 普通な人々

日々の何気ない出来事や、何気ない出会いなどを書いていきます。時には昔の原稿を掲載するなど、自分の宣伝もさせてもらいます。

蚊帳

2014-07-23 23:10:08 | 東京「昔むかしの」百物語
夏。

クーラーなんぞは、使わなかった。というより、そいつはぜいたく品で、金持ちしか家に設置できなかっただけの話。

使わないというのは負け惜しみみたいなもんで、使えなかっただけ。

だから朝は、汗だくで目覚めるわけだ。扇風機はどこの家にも一台はあったが、扇風機をつけっぱなしにして風にあたりながら寝ると、心臓麻痺で死ぬと恐れられていたから、扇風機すらつけて寝なかった

扇風機のない昭和30年代までは、本当に蚊帳を吊って寝ていた。

まあ、見様によっちゃ、お姫様のベッドに掛かる天蓋みたいなものだ。

なぜか緑色で、部屋の四隅に打ち込んだフックに蚊帳の四隅の輪っかをひっかけてセッティング。蚊の侵入を防いだ。ほとんどの場合、セッティングしている間に蚊の野郎は蚊帳の内側に侵入していたけどね。

この蚊帳という奴、蚊取り線香(概ね豚の形をしていた)と大体セットだった。

この蚊取り線香、蚊帳の外にセッティングするのか、内側にセッティングするのか? 悩ましいところではあった。

子供のいる家庭では、寝苦しい夜にはおふくろさんが団扇で子供たちに風を送り、ほんの少しだけ風の恩恵に浴して子供たちは寝ることができた。

蚊帳というのは網状の天蓋なわけで、外気の移動、つまり風を感じる状態でないと、機能としてうまく使っているとはいえない。おふくろさんの団扇もありだけれど、本当のところ自然の風を感じる方が良いわけだ。

それが、何を意味するかと言えば、縁側の障子やガラス戸なんぞは閉めない、そういう環境で使うモノだということ。要はそれくらい不用心でも特段になにごとかがおこるような社会環境ではなかったということになるな。

横道にそれた。

朝、蚊取り線香はとうの昔に灰になっていて、うまくすれば渦巻の灰が出来上がっていた。

そして、男の子はランニングシャツ、女の子はシュミーズで、井戸端に出向く。固形の石鹸で顔を洗い、歯磨き粉(粉状なのだよ)で歯を磨く。そして、おふくさんの作る味噌汁と、ご飯(文化釜で炊くのだよ!)、贅沢な場合には焼き魚(目刺程度だけどね)、漬物、焼き海苔なんぞで朝ごはん。

飯を食った後は、夏休み中であれば、ラジオ体操をしに最寄りの小学校に出かけたもの。

………なんだか、涙が出てきたな。まだいくらでも書ける。続きは明日。

<続く>