活路 リスク覚悟で起業に挑戦
国内総生産(GDP)の実質成長率が約35年ぶ りの二けたマイナス、家も車も売れず、飲食店も 空席が目立つ-。「100年に1度」の景気悪化に、 年金などの将来不安も加わり、人々は財布のひ もを固く締める。だが、どこかにビジネスチャンスは あるはずだ。札幌市の融雪機のメンテナンス会社 「モンスタ-サ-ビス」社長の古田守さん(34)は 今、道内各地の顧客の元を飛び回る大忙しの日々 だ。転機は2年前に突然やって来た。当時は道内 シェア5割を誇った岩見沢市の融雪機メ-カ-の責 任者だった。札幌で支店開設を準備していたと時、 社長から倒産を告げられた。
◆ ◆ ◆
ぼうぜんとした。家族の顔とともに、客の顔が脳裏をよぎった。同社はオ リジナル製品を販売し、メンテナンスも行ってきたため、倒産で道内1万 数千戸の購入者も放り出されることになる。客には年配者も多い。「放っ ておけない」と自ら300万円を工面し、7人の元部下とモンスタ-サ-ビ スを起こした。顧客の多くは引き継ぐことができた。売り上げ高は現在約 5千万円。「不況だけど、今冬も業績は落ちていない。お客さんのニ-ズ は確実にある」と古田さんは手応えを感じる。将来は融雪機の製造も手 がけることが目標だ。道によると、道内の「起業」件数は年間約1万3千 件。全く新しい分野に飛び込む動きも相次ぐ。
◆ ◆ ◆
「ちょいのりレンタカ-」。札幌市中央区内のガソリンスタンドでは、 こんな垂れ幕が風にたなびく。ガソリンの販売低迷に悩む札幌の中 和石油が2月から乗り出したレンタカ-事業だ。中古車販売で扱う 車両と給油所のネットワ-クを使えるのが強み。同社は「不況でマ イカ-を手放した人などに気軽に使ってもらいたい。利用は、まだ少 ないが、問い合わせは増えている」。家電販売の小樽赤尾電化(小 樽市)は、今や新規事業が本業の不振をカバ-する。赤尾政彦社長 (53)のベ-グル好きが高じて3年半前、道産小麦を使ったペ-グ ルの製造・販売を始めた。現在、札幌、小樽計5店舗を展開し、「固 定客も増え、道外からの出店要請もある」(赤尾社長)という。その売 上高は、9年前の半分以下に落ち込んだ本業を上回る。公共事業の 減少に苦しむ建設業界でも、しずお建設(士別市)がサフォ-ク種羊 の飼育を手掛け、船橋西川建設(北見市)がビ-トや小麦を生産する など、農業への参入が進む。まだ軌道に乗った事業は少ないが、「リ スクはあっても雇用を守るためには、違う分野に飛び込むしかない」 (しずお建設)と力がこもる。厳しい荒波の中で、「不況に負けない」と 必死に踏ん張っている道内中小企業と働き手たち。その知恵と決意 が試されている。(報道本部の勝木晃之郎が担当しました)