【古名「ナギ」、万葉集の中にも登場】
水深の比較的浅い淡水に生えるミズアオイ科ミズアオイ属の抽水植物。水底の土壌に根を張り、葉と茎の一部は水面上に顔を出す。花期は8~9月頃で、茎の上部に穂状の総状花序を形成し青紫色の涼しげな花を数個ずつ付ける。花径は3cmほど。雄しべ6個のうち5個の葯(やく)は黄色いが、残りの1個は紫色でやや下向きに垂れ下がる。
葉は光沢のあるハート形。和名はその形がアオイに似て水生植物であることによる。古くは「水葱(なぎ)」と呼ばれ、万葉集にも「水葱」「小水葱(こなぎ)」「植ゑ子水葱(うえこなぎ)」などとして詠まれている。「苗代の小水葱が花を衣(きぬ)に摺り なるるまにまにあぜか愛(かな)しけ」(14巻3576、作者未詳)。「水葱」は本来「菜葱」を意味し、古くから若葉は和え物や汁物など食用として、また花は染料として利用されてきたという。
河川や水路の改修、除草剤の使用などによって全国的に生育場所が減少し、環境省はレッドリストに準絶滅危惧種として掲載している。そのミズアオイが東北地方の太平洋沿岸部を襲った東日本大震災で一躍注目を集めた。津波によって地面を覆っていた表土が削られた結果、地下で休眠していた種子が発芽し各地でミズアオイの群落が蘇った。「藻畳にもり上りをり水葵」(浅野白山)