野沢温泉村が「ふるさと」や「おぼろ月夜」の歌を書いた高野辰之先生の終焉の地であることは、村に出かけるまで分からなかった。
こないだの野沢温泉でのトレイルランは、夜の10時ごろまではゴールに帰ってこられるかなとの甘い見通しが粉々に覆され、日が変わってからの、なんと17時間52分40秒も費やしてのゴールだった。それでもビリにならず制限時間まで2時間余りあったのだから良しとせねばならない。山を歩いていないのだから、この程度の実力なのだろう。が、こんな状態では12月の伊豆トレイルジャーニーは完踏危うしだろうから、この1年の最終目標として鍛えねばならない。体重も落とそう。
で、この大会のコースにはおおむね満足した。この季節、雨もいただいたが、梅雨明け前の高原に吹く風は心地よく、カッコウとホトトギスたちもまだ鳴いていたし、ニイニイ、ミンミン、カナカナたちも時と光の変化に応じて鳴き競ってくれた。そして、最高地点付近の草原には、ヤナギランの群落がやさしいピンクで声援を送ってくれた。この花を見るたびに信州の高原に来たという歓びに駆られるはなぜなのだろう。若かりしとき、いまだ野に咲く花にそれほど眼を向けなかった頃の信州で、それでも、ピンクの群落に出会うたび「ああ、こんな女性に恋したいなあ」などと淡い夢を抱いていたなのだからだろうか。
まあ、それはそれとして、この大会17時間という時間は、下りなのに走れず、深いガスの中をただただ、もくもくと痛みをこらえながら歩いた最後の5時間程度を除いて、山を歩く快感を久々取り戻した。やはり、山は「ふるさと」であり「恋人」。
トレイルラン、ロングだと眠いし、ショートだとあっというまに追い越されるし、トライアスロンもそうだが、「ミドル」の大会が一番、いまのオイラにお似合いのようだ。この大会には、また参加したいが、もう、来季に向け、良さそうな「ミドル」の大会を検索している。
で、この野沢温泉、翌日昼過ぎから散策と疲れを癒すため外湯めぐりをしたが、なんと、宿泊者は地元のヒト同様「タダ」。「大湯」という中心的お風呂を「薬師仏」とし、その他12のお風呂を薬師様をお守りする「十二神将」になぞらえて、かく浴場の入り口に神々の像が祀られている。そう、野沢温泉の共同浴場は、ただのお風呂場ではなく、信仰の対象なのだ。だが、「タダ」という利権にとりつかれたオイラは、13のお風呂に全部入ってやろう馬鹿をやって、8つ目あたりで湯にあたって、ふらふらとなりながら宿に帰った。十二の将軍たちにけりを入れられたようだ。心をあらため、また出直そう。それにしてもどの湯も熱かったぜ。
で、この野沢温泉、宿泊者ではなく、住民として暮らしたらどうだろうか、一湯のみではなく、他湯の掃除も手伝ったら、どのお風呂も自由に出入りできるのではないだろうか。山は近いし、春には山菜、夏は渓流、秋にはきのこ、冬は雪遊びと焚き火と「格別な余生」を過ごせそうでもある。
夕暮れに「おぼろ月夜」のチャイムが流れるつましい湯の町。高野先生ならずとも「ふるさと」と賞したいな。
長坂スキー場の山頂に群生していたヤナギラン
第一関門過ぎ。まだ、花に近づく余裕があった。
一番お気に入りの滝の湯
どのお湯も清らかに維持管理され、花を飾られた湯船もあった。真湯
温泉神社では、山百合が濃く匂っていた。夏が来たんだ。
最終コースの道端でキキョウがひっそりと街を眺めおろしていた。午後5時だったか「おぼろ月夜」のチャイムがこだましたな。