問題解決へひとつずつみえる世界で議論必要 内山 節(哲学者・立教大大学院教授)
環境問題のむずかしさは、それが複合的な原因によって生じている、 というところにある。技術の問題、社会生活のあり方、先進国と途上 国の経済格差、世界の貧困問題・・・。現代世界のさまざまな問題 が積み重なって起っているのが、現代の環境問題である。今日進行 している石油・原油高もその一端を垣間見せる。中国やインドなどの 経済成長をつづける国々で、石油の消費量がふえてきた。ところが それ以上に影響を与えているのは、投機的なマネ-が原油の取引 市場に流入し、いわば株を買うような感覚で、原油への投資が集ま っていることである。アメリカのサププライムロ-ンの混乱で行き場を 失った資金が、この動きを促進した。では、実際のところ世界のエネ ルギ-事情はどうなっているのか。本当にエネルギ-は足りなくなっ てきているのか。新しいエネルギ-開発はどこまで進んでいるのす。 この問いに対しては「世界エネルギ-市場」が役に立つ。
世界エネルギー市場―石油・天然ガス・電気・原子力・新エネルギー・地球環境をめぐる21世紀の経済戦争 価格:¥ 2,730(税込) 発売日:2007-08 |
石油に対しては、その代替エネルギ-として、バイオエタノ-ルが注 目されている。ガソリンに数パ-セントから二割程度を混ぜて、自動 車用燃料として使うかたちで、ブラジル、アメリカ、EU、日本などで 実用化もされている。ところがバイオエタノ-ルが出回りはじめると、 今度は食料価格が上昇してしまった。
バイオエタノールと世界の食料需給 価格:¥ 3,675(税込) 発売日:2007-10 |
「バイオエタノ-ルと世界の食料需給」に詳しく書かれているように、 ブラジルではサトウキビを、アメリカではトウモロコシ、フランスではテ ンサイ、小麦などをその原料に用いているからである。これではエネ ルギ-をとるか、食料をとるかになってしまい、問題が複雑化してしま っただけだ。世界レベルでとらえようとすると、環境問題はこのように うまくいかない。とすると、どうしたらよいのだろう。自分たちのみえる 世界で、ひとつひとつ問題を解決していく地道な努力の積み上げから しか、環境問題の展望はひらけないかもしれない。このような視点に たつとき参考になる本のひとつに「環境漁協宣言」(矢作川漁協100 年史編集委員会著、矢作川漁協発行、風媒社発売、3990円)があ る。愛知県の矢作川漁協が、明治以降の矢作川の荒廃を直視し、川 の自然をとり戻すためにはどうしたらよいのかを提案した本である。 「川とヨ-ロッ゜」(保屋野初子著、築地書館、2520円)は、現在ヨ- ロッパ諸国でおこなわれている河川の自然再生を紹介している。可 能なかぎり自然状態に戻そうとする「近自然工法」が、今日ではヨ- ロッパの河川改修の中心になっている。
日本海学の新世紀 7 (7)
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2007-05
「日本海学の新世紀<7>つながる環境 海・里・山」も面白い。日本 海をとりまく日本、ロシア、朝鮮半島、中国を、環日本海世界として一 体的にとらえることによって、環日本海の環境のあり方をみつけだそう とする視点がこの本にはある。自分たちの目でみえる世界で議論しな いと、泥沼のなかでもがくしかなくなってしまうのが、現代の環境問題 なのである。