森 亨 (結核予防会結核研究所・前所長)談 リンパ系の最も重要な働きは外から侵入してくる病原体(細菌、 ウイルス、寄生虫など)から人体を守ることです。この仕組みは 「免疫(めんえき)」(「疫」つまり「はやり病」を免れる)と呼ばれま す。例えばインフルエンザ・ウイルスがあなたの肺に侵入したとし ます。ウイルスは肺の組織の細胞に入って増殖し、病気(インフル エンザ)を起こします。しかし、人体の方もただやられているだけ ではありません。ウイルスの成分(抗原)をしっかり認識し、それに 対応する抗体をリンパ球(B細胞)が作るようになります。こうなれ ば、抗体がウイルスに結合してこれを殺してしまいます。このよう に、免疫機能が病原体の増殖の勢いに勝てば、インフルエンザ 他の病気は治癒することななります。そして、このあと人体が再び 同じ病原体の侵入を受けたときには、以前の感染の記憶がリンパ 球に残っていて、抗体を一斉に作り出し、これで病原体を撃退して しまいます。そのため、このときには病気は起らないか、起っても ごく軽くすみます。人工的に軽い感染を起こさせて、このような抗 体を作ることをリンパ球に記憶させれば、その後ほとんどの病原体 が侵入したときにこれを同様に撃退することができます。これが予 防接種ですね。免疫にはこのようにリンパ球のうちB細胞がつくる 抗体が主役になるもの(「抗体性免疫」とよぶことがあります)のほ か、抗体ではなく細胞(T細胞やその他の白血球)が直接攻撃する 方法によるものもあります。後者は「細胞性免疫」と呼ばれ、結核 などの病気ではもっぱらこの免疫が生体と病原体との戦いの中心 になります。
結核菌は肺に侵入した後、マクロファ-ジ(大食細胞、白血球の 一種)に食われますが、そのマクロファ-ジのなかで増殖を始め ます。ところが以前に感染を受けた人(あるいはBCGによる予防 接種を受けた人)のマクロファ-ジは、侵入した菌を殺してしまい ます(初めて結核感染を受けた人のマクロファ-ジはそうはいき ません)。この場合には免疫記憶を持ったT細胞が、侵入してきた 結核菌をみつけると、危険信号を出してマクロファ-ジを活性化し、 菌を殺す力を発揮させるのです。何かの原因でリンパ球が正常に 働かなくなった場合、免疫が低下します。HIV感染、白血病、ある 種の薬剤を使う場合、生まれつきの免疫異常の場合などがそうで すが、このようなときには普通の人がかからないような感染症に ひどくかかりやすくなります。リンパ球が主役となる免疫はこのよ うに感染症の予防という点で人間に不可欠なものですが、一方か えって人間に不利益をもたらすこともあります(アレルギ-と呼ば れます)。花粉やダニなどの成分に対する免疫作用が、花粉症や じんましん、ぜんそくを引き起こしますし、同様の仕組みでリウマチ やその他の病気が起きることも知られています。
老化によって低下する免疫機能 年をとると、リンパ球の攻撃能力や識別能力は低下する。B細胞は 抗体を放出する能力が落ち、T細胞は外敵を見分ける能力が落ちる。 自分の体を守るうえで大切な味方の細胞を攻撃してしまうことも起き やすくなる。それに伴い、各種の感染症にもかかりやすくなる。
骨髄で作られる リンパ球は、ほかの血液と同様、全身の骨の中にある骨髄で作ら れる骨髄は骨の中のすき間にあるドロドロの液体で、1日に約10億 個も作られる。