「東京新聞」(1月4日)「本音のコラム」欄で簡潔で要を得た論説を読んだ。元外務官僚の口から今は「新帝国主義」の時代、「沖縄の主権を認める連邦制への転換が必要」と聞かされて、そのはっきりした物言いに驚きもし、感心もした。
この方のような認識をしっかり持ってこの国のありようを考えることが基礎中の基礎だと僕は考える。
年の初めに「川越だより」の読者にも熟読玩味してほしい。難しい言葉が結構多いが二三度読めば大体のことはわかるはずだ。
新帝国主義と「沖縄党」 佐藤優(まさる)
国際社会では、新帝国主義的傾向が強まっている。旧来の帝国主義のような植民地争奪戦や帝国主義国間の全面戦争は避けるが、国外からの搾取と収奪を強めることで自国の生き残りを図るというのが新帝国主義の特徴だ。
アジア太平洋地域で日米中ロはそれぞれ国家エゴを強めている。去年、この地域の矛盾がもっとも顕在化したのが尖閣諸島をめぐる日中関係の悪化だ。尖閣諸島は沖縄に属する。沖縄の米軍、自衛隊を強化することで、尖閣諸島を守らなくてはならないというのが東京の政治エリート(国会議員、官僚)の共通認識だ。
外務官僚、防衛官僚の本音は、「日本全体の利益のために沖縄の反発を力で押さえつける」という強行突破路線だ。自民党の「沖縄通」の政治家も、圧力と利益誘導で、沖縄県選出の自民党国会議員、仲井真弘多沖縄県知事に米海兵隊普天間飛行場の辺野古(沖縄県名護市)への受け入れを容認させることが可能と思っている。
しかし、この可能性はゼロだ。筆者の父は東京で生まれ育ったが、母は沖縄の久米島出身だ。それだから、筆者は日本人と沖縄人の複合アイデンティティーを持っている。また、かつて外務官僚として権力中枢の政治家と仕事をした経験もあるので、政治エリートの内在的論理もわかる。それだから、筆者には中央政府と沖縄の認識の非対称性がかつてなく強まっていることが皮膚感覚でわかる。
沖縄全体にとって、普天間飛行場の辺野古移設阻止、MV22オスプレイの沖縄強行配備の撤回、日米地位協定の抜本的改定が死活的に重要であることが、東京の政治的エリートにはわからない。「わからないふり」をしているのではなく、ほんとうにわからないのである。
国際基準で見た場合、現下沖縄で生じている事態は、民族紛争の初期形態だ。あえて刺激的な表現をするならば、日本政府は、沖縄人を日本人に統合することに失敗したのである。それだから、沖縄に対する構造的差別が固定化されてしまったのだ。
日本の陸地面積の0・6%を占めるに過ぎない沖縄県に、在日米軍基地の74%が所在するという不平等な状況が是正されるのではなく、日中関係の悪化という理由で強化されつつあるというのが、客観的に見た場合、沖縄で生じている事態だ。
このような中央政府に従っていても、沖縄にとっても沖縄人にとってもいいことは何もない。自分の身は自分で守らなくてはならない。それだから、沖縄では伝統的な保守、革新の枠組みを超えた、政治を文化に包み込んだ目に見えない「沖縄党」がすでに形成されている。
外務官僚、防衛官僚が、辺野古移設を強行すると「沖縄党」が組織化され、日本を「敵のイメージ」に定めたナショナリズム運動に転化する。そうなると日本の国家統合が根本から揺るがされる。
沖縄との国民統合に失敗したことをリアルに認識した上で、どうすれば日本の国家統合を維持できるかについて、国家戦略を構築しなくてはならない。日本国家の枠組みの中で沖縄の主権を認める連邦制への転換が必要と思う。(作家・元外務省主任分析官)
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