象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

アーベルとその時代、その3〜”パリの論文”とアーベルの楕円関数論と〜

2020年04月03日 03時00分10秒 | 数学のお話

 前回(2/23)の”アーベルその2”では、「パリの論文」の紛失の真相を中心に述べました。
 このパリの論文の原題は「ある非常に広範な超越関数の一般的性質において」で、その主題は、一般的な代数関数の積分(アーベル積分)に対し、”加法定理”が確立する事でした。
 これはあまりにも突飛な理論で、パリ学士院の審査員であったコーシーやルジャンドルの理解を大きく超えてました。当時この理論を理解できた数学者といえば、ガウスとヤコビくらいでしたでしょうか。
 因みに、アーベルのパリの論文はコーシーの亡命やルジャンドルの病死などもあり、1841年になってようやく出版されました。アーベルの死後、12年経った後の事でした。

 そこで今日は、アーベルの「パリの論文」の心臓部である加法定理と、ガウスから受け継いだ等分理論という楕円関数の2本の支柱ついて述べたいと思います。
 これも5千字近くになりますが、日本語ばかりなので気楽に眺めて下さいな。


アーベルとオイラーのそれぞれの加法定理

 このアーベルの加法定理に関しては、オイラーが先に発見してたんですが、アーベルは「パリの論文」の中で、楕円積分の加法定理を大きく開花させ、楕円関数の扉が世界に大きく開かれます。
 アーベルとオイラーの加法定理の違いですが、オイラーが三角関数に関してなし得たものをアーベルは、最も自然に楕円関数の上に拡張したんです。それはガウスやヤコビの様に、難渋なる帰納や模索の痕跡もなく、全てがスラスラと進行したんです。
 このスラスラ感こそがアーベルの非凡なる天才所以なんですね。

 オイラーは、レムニスケート積分に由来する簡単な変数分離型の微分方程式(mdx/√(1−x⁴)=ndx/√(1−y⁴))の代数的積分を発見し、一般解を見つけたんですが。
 この積分には加法定理が内包され、三角関数と同様に等分方程式が書き下されます。しかしオイラーはガウスの様に、等分方程式の解法(等分理論)の究明に向う事はなかった。
 しかし、これこそが楕円関数の代数的積分の探索であり、アーベルは、オイラーのこの変数分離方程式の中に楕円関数論の出発点を見たんです。
 オイラーとアーベルの間にはルジャンドルの変換理論(後にヤコビが証明)が横たわってたんですが、アーベルはその変換理論のトンネルをくぐり抜け、オイラー(の一般解の究明)に立ち返ろうとします。これにもガウスから得た等分理論の示唆が強力に働いた様ですね。

 アーベルは、オイラーが開いた微分方程式論の枠内にガウスの等分理論を配置し、等分理論の可能性を虚数の場合も含め、究明しようとした。
 ここに初めて、”虚数乗法論”の可能性が発生するんですが。その確信を支えたのが、楕円積分の起源となったレムニスケート関数が虚数乗法を持つ等式(φ(ix)=iφ(x))の存在でした。

 因みに、特異モジュールを持つ楕円積分の逆関数を虚数乗法を持つ楕円関数と呼びます。”モジュール””虚数乗法”という聞き慣れない言葉が出ますが、これもアーベルの楕円関数には欠かせない重要な要素となります。
 とにかく、アーベルとオイラーの関係を簡単に理解です。虚数乗法とレムニスケート積分については、次回の”その4”にて詳しく述べたいと思います。


アーベルの等分理論とヤコビ変換理論

 パリ留学の2年後(1829/1)に、病に伏したアーベルは力を込め、「パリの論文」と同じテーマで、対象を超楕円積分に限定して精密に叙述した、僅か2頁の遺作となる「ある種の超越関数の一般的性質に関する諸注意」を書き、クレルレの数学誌に掲載した。
 その脚注には「パリの論文」の存在がごく僅かに示唆されてた。これこそがヨーロッパ中を驚愕させたアーベルの加法定理なんですが。
 ヤコビは、それを見てアーベルの数学的企図を理解し、ルジャンドルへの手紙で「パリの論文」の事を伝えました。ルジャンドルはヤコビに教えられてアーベルを理解する様になり、アーベルと手紙のやりとりが始まります。

 ヤコビはヤコビで、この「パリの論文」を深く理解し、アーベル積分の加法定理と楕円関数の逆関数に着目するというアイデアを結合します。そこから生まれたのが”ヤコビの逆問題”です。この逆問題は、ヤコビの執念と創造の賜物でもありますね。
 アーベルの没後、ヤコビはアーベルの数学思想における豊穣な可能性を更に追い求め、2個の複素変数を持つ4重周期関数の基礎理論の構築と共に、”ヤコビの逆問題”を提案し、後年の他複素変数関数論と1変数代数関数論への道を開いたんです(”ヤコビその2”も参照)。

 一方で、アーベルの楕円関数研究のテーマは等分理論です。そこにはガウスの深い影響が認められるのですが、この等分理論の背景には、ヤコビが見出した変換理論が広がってます。この楕円関数の変換理論はヤコビの出発点で、ヤコビはそれをルジャンドルの著作を通じて承知していた。しかし、ヤコビは等分理論には関心はなかった様です。
 アーベルは、ガウスの示唆を受け、等分理論から楕円関数論の世界に入っていくが、ルジャンドルの著作により変換理論も知ってはいました。つまりアーベルは、ヤコビの変形論の”一刺し”に大いに刺激と驚異を受けたんですね。
 そこでアーベルは、ヤコビが提示した諸命題に、直ぐに独自の証明「ある一般的な問題の解答」(1828/5)を与える事ができたんです。つまり、”ヤコビ撃墜”の論文ですね。

 結局、アーベルとヤコビはこの”変換理論”の場において出会い、互いに他を認識しました。
 以降、アーベルはヤコビを、ヤコビはアーベルを目標にし、1828年の1年の間、アーベルとヤコビの競争が続きます。
 この競争は”変形論”を中心として行われたが、”モジュラー形式”にまで到達する必要があります。故に、慌ただしく平和な競争ではなかった。一方、彼らと別世界に安居し静観したガウスが、沈黙の中にこの方面に深く穿入したのは言うまでもない。

 因みに、この変形論ですが。ルジャンドルは第一種楕円関数(∫dφ/√(1−c²sin²φ)=∫dx/√(1−x²)(1−c²x²))を同じ型の積分に変換しようとしますが、変わるとすれば、モジュールcと積分の倍数M(乗法因子)のみです。
 そこでヤコビは、最初の楕円積分のモジュールλと変換後の楕円積分のモジュールκとの間に成立する第一種楕円微分方程式(dx/√((1−y²)(1−λ²y²))=dx/√(M(1−x²)(1−κ²x²)))を書き下します。このモジュールλとκとの間には代数的関係が成立し、これをモジュラー方程式
呼びます。
 流石のアーベルもここまでは気付かなかったみたいですが。ヤコビもしてやったりと思った事でしょうね。

 
アーベルの楕円関数論と”虚数乗法”と

 アーベルとヤコビの優先権争いがしばし話題になるが、競争というよりも友情ですね。
 その理由はヤコビの態度にある。ヤコビはアーベルの論文を見て、たちまち真価を洞察し、アーベルをライバルと見るよりアーベルの最良の理解者であろうとしました。
 ヤコビはアーベルの遺した研究の真意を解明し、ヤコビの逆問題はそこから生まれたのですが、ヤコビの目には実際には会う事のなかった異国のアーベルの姿が常に映ってたんです。

 ヤコビの変換理論は、ルジャンドルの先駆的な仕事を著しく拡張する事に成功しますが、アーベルの「楕円関数研究•第1部」(1827/9)がクレルレの数学誌に搭載されると同時期に、同じ変換理論を論じるヤコビの論文(未証明)がシューマッハが主催する「天文報知」に搭載されるという出来事があった。
 お陰でアーベルは対応を強いられ、「楕円関数研究•第2部」の搭載が遅れる事になる。

 前述の様に、アーベルはガウスの円周等分方程式にヒントを得て、楕円関数の等分方程式論を展開する。最終目標は等分方程式の代数的可解性にあった。
 アーベルは先ず、一般周期等分方程式の代数的可解条件を確認し、次に周期等分方程式の代数的可解条件の探究を通じ、”虚数乗法を持つ”という条件を見出した。
 これにより、虚数乗法論の端緒を開いたアーベルは、高次次数方程式の代数的可解性を左右する根本的要因が”根の相互関係”にある事を見抜きます。その上、円周等分方程式の代数的可解性が”巡回方程式である”という性質に支えられてる事を認識すると共に、”アーベル方程式”の概念を抽出する事に成功した。
 これは楕円関数の等分方程式の考察から摘まれた”見事な果実”であったのだ。

 ここで注目すべきは、アーベルの楕円関数論の目標は楕円積分の逆関数そのものではなく、楕円積分の”変換理論”と”変数分離型微分方程式の積分”にあったという事実です。
 アーベルの逆関数(φα、fα、Fα)は、変換理論では有用な補助ツールですが、等分理論では逆関数φαは研究の実体にすぎず、”特殊等分方程式の代数的可解性の考察”から、楕円関数の二大主題である”虚数乗法”と”アーベル方程式”が発見されたという事実こそが、とても重要な事ですね。
 このアーベルの等分理論にては、一般等分方程式の代数的可解性を示すのに、アーベルが構成的に根の代数的表示式を書き下したという事実こそが、アーベルの驚くべき独創性を表してます。
 つまり、代数的に可解な方程式の根のあるべき姿を具体的に書き下すという、アーベルの着想がもたらしたアーベルの楕円関数論の発露なんですよ。これこそが、ガウスですら出来なかったアーベルの面目躍如っていう奴です。

 アーベルの亡き後、ヤコビの楕円関数論も整理の方向に沈滞した。ヤコビがアーベル(のパリの論文)を長生きさせたかったのは、アーベルの着想をその中に見たかったからだ。
 ヤコビはアーベルの代数関数に”アーベル積分”の名を与えた。その最も簡単な超楕円積分でも完全に克服できずに終った。
 というも、アーベルもヤコビもガウスも関数論の基礎の上には立脚していなかったのだから。故に、リーマンやワイヤシュトラウスの出現の後に、楕円関数論という形で初めて完成の域に達したのだ。


最後に〜アーベルとヤコビとガウスと

 一方でコーシーの不注意により、アーベルの虎の巻である「パリの論文」は一時失われたんですが。
 実解析の方面では、この憎きコーシーが試みてた解析学構築の新構想にも深い感心を寄せ、無限級数の収束性(アーベルの定理)や2項定理に関する偉大な寄与がある。
 しかし、ガウスの数学的遺産の洞察と継承という一点にこそ、アーベルの数学研究の核心が認められます。
 そのアーベルも1829年4月6日、結核の為にフローランベルグにおいて亡くなった(享年26歳)。

 アーベルとヤコビと、そして彼らから離れ黒幕の狸にいた気味悪い競争者ガウスとが楕円関数論に寄与したものを比較して、クライン(1849-1891)は以下の様に述べた。
 ”ヤコビの特色は独立した関数としてテータ(楕円関数)を取り上げた。しかし、テータ関数はガウスも持っていた。アーベルの長所は代数関数の積分というアーベルの定理にある。しかし、ガウスはモジュラー形式に到達してた点で二人の若い数学者を凌ぐ”

 しかし、「近世数学史談」の著者•高木貞治氏は反論する。ヤコビのテータ関数、ガウスのモジュラ•ファンクション、と併せ、楕円関数論の3つの柱を作ろうと思えば、アーベルの虚数乗法こそが最も大物であろう。
 この虚数乗法はレムニスケートでガウスが既にやってるが、テータ関数を整数論に応用しガウスを凌ごうとしたヤコビはなんと言うだろうか。

 つまり楕円関数においては、ガウスよりもアーベルやヤコビを評価すべきであると、私には聞こえる。



16 コメント

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楕円には興味あるけど転象さんの数学ブログにはオテアゲです (コロナ楕円関数論希望者)
2020-04-03 03:54:26
新型コロナウィルスは何故円形なんだろう…
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コロナ関数さんへ (象が転んだ)
2020-04-03 04:11:21
何故なんでしょうか?
アーベルの等分理論でバラバラに粉砕できんものですかね。
でもコロナウイルスにとって、エロ爺の存在は非常に有難い。ひょっとして最初の宿主は新宿歌舞伎町のエロ爺かもです。
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ガウスの等分理論 (paulkuroneko)
2020-04-03 06:48:24
ガウスはオイラーと異なり、最初から等分理論に関心を寄せてました。ガウスの著書には、アーベル同様に円周等分方程式の代数的可解性にまで触れてます。その冒頭にレムニスケート積分がぽつんと書かれてます。
等分理論の対象になるのは、円周と円の弧長積分(円積分)とその逆関数(三角関数)だけでなく、レムニスケート曲線とレムニスケート弧長積分(レムニスケート積分)とその逆関数(レムニスケート関数)についても等分理論がある事を見抜き、等分方程式の代数的可解性を考察してたんです。
このガウスの生前には公表される事のなかった記述の”片鱗”を、アーベルは正しく洞察し、ガウスが書かなかった楕円関数の等分理論の構築に向かったんです。
アーベルのガウスの等分理論の継承とはこういう事ですね。

一方、ヤコビもアーベルと同じくして、ルジャンドルの未完の変形論を楕円関数の変換理論へと昇華させます。

つまり、アーベルはガウスを超え、ヤコビはルジャンドルを超えた結果、楕円関数論が日の目を浴びるようになったんです。

朝から余計なお世話でした。
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感染経路不明って (#114)
2020-04-03 07:26:54
夜のクラスターに決まってんだろ
エイズと同じで触ったり触られたり
したらコロナだって伝染る
飲み屋の女も大半がキャリアだろう
水商売の連中ってこういう時ほど
稼ぎ時だって電話掛けまくるんだよ

客いないから困ってるのよ〜
半額以下にしとくから〜
ボトル一本サービスしとくから〜
とか言ってなっ
それで行ってみると客で溢れてる

好きな女の子が横につく事もなく
独りコロナを移され
そして悲しく独りで死ぬんだよ

ハッキリ言っとくけど
飲み屋や風俗店が全て潰れたって
野郎は不自由しないんだよ
どうせゾンビみたいに繁茂するから

街自体を封鎖するんじゃなく
怪しい店から徹底的に封鎖するんだ
アーベルもヤコビもガウスも
おんなじ事言うと思うよ
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数学者にコロナ指数を解いて欲しい (アベノマスク受領拒否し現金給付30万円要求する者)
2020-04-03 07:50:01
天才数学者達の夜の生(性)態を知りたいものです
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paulさんへ (象が転んだ)
2020-04-03 08:47:34
何時も貴重な補足有難うです。

ガウスもオイラーの変数分離型の代数的積分には興味を覚えたとは思いますが。円の等分理論を発見してましたから、レムニスケート曲線も円と同じ様に等分方程式に応用できると考えたんですかね。

結局、オイラーは代数的積分の一般解を優先したのに対し、ガウスは代数的積分から等分方程式を書き出し、その解法に向かったんです。

アーベルはガウスの理論を一歩進めて、等分方程式の可解性の中に虚数乗法を見出し、一気にアーベル方程式の発見に結びつけ、根の代数的表示式を書き出しました。

レムニスケート関数とガウスに関しては次回のその4で述べたいと思います。Paulさんのコメントも参考にしたいと思います。お陰でとても助かります。
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#114さん (象が転んだ)
2020-04-03 08:53:38
私も全く同意見です。
怪しい店を徹底して排除する為にも、封鎖は必要ですね。エロ爺を強制封鎖するのは不可能でしょうから。
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アベノマスクさん (象が転んだ)
2020-04-03 08:58:11
コロナ指数というものを是非作ってほしいですね。
でも韓国も中国も峠を越した感があるのに、何故、隣国の日本は欧州並みに急上昇するのか?
今こそ数学者の頭脳が必要とされてますかね。結局、顕微鏡を眺めるしか能がないウイルス学者はアテにならんかったですね。
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アーベル博士だったら (HooRoo)
2020-04-03 13:18:07
リーマン予想が解けるまで外出禁止って
封鎖令を出すのかしら
ということは一生外には出られないってこと?

でもそこまで徹底しないと日本は手遅れになるわ。とにかく政府に危機感がないのよ

シンガポールは千人を超えたほどだけど政府の危機感は半端ないわ
日本は政府が全く機能してないのよ、マスク2枚なんてフザケてるにも程があるわ👋
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数学ではコロナ危機から人命を救えない!? (軟弱な地球人)
2020-04-03 14:01:51
脆弱な世界が露呈している
コロナ如きでこれだから
原発一基吹っ飛んだら
ドナイするネン
ドゥにもコウにも
ナランゼよ
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