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「この二ヶ月大変な思いをさせたね」仕事で鍛え抜いた言葉で、ど真ん中を外さないかつての営業マンは、わたくしを連れて、これまたいつもと変わらない温泉地へ向け、但馬街道を走り抜けました。
5月28日、台風がまだ遠い土曜日の午後のことでした。
すでに田植えの終わった山里の風景は“丸ごと緑”で、曇り空にポツリポツリの雨でしたが、苦にならないドライブでした。
鳥取へ続く9号線の幾つものトンネルを抜け、最後に長い「春来(はるき)トンネル」をくぐると但馬の海がぐっと近づきます。
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有名な湯村温泉を過ぎた直後を浜坂に折れ、「こんにちは」 暫くして今日のお宿に到着です。
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温泉はいつもの七釜の湯ですが、今日はお宿が違いました。
こちらは二度目です。床(とこ)の花は何と「あざみさん」。大きな柿の木の下を疎水が流れ、大変清潔なお宿です。
有難いことに今夜はわたくし達だけで、大好きな湯に、入り放題の幸運に恵まれました。
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「どんどん飲んでね。今日は君の慰労のために来たんだからね」
二ヶ月よく頑張ったねと夫が言っているのは、義母を送った後の諸事のことです。
しつらえ舞台も、幕が開くといつしか主役が入れ替わり、夫の独り舞台の始まりです。盛り立て役で今夜はホタルイカが踊ります。
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色々なホタルイカの出番がありましたが、ナンバーワンは串揚げでした。牡蠣フライに似ています。
食事の楽しみはここのところ、静かな朝食にあるのではと、ひとり座長にやられっぱなしの私は思います。
~~~~~~~~2Day
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一応浜坂の海は見て帰りましょうと言うことで、七釜を後にして、浜へ車を走らせました。
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浜辺も雨に揺らいでいました。
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旅の研修 <ひとつかしこく
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雨脚が時間を追うごとに強まり、台風の接近を感じます。
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浜坂を出て三時間、無事に戻って来ました。
今は静かになりましたが、台風はどのあたりにいるのでしょう。東に向かうのが心配です。
自分で買ったお土産は切干大根。ハスの花細工は宿のおかみさんが下さいました。
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頂戴したのがハスの花とは・・おばあちゃんと思うことに致します。
今はまだ来れるこの距離も、段々遠くに感じることになるのでしょう。
雨の浜坂も心のフォルダにそっと一枚。忘れないでの思いを込めて。
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扉の向こうに小さな椅子が
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浅薄にしてバラの冠をつけてしまったわたくしはこの時期、トゲが身を刺す思いですが、昨今、実にいい名前だと開き直っております。
過去に薄黄の美しい薔薇を咲かせましたが、虫にやられました。ツルバラをフェンスに巻きつけましたが二年ほどで失敗しました。消毒もしましたがうまく行きませんでした。
わたくしは夫の呪いではないかと思っています。
大概は非常に扱い易い人物ですが、畑に少しでも花を植えること、動物を飼うことははっきりと拒絶します。
「そういうことはやってしまったほうが勝ちよ」とご近所の奥様からアドバイスを受けますが、余りに嫌がることはと今のところ無理を通していません。
裏にツルバラが巻き付き、傍らにペットがいるようになった時は、Jがいなくなったという時ですので、今でいいかと思っています。
そんな中、庭にこんな可愛い花が咲いています。
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きっと名前があるのでしょうが分かりません。シダに咲いた花です。
ボクシングをしているような、踊っているような愉快なスタイルです。
こんな風に二人して生きていけたらいいなぁと思っています。
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扉の向こうに小さな椅子が
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これってやはりすごいことなんですよね?
今朝のご当地新聞に載っています。この記事を見つけたことがわたくしには大発見ですが。
それくらい興味のないことでした。でも進歩ですよね。目に止まるのですもの。
ではどうぞ。
エッ!もうすでに全国紙ですか・・やはり・・・そうですよね・・
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孫が生まれてから、余りにものを知らない自分が恥ずかしくなっています。
Bunさんはすごいです。
考古学は端(はな)から無理ですので、それに変るものを何かひとつでもと思いますが、今のところ掘っても何も出て来ません。
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百万ボルトの瞳に答えられるバーになりたいですが、縄文の世界に戻り着くよりもはるかに遠い道のりに、立ち止まっています。
でも人間には、ひとつは取り得がありますか?我が身の中の大発見の旅は続きます。
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扉の向こうに小さな椅子が
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少し少なくしてねの注文が効いて、今回は一本も捨てることなく使い切りました。
お目当ては本人が好きなブリ大根を酒のアテにするためです。それだけでは追いつきませんので、おろし大根もJの怪力を利用します。
漬物がベターなのですが、ヘタクソで飛ばし続けています。
先日プラっと出かけた農産物売り場で、三木市の生産者の方の切干大根を手に入れ炊いてみました。
太切りのタイプでした。
サラダ油で炒め、あえてアゲを入れるだけにしましたが、ゆっくり煮しめて、結果Jが余りに驚いたのでこちらが驚きました。
「今年は大根でいっぱいにするからね。太いと僕でも切れるよね。君には迷惑を掛けないからね」
晩冬の頃、しょこらろーずさんが切干大根を作られて、簡単でとても美味しいと記事を書いておられました。
日持ちも効くし、良い貯蔵方法でした。何でも段々メンドクサクなって来て、逃げている自分を反省しました。
本格的な漬物でなくても、母が冷蔵庫で保存する大根の甘漬けレシピを置いてくれている。
自分がこんなにマザコンだとは思わなかった。段々母のようになりたくなって来ている。
よし!夫とマザコン戦争をするぞ。こんな戦争なら神様は許して下さると思うから。
Jさん。かかって来なさいよ。今年は何本の大根の矢?
切って炊いて漬けるからね・・私。
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扉の向こうに小さな椅子が
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亡母が悲しがっていると思います。非常に弱る直前まで、家に花を切らさない人でした。
日頃余り褒められたことのない私を、お花の先生だけは褒めて下さいました。
それは生け方の出来映えではなく、私がスケッチに描く一点をでした。
テーブルの花を簡単なスケッチで描き止めていたわたくしは、お稽古先でも挿し方、出来上がり図を描く事は苦になりませんでした。むしろ帰るとすぐ忘れる自らのエン魔帳代わりでした。
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上のような花は比較的簡単なのですが、問題は様式花でした。決まった型を使って風景を現して行きます。
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写景挿花様式本位直立型 同じ
こんな時に記帳は大変な手助けになりました。これからのあやふやな生活に、書き止めるひと手間は大いなる助けになる予感です。
先生はそれとなく励まして下さっていたのだと思います。
人生の大先輩である先生は、お花の指導だけではなく、大切なことも教えて下さいました。
「○さん、あのね。神さんは優しい方だから、貴女がずっと怒っていたら、<ああ、この子は怒ることが好きだから、ずっと怒るようにして上げよう>貴女がずっと笑っていたら、<この子は笑うことが好きだからそのようにして上げよう>と思われるものなのよ。よう考えなさいよ」
痛たぁ。
しっぺいを受けても先生の元に帰りたい。
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扉の向こうに小さな椅子が
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話題の「阪急電車」。有川浩のベストセラー小説の映画化で、脚本は人気TV小説「おひさま」を手がける岡田惠和。
最初はバラバラの登場人物が、一本の線路を走る阪急電車でつながっていく構図は面白く、個の人格も短いながらもよく描かれていて秀作でした。
数々のキラ星の言葉がありましたが、「いくら泣いてもいいけれど、涙は自分で止めるものよ」と孫の芦田愛菜に語り掛ける、宮本信子のセリフが印象的です。
「たくさんの敵がいても、誰かがあなたを見ていてくれる」中谷美紀がいじめられている小学生に掛ける言葉が心を打ちます。
阪神間を知っている者にはあずき色のお馴染みの電車で、場面も殆どがあそこだと思う所ばかりでとても楽しかったです。
一方の発着駅である西ノ宮北口。この群像劇に入ってもいい若き日の思い出がわたくしにもひとつばかり・・
いえ止めておきましょう。Jが泣くといけませんから・・・
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扉の向こうに小さな椅子が
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何の予備知識もなく見たのですが、陽子ちゃんは教師になるのですね。
涙は苦手なのですが、今日も色んな場面で涙が出て困りました。
私にも年若い教師の姪が二人います。ツインズなのです。二人揃って教師になりました。
新任の頃、自宅に仕事を持ち帰って陽子ちゃんのように頑張っていました。
子供がかわいいようで、教師は適職だと見ていました。
今日は家庭訪問の場面でしたが、陽子の緊張が二人にだぶり、こうして彼女達も成長していったのだと感慨深いものがありましたた。
時代は違いますが、どのような展開が待っているのでしょう。
泣くのは嫌ですが、これはどうやら免れそうにありません。
白いハンカチを二枚用意して、二人の分も泣いてあげましょう。
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扉の向こうに小さな椅子が
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斜め向かいの奥様が立っておられました。
「貴女にちょっと見て貰いたいものがあって」とおっしゃいます。
丁度お茶でもしたい時でしたので上がって頂きました。
「先日京都の大徳寺に主人と出かけた時、住職さんのお書きになった短冊が売られていたの。○さんにと思ったのだけれど、ちょっとお高くて・・せめて言葉だけでもと控えて来たの。私の日頃の感謝の気持ちにぴったりなの」とおっしゃいます。
「?」
「いつも上からお庭の竹を見せて貰って喜んでいるのよ」
メモには漢語でこう書かれてありました。“竹葉起清風” 竹ようようとして、清風を起す。
<竹の秋>は春の季語で、今がハラハラとご近所に一番迷惑をお掛けする時期で、私達はいつも申し分けない気持ちでいます。この時も「すみません」とっさに謝りましたが、「そんなこと・・感謝しているのよ。爽やかな気分にさせて貰って」
以外な言葉をお聞きして、ありがたいこととこちらのほうが感謝させて頂きました。
飛んで行く葉っぱを追いかけ、時間があればせっせと道路を掃く夫に免じて、許して下さっているのだと思います。
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まだ三分くらいの生え変わりで、これからが大変ですが、わたくしも夫に負けないで、修業の時期を頑張ります。
七月には竹葉起清風となり、日頃の不明を挽回出来ることを願って。
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扉の向こうに小さな椅子が
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なんと何時か今かと待ち望んだキヌサヤエンドウが葉陰に垂れ下がっています。
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夫が種を蒔いてから半年振りになるかと思いながら、畑には殆ど入らない私が、いそいそと収穫に取り掛かりました。
それくらいこの野菜を軽くソテーして食べるのが好きなのです。
サラダ油で炒め、塩、コショウ。卵を回しいれて少し醤油を落とすだけの何でもないものですが、みずみずしいシャキシャキ感は朝取りの喜びです。
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野菜の収穫時になると、お近づきになった皆様に貰って頂けないのが残念です。
気ままなわたくしですが、この野菜と夏のトマトが大好きです。Jに素直に感謝出来る季節の到来を密かに喜んでいます。
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扉の向こうに小さな椅子が
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元気な人に付いて行くのも大変です。
そんな中、インターホンのベル越しに運ばれて来たものがありました。
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“いつでも遊びに来てね”息子夫婦から母の日のことづけでした。
Yちゃんが選びました。色んなお味のはちみつです。
見計らったようなテイストに、わたくしのきつかった疲労もきっとよくなる予感です。
贈り物選びは難しかったことでしょう。
わたくしなどは簡単に金封で済まして来ましたが、もう少し努力しても良かったかなと思います。
相手の人を思いながら選ぶということは、実は大変な真心がこもっていることなのだと気付きました。
嫁という私に気を使ってくれる人を得て、彼女がきっと心を込めて選んでくれたに違いない“思い”を知って、自分の安直な行為を反省しました。
もう二人の母は帰りませんが、これからに生かしたいと思います。
三日続いた雨も上がりそうです。
はちみつをなめながら、もうひとつ残した大仕事に頑張ります!
百人力だぁ。
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扉の向こうに小さな椅子が