再び、楊貴妃の声は、哀愁を帯びて消え入りそうになり、じっと天上ではありません、足元から遠く地上を見遣りて、それでも何かその声には、最初の声とは違って、幾分楽しげな様子さえ浮かべた特別な聖なる声に変わります。
さて、この声はどのようだったのかは、読む人の想像でしか分かりません???
その詞は
七月七日長生殿、夜半無人私語時
まだ、玄宗と楊貴妃の、宮中での、二人だけの甘い生活が続けられていた天宝十年です。“仙楽風飄処々聞<仙楽は風に飄よって処々に聞こゆ” の時です。
夜もまだ半ばが過ぎた頃です。霓裳羽衣の緩やかな曲が辺りにゆっくり流れております。宮殿の中は、二人だけの静寂の世界が広がっております。二人はお互いにこれからの世界について話します。
私の「古文前集」には、この “私語時”の補足として「大宝十歳明方、玄宗は楊妃の肩に寄りかって。天の川を仰ぎながら、牛女の事を思って、密かに誓うのでした。「必ず、どんなことがあっても永遠に夫婦でいような。」と 。 それが次に書かれている十四文字の詞です。
“在天願作比翼鳥、在地願爲連理枝”
<天に在りては願わくば比翼の鳥作らん。地に在りては願わくば連理の枝為らん>
なおこの部分を、幸次郎先生は
天に在りては願わくば作らん比翼の鳥 地に在りては願くば為らん連理の枝
としています。どう思われますか???