殆ど期待せずに、偶々目にしたドラマだが政治モノとして見ても、結構面白い。
数々のスキャンダルと悲劇に見舞われたケネディ家の内幕を描いた「ケネディ家の人びと」(2011)だが、ドラマでは1960年の大統領選投票日前夜から63年11月22日にケネディ大統領がダラスで暗殺されるまでの3年間を主軸に、ケネディ家の光と影を丁寧に紐解いている。
投資家として全米有数の富豪に成り上がった父ジョセフ・P・ケネディの女癖の悪さは、次男のジョン・Fにもしっかりと受け継がれ、派手な女遊びの様は忠実に描かれてはいる。
が、史実からすれば、弟のロバートも女癖は兄程ではないものの、かなり悪かった。また、ジョンの妻ジャクリーヌも学生時代から男遊びは派手で、エレベータ内で事を楽しむ事もしばしだったという。
一方、一代で巨万の富を築いたジョセフだが、駐英大使に任命され、大統領の座へ野心を燃やすも、アメリカの第2次世界大戦への参戦を避ける為にナチスを養護する発言をした事を責められ失脚。
父はその夢を溺愛する長男ジョーに託すも、戦争中に殉死。一方、兄に劣等感を持つ次男ジョンは、父親の強引な後押しで政治の道へ進み、見事に大統領の座を勝ち取る。
野心に満ちたケネディ家
しかし、大統領選での勝利には黒い伏線があった。成金上りのジョセフは権力と野心の申し子みたいな人物だが、マフィアのボスであるジアンカーナとの交遊によるものも大きく、息子ジョンの大統領選では、彼が脅しで集めたシカゴの票が、僅差での勝利に貢献したとの噂もある。
この黒い真実を、CIA長官のフーバーから知らされたジョンとロバートだが、実質のケネディ政権の監視役だった父ジョセフを敢えて遠ざける事で、黒い噂を消し去ろうとする。が、気を病んだジョセフは脳梗塞で倒れてしまう。
更にケネディ政権には、キューバ危機やベルリン危機、黒人らの公民権運動やベトナム戦争への介入など、次々と難題が降りかかっていく。
生まれながらに脊椎の持病を抱え、父とケネディ家の期待に応えるべく大統領としての正義と義務を全うしようとするジョンだが、そんな彼の度重なる女性問題に悩まされる妻ジャクリーヌ。そして、兄を支えるべく自己犠牲を強いられた弟のロバート。
アメリカが世界のリーダーとして君臨した古き良き60年代は、時代を象徴する存在であり、現代史の重要な転換期とと共に栄枯盛衰を極めた、ケネディ家の真実に迫る重厚な大河ドラマとも言える。
全く、”金・女・権力・野心”の世界を地で行く様なケネディ家だが、裏社会の勢力によってジョンとロバートが消されたのは、疑い様のない真実でもあろう。
こうして、ケネディ家を裏側から眺めると、金と権力の構造が非常に単純な事を教えられる。つまり、大金を粉団に使い、裏社会の力を利用すれば、大統領も含め、多くのものは手に入るという事である。勿論、一族の安全と命の保証はどこにもないが・・・
極論で言えば、ケネディ家の旺盛は裏社会の力により成し遂げられ、その力により潰された。結局、”ケネディ家の人々”も裏社会の駒に過ぎなかったのだろうか。因みに、ケネディ家がマフィアと密?な繋がりがあった事は「女神マリリン・モンロー」(A・サマーズ著)にも生々しく記されている。
この様に、60年代にて栄枯盛衰を極めたケネディ家だが、その祖はアイルランドの出身の農民パトリック・ケネディ(1823-58)とされ、カトリック教徒への迫害やジャガイモ飢饉を背景に、1849年にパトリックは家族と共にアメリカのボストンに移民として渡る。
その子孫がパトリック・J・ケネディ(1858-1929)で、港湾労働者として身を起こし、やがて事業に成功し、マサチューセッツ州下上院議員となる。その子のジョセフ・P・ケネディは、投資家として莫大な資産を築き、ルーズベルト政権の外交官としても活躍する。
呪われた家系とケネディの女癖
しかし、ケネディ家の悲劇を”呪い”という視点で捉えると、悲劇の連鎖という末路に行き着く。
まずは、ドラマでも描かれてる2つの悲劇だが、1941年に知的障害を持つジョセフの長女ローズマリーがロボトミー手術で廃人となり、44年には、長男ジョーが第2次世界大戦中に爆撃機の事故で死亡する。
次男ジョンが政界進出した2年後の48年には、次女キャスリーンが航空機事故で死亡。
56年、ジョンの妻ジャクリーンは娘(長女)アラベラを産むが死産し、63年8月には息子(次男)パトリックを早産するも、2日後に死亡。そして、その3ヶ月後の同年11月22日、夫で第35代米大統領J・F・ケネディが暗殺される。
因みに、ジョンの弟(四男)の上院議員エドワードも64年と69年に、飛行機事故と自動車事故により死にかけたが、九死に一生を得た。
68年6月、ジョンの弟(三男)のロバート・ケネディが民主党の大統領予備選挙に勝利した直後に暗殺。その翌年、父ジョセフが81歳の生涯を終える。つまり、ケネディ一族の実質の終焉とも言える。
ここまでを精算すると、父ジョセフの息子と娘の計5人の内、3人が死亡、1人が廃人となる。
更に、84年、ロバートの四男デビットは28歳で薬物死し、99年、J・F・ケネディの長男Jrは操縦してた飛行機が墜落し、妻と義姉と共に死亡した(享年38歳)。
つまり、J・F・Kの息子と娘計5人の内、3人が悲運な事故で死亡した事になる。
以上、Wikiから大まかに纏めましたが、呪われた家系と言うより、野心に手を染めると、一族の繁栄は一気に急落するとの典型の様に思える。
”王朝"と称される程の栄光の代償として、ケネディ家は数々の悲劇に翻弄されてきた。凶弾に倒れた大統領をはじめ暗殺2件、飛行機事故死3件、関わった殺人事件1件など。一族にかけられた”呪い”に抗う程に、その悲劇は謎に満ち溢れ、更に強く濃くなっていく。
「ケネディ家の呪い」(越智道雄著)では、オバマ大統領が故ケネディ大統領の遺児キャロラインを、2014年に駐日大使に指名した事を取り上げ、呪いの焦点を彼女に当て、”名門家系の最後のヒロインが政治の表舞台に立つ”と持ち上げてはいる。
確かに、日本でもそこそこ話題にはなったが、すぐに忘れ去られた気がする。
結局は、アイルランドの貧しい百姓から成り上がった一族に、名家という言葉が当てはまるのかは疑問だが、単に世間やメディアを大きく騒がせただけの資産家の一族の様にも映る。
一方で、ケネディ一族の期待と夢を一心に背負ったJ・F・ケネディ大統領だが、彼がなし得た唯一の業績は、キューバ危機の回避だけの様な気がする。勿論、フルシチョフの妥協と貢献に負う所も大きかったのは言うまでもない。
もし、ケネディ大統領が(ドラマでは慎重派に描かれてたが、実際には強硬派ヘ傾いてた)弟ロバートの意向に沿い、キューバへの空爆に踏み切ってたら、アメリカの半分は焦土化してたであろう。
つまり、女癖の悪いケネディの”弱腰”が最後に来て、功を奏したとも言える。そう思えば、ケネディの女癖の悪さも満更捨てたもんじゃない。
ジャクリーヌのその先に
因みに、夫を暗殺により亡くした妻ジャクリーヌは、2人の子供の安全と保身を考え、ロバートの暗殺を機に、ケネディ家と決別し、ギリシアの海運王と1968年秋に再婚した。僅か5年後の事で、その変り身の速さに世界中をあっと言わせた。
確かに、僅か2年10カ月の夫との結婚生活は、彼女にとって不運と困難の連続だった。故に、資産家の令嬢であったジャクリーヌが目先の金目当てで、地中海の大富豪と再婚したとしても、誰も文句は言えまい。
だがそんな彼女も、お世辞にも男運が良いとは言えない。
女癖の悪さで評判だった夫のジョンだが、大統領になってからもその女癖は変わらなかった。ジャクリーヌはジョンが下院議員だった頃に知り合い、一目惚れされて結婚したが、その前年に彼女は、別の男との婚約を僅か3ヶ月で破棄していた。
”変り身の速さ”はこの頃にも発揮されてはいるが、そんな彼女も、ジョンの持病までは知らされてなかった。多分、ケネディ家の隠された秘密だったのだろう。
結婚生活は、ケネディ家の呪いの連鎖と同様に、ファーストレディーの優雅さとは正反対であった。事実、ジョンは結婚後すぐに持病の脊髄の手術を受け、半年間の寝たきりの状態が続く。
更に、ケネディ家の不幸は繰り返された。
彼女が最初に生んだ娘は流産し、4番目の子も死産する。結婚後も相変わらずのケネディの女癖の悪さに、ジャクリーヌは真剣に離婚を考えるも、義父のジョセフが”子供が生まれたら1人につき100万ドルを約束する”と大金をチラつかせ、彼女を翻意させた。
因みに、ドラマでは”息子が大統領になれなかったら”となっている。
一方で、ジャクリーヌが大統領夫人になった頃のホワイトハウスは、近代化という名目もあり18世紀の輝きを失っていた。そこで彼女は、骨董品をかき集め、宮殿の如く飾り立て、その年間維持費を僅か1カ月で使い切ったとされる。が、ジョンの浮気癖が原因で、彼女は夫とホワイトハウス内で激しく口論する事も度々だった。
因みに、再婚相手のギリシャ人の大富豪アリストテレス・オナシスは、ジョンが下院議員時代の頃からの知り合いであった。彼女が次男パトリックを死産し、落ち込んでた頃に、彼のクルーズ内で落ち合い、ジョンが暗殺された後に付き合っていた。
夫の死後、ホワイトハウスを去り、シークレットサービスの契約も切れ、不安に苛まされてた彼女だが、ロバートの暗殺がキッカケで彼女は再婚と出国を決意。翻意を促す多くの人々の制止を振り切り、オナシスの元へ向かう。
再婚当初からジャクリーンとオナシスの関係は愛情に結ばれてたとは言えず、再婚する時には”子供を作らない”との契約書を結んでいた。ドラマ内でも、ロバートは生前”彼は君を愛してない”と、オナシスとの結婚に反対していた。しかし、”お金で家族の安全が買える”と勘違いした彼女は、彼のプロポーズを受ける。
事実、オナシスから大金を貰い、性行為するだけの夫婦であり、”高給売春婦”とも呼ばれていた。1973年にオナシスの息子が飛行機事故で亡くなると、二人の夫婦関係は誰が見ても冷えきったものになる。
事実、75年にオナシスがパリで死去した際には、彼女が遺体に立ちあう事はなく、遠く離れたNYで暮らしていたという。
全くここにおいても、金に無心する彼女の変り身の速さは健在である。
晩年のジャクリーヌだが、友人で恋人でもあったベルギー出身のダイヤモンド商モーリス・テンペルズマンと同居してたが、彼は妻と長く別居し離婚できなかったので、彼女と再婚する事はなかった。
1994年、ジャクリーヌは非ホジキンリンパ腫に罹患した事を知り、短い闘病生活の間に病は急速に進行し、64歳でこの世を去る。
最後に
類は類を呼ぶとはこの事だが、アメリカという国に品格や教養はあるのだろうか?と勘ぐってしまう。
名家とか、名門とか、令嬢とか・・
全く、聞いてて吐き気がするが、これもアメリカの腐った富と民主主義と栄光の象徴なのかも知れない。
”呪われた”とされるケネディ家だが、”成金と野心”という点でみれば、結構興味深い一族にも思えた。
事実、父ジョセフを演じたトム・ウィルキンソンは実に思慮深く渋く、ジョンを献身的に支えるロバートを演じたバリー・ペッパーはとても知的に映った。
更に、ジャクリーヌ役のケイティ・ホームズは微妙にだがチャーミングで、実際の大統領夫人よりも洗練されてた様にも思える。但し、この頃の彼女はトムクルーズ夫人だったが、女優としては既に下り坂で、翌年(2012)に離婚してからは見るに耐えない容貌に成り下がったみたいだ。
一方で、ケネディ大統領を演じたグレッグ・キニアだが、その見た目からは女癖の悪さは微塵も感じられず、不思議と感情移入し、魅入ってしまう。
また、マリリンモンロー役のシャーロット・サリバンという無名?の女優さんだが、グロテスクでケバい風貌には思わず納得だが、晩年の30を優に過ぎたモンローは、こんな感じだったのだろう。故に、兄に懇願されたロバートがCIAを頼り、百害でしかない彼女を消し去ったのも頷けなくはない。
がこれを機に、ケネディ家が窮地に追い込まれ、ケネディ暗殺に傾いていく辺りは、ドラマのクライマックスとしてみても感慨深い。
結果としてみれば、ケネディが大統領に君臨した瞬間から、ケネディ家の呪いは始まってたのであり、時系列で見ても見事に悲運の連鎖は繰り返されている(上図参照)。つまり、”呪いも韻を踏む”という事だろう。
最後に、父ジョセフが”この家族の成功の秘訣は?”と問う所でドラマは幕を閉じるが、その秘訣とは(ジョンが答えた様に)ケネディ家の”野心”である。
が、その野心こそがケネディ家に悲運の連鎖を呼び込んだのも、これまた事実である。
全8話完結だが、ケネディ家の内幕と呪いを描くには、丁度良いボリュームであり、見てて損はしない良質なTVドラマが、ここには存在する。
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