ウサギ 臨床応用に期待 ヒト型に類似デ-タ得やすく
さまざまな細胞になる能力があり、再生医療などへの応用が期待される人工多能性幹細胞(IPS細胞)。理化学研究所バイオリソ-スセンタ-(茨城県つくば市)の本多 新・客員研究員らは、ウサギでの作製に初めて成功した。細胞はヒトに近い特徴を持つ上、ウサギは実験動物として扱いやすい。卯年の今年、研究グル-プは臨床応用へ向けたジャンプアップを目指す。
小型で安価
IPS細胞は、成長した体細胞に外部から遺伝子を導入して細胞の性質を「初期化」してできる。京都大の山中伸弥教授が2006年にマウスで、07年にヒトで、それぞれ開発に成功。今ではラットやサル、イヌ、ブタなどでも作られ、動物実験に使われている。そんな中、なぜウサギなのか。 「マウスとヒトのiPS細胞は特徴が異なる」と本多さん。実験動物として最もよく使われるマウスは飼育が容易で扱いやすく、最初にiPS細胞が作られた。だが細胞の塊の形や性質は「ヒト型」とは異なる「マウス型」。実験デ-タをそのまま人間に当てはめるのは難しい。一方、サルやブタのiPS細胞はヒト型だが、実験動物としては大型で扱いにくく、購入や飼育経費もかさむという。そこで注目したのがウサギだ。小型で比較的安価。子供を多く生み、妊娠期間も短く成長も早い。実験動物にうってつけのウサギでiPS細胞ができれば、臨床応用への橋渡しになると考えた。
肝臓と胃で
本多さんらはウサギの肝臓、胃、皮膚の細胞にそれぞれ「山中因子」と呼ばれる4種類の遺伝子を導入し、iPS細胞作製を試みた。遺伝子の運び屋にはレンチウイルスを使用。ヒトやほかの動物でiPS細胞が作りやすいとされる皮膚細胞からはできなかったが、肝臓と胃の細胞で成功した。解析の結果、特徴も「ヒト型」だった。ウサギのIPS細胞作製は海外の研究チ-ムも試みたが、皮膚細胞からだったため、うまくいかなかったとされる。肝臓や胃の細胞を使ったことが本多さんの勝因だった。
ESと比較
「iPS細胞の『質』を評価する場合には、胚性幹細胞(ES細胞)との比較が大切だ」と本多さん。ES細胞はiPS細胞と同じ万能細胞で、研究も先行している先輩格。既に得られているデ-タと比較してiPS細胞の質を評価できる。ウサギでは、同じ遺伝情報を持ち、治療に使った場合は拒絶反応がない「クロ-ンES細胞」を作る技術が既にある。本多さんは1匹のウサギからiPS細胞とES細胞を作り、それぞれを目の網膜色素上皮に成長させた後、iPS由来のものを左目に、ES由来を右目に移植する実験を計画している。これにより、同じウサギの中でES細胞とiPS細胞の安全性や効果の差を同時に調べることができる。本多さんは「こうした実験ができるのはウサギだけ」と意義を強調している。