朝やっているBSPの旅番組「にっぽん縦断こころ旅」の再放送を視聴。
失った時、失った人を思い出す時、風景とは、かくも味わい深く美しいものなのか。
決して観光スポットでも絶景でもない、時には何でもない風景ではあるが、名もない人々にとっては大切なかけがえのない風景だ。
そんな風景とその人々の思い出に共感できたとき、その人の大事な風景をTVで見ている者も共有できるのだと思う。
そうして共有できた風景は、少しだけ視聴者の思い出に刻み込まれ、「一度そこに立ってみたい」という気持ちだけではなく、時には「オイラはその場所にいたかも」という既視感に囚われる。
火野正平さんが視聴者から寄せられた思い出の風景を目的地として日本中を自転車で旅するこの番組は、2011年春の旅からはじまって、2022年秋の旅まで、もう12年も続いているが、オイラも、すべてではないが12年間、本放送か再放送で見続けているひとりだ。長く続いている理由は、(大方一定の年齢層以上の)共感する視聴者がたくさんいるということだろう。
じつは、10年目を終えた2020年秋の旅の最終日(高知県)に、スタッフ一同手を振って、火野さんも歌い、花束なんかもいただいたりして、いかにも本当のエンディングみたいだったから、「ああこれで、この番組ともついにお別れか」と「こころ旅ロス」にり患していたのだが、70を過ぎた火野さんとNHKはまだ番組を続けてくれていて、2021年春の旅がまたすぐ始まったので、ロスは回復した。うれしい限りだ。
この番組は、ヘッドホンで視聴するのがよい。波の音、虫の声、電車のレール音なんかが懐かしく耳に飛び込んでくる。そしてオイラは、番組を見ながらグーグルアースを起動させ、火野さんの愛車チャリオくんの移動とともに地図を動かしている。まるで一緒に旅をしている気分になり愉快なのである。
今朝は、昨年の秋の旅の広島編で、竹原海岸から沈む夕日を眺めるという風景だったが、夕陽の美しさにみとれながら正平さんのハミングのあとに流れた音楽(最初はあれ何だっけと思ったが、映画「ダンス・ウィズ・ウルブズ 」のテーマ曲だった)に朝っぱらからウルウルしてしまった。
もう正平さんも70台半ばに差し掛かりつつあり、いくらなんでもこの番組はあと10年とは続かないだろう。だから、次第しだいにかけがえののない大事な風景にも思えてきたので、大事に見続けよう。2023年春の旅は4月3日から沖縄をスタートする。
そして、さすがにNHKさん。2011年春の旅からすべてのルートと風景とお手紙をアーカイブしていてくれている。
音や声が聴こえるビデオではないが、これまで放送された1000いくつかの風景をもう一度後追いし、並の音や虫の声を幻聴しながら日本の風景を復習しよう。グーグルアースをお供にして。
人生の最後の寝床で、まるでオイラが体験したかのように、それらの風景が薄れつつ意識の中で巡ってくれれば、また一興というものだ。「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る(芭蕉の最期の句)」
ぽんすけさんYoutubeから 「ダンス・ウィズ・ウルブズ 」のテーマ曲
2月27日午後8時、オリオンがもう南の空から南西の空よりに移動している。季節の廻りは早い。
20分ほどの連写を比較明合成に加工してみると、シリウスをくわえたおおいぬが夜空を駆け回っているのが、(オイラには)見える。