やや旧聞に属しますが東京教育大学新聞OB会のHP管理人の友人から朝永振一郎元学長の講演記録を登載したと言う知らせを受け取りました。
朝永さんが学長として桐花寮の寮祭に招待され寮の食堂で思い出話をしたのを大学院の学生だった方が録音してあったということです。1962年6月10日、学長の任期切れ直前のことだといいます。
このころ僕は2年生で「教育大学新聞」の編集次長(ニュース担当)でした。次期学長を選ぶ選挙運動期間中で号外を出す日々です。学生が支持する梅根悟教授と後に筑波移転を強行することになる三輪知雄教授の事実上の一騎打ちだったのです。寮に友人もいたのですが誘いを受けた記憶もないのはそういう事情だったのかもしれません。
今このテープを聴いてみると先生がお話しされる表情まで浮かんでくるようです。思えば朝永さんほど学生の尊敬と信頼、敬愛を一身に集めた「学長」はそうはいないでしょう。まるで寄席で落語を聞くような話っぷりのなかに学生たちに対する愛情が満ちあふれているのでした。
僕が朝永さんのお話を初めて聞いたのは入学式の訓辞です。懐かしくなって当時の日記を読んでみました。
1961・4・11(晴・曇)
有能な社会人に!朝永学長訓辞
大学は教育の場であるとともに研究の場である。学者にはならなくても研究者としての態度を忘れてはならず、少しでも学問の進歩に貢献しなければならない。
進歩とは学説を訂正していくことである。自然科学の法則が誤りを正すことによってよりよく進歩を遂げてきたように、諸君も先人の事業を進展しなければならない。
このように絶対正しい学説は存しない。学問をするものは常に謙虚でなければならない。とくに事実に対して。相手の論に十分耳を傾け、自分の論にも誤りがないかと考えてみなければならない。教室に閉じこもっているだけでいいということはない。サークルで自治会で社会人としての修練も積まなければならない。
ただその時にも謙虚な態度を失ってはならない。本学は心から諸君を歓迎する。
午前10時、朝永学長は静かに語り始めた。日本最高の自然科学者たるにふさわしいと思った。雄弁というのではないだろう。終始、ほほえみを浮かべて語りかけられた。ほほ骨の突き出た痩身の学長は以前「文春」のグラビアでみたよりも人なつっこかった。
今日から教育大学の学生になった。朝永学長、ほかの教官、先輩たちと学校の歯車になる。ほんとうに嬉しい。新しい生命が喜んでいる。
1,自分に出来ることは何でもやって自分を試してみたい。
2、自分に対して、そしてあらゆる人間と社会に対して責任をもてる人間になりたい。
事実に謙虚たれ。自分に謙虚たれ。他人に謙虚たれ。学長はこういわれた。
桐葉の下に教育大学生として最善を尽くす決意である。頑張るぞ。
読み返すと恥ずかしくなるところもあるが朝永先生の語りかけてくれる声が確かに聞こえてくる。
この機会に宜しかったらみなさんも朝永さんのお話に耳を傾けてみてください。
朝永振一郎学長の桐花寮での講演記録
http://tue.news.coocan.jp/memories/index-t.htm
に変更されているのでお知らせします。