前日、越後湯沢の民宿に泊まり、朝8時の上越線で土合の駅に降りる。登り列車のホームは、いわゆる「日本一なモグラホーム」ではない普通の地上にある。実は、オイラは下りホームを経験しておらず、この日の帰り、ふたたび越後湯沢にもどる下り列車で初めてモグラホームに降りるために永遠につづくかと錯覚するほどの超長階段を下ったのだが、こんな年寄り泣かせの地下ホームには金輪際降り立つことはないだろう、と確信した。あのホームは、若きアルピニストの足慣らし用に国鉄が「わざと」こしらえたのだと思いたい。
それはさておき、この日はまれに見る無風快晴の日で、標高1000メートル以下は、まだ秋色に染まっていた。
そんなんだから、躊躇なくロープウェイとリフトを利用し、天神平の展望台にのぼり、その後、まだ仰いだことのない魔の岩稜「マチガ沢」と「一の倉沢」を訪ねた。多くの若人の命を奪ったアルピニストの聖地であることから、一介のハイカーであるオイラはこれまで訪問を敬遠していたが、「冥土の土産」に一度は見ておきたかった。
素晴らし秋晴れの日、天神平からは眼前の谷川連峰はもちろんら、これまで登った百名山のうち、至仏山、上州武尊山、皇海山、赤城山、巻機山、浅間山、遠く富士山の山影まで展望できた。時間の都合で泣く泣くロープウェイを下り二時間あまりで「魔の岩稜」を往復し、開いた口が塞がらぬほどにダイナミックな岩稜を仰いだ。
さぞやアルピニストたちの胸を騒がせたことだろう。
秋の日差しは、あくまで暖かく、「死の匂い」などみじんも感じないほど現世の平和を享受したが、あちこち名が刻まれた古い慰霊碑を見つけた際には、立ち止まっては瞑目した。






