グルメな生活 細胞のおかけ゜
甘味、うま味、塩味などの味は、体に摂取すべき食べ物であることを伝え、苦味や酸味は食べてはいけないことを伝えるシグナルである。一方で、われわれの味覚は、あそこの店はおいしい、あそこの店はさほどおいしくないと判断できる。この時、うま味のシグナルであるグルタミン酸の含まれている量の多さで判断しているわけではない。そうだとしたら、うま味調味料を多く使っている店がおいしい店となってしまう。味覚は、不思議な感覚である。味細胞には、五つの基本味をそれぞれ厳密に区別して受け取るタンパク質が存在している。しかし、一つの味細胞は、それらのうちの一種類だけを持っていて特定の基本味だけに応答する、というわけではない。それに加えて、味細胞の中には、自らは味物質そのものを受容するのではなく、複数の味情報を混ぜ合わせるのを役割とするものも存在することがわかってきた。これは、生物が生きていく戦略から考えると大変重要である。酸っぱければ食べないという単純な判断をしていると、栄養はあるか゛少し腐っているものについて、食べる機会を逃し、生きる機会を逃すことにつながる。野生動物にとっては生死に関するぎりぎりの判断を下すための味の情報処理機構が、われわれについては、店ごとの味の違いを楽しむようなグルメな生活を可能としている。このコラムも2年が過ぎ、今回が最終回となる。まだまだ、味とにおいについて面白いことがたくさんあり、どこかでまた、話題を提供できる機会を楽しみに筆を置きたい。(柏柳 誠=旭川医大医学部教授)
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