象が転んだ

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エヴァリスト・ガロアを巡る旅、その5〜ガロア群の基本その3〜

2019年05月24日 02時34分20秒 | エヴァリスト・ガロア

 約1ヶ月ぶりのガロア探訪ですが。考える程に頭が混乱しますな。ガロア群を自明な形で表現したいんですが、人それぞれに表現の仕方が異なり、それだけでパニックになりそうです。

 さてと過去2回に渡り、ガロア群の基本を簡単な実例を交え、述べてきました。勘のいい人はある程度気付いた事でしょうか。
 ”体とは数の集まりの限界”であり、”拡大体とは体の限界を示す概念”であり、”群とは拡大体を成す置換の集合”であり、その”置換のしくみ(構造)こそが方程式を解く鍵”となってる事を。
 つまり、ガロア群とは解の置換の限界(構造)を知る概念とも言えますね。

 こういう事がある程度直感的にイメージ出来る人は、数学者になっても成功できるかなと思いますが。逆に私も含め(悲)、イメージできなかった人は、数学は諦めた方がいいかもです。変態と名指しされ、死滅するのがオチか?いやそうでもないか、努力は才能をも凌ぐか。

 

ガロア群と解の置換の対称性と

 唯でさえ複雑な、このガロア群の概念を簡潔に言えば、まず方程式の係数を含んだ”係数体”に、方程式の解を全て含む様に、”ガロア拡大体(有限体)”を広げていく。そして5次方程式では、その拡大体の元(解)の置換が、”方程式を解く”ガロア群の構造をはみ出すケースが存在する。

 つまり、「5次方程式には一般解が存在しない」とは、5次方程式では”解の置換が存在しない”ケースがあると。因みに、解の置換とは解を係数で表す事で、方程式の係数から解を導き出す置換でしたね。

 つまりガロア拡大体の中で、解同士で置換を施すと自己同型写像(全単射)になる置換の集まりがガロア群であり、そのガロア群の構造の中に、一般解が存在する条件(可解群の存在)が見出せる。

 簡潔に言えば、方程式を解くとは、解の置換の対称性(置換しても値が不変)を崩す事です。つまりガロア群内の置換の曖昧さをなくし、明白なガロア群の構造が現れる。判りやすく言えば、方程式というボールを投げたら、解という明白なボールが確実に返ってくるというイメージ。

 これを数学的に言えば、n次方程式の解はn個だから、解の置換はn!個ある。この置換の集合を”n次対称群”と呼び、その対称群から曖昧な置換を削っていき、n個の解に対応するn個の置換群を求めていく。

 

ガロア群と正規部分群との関係と

 その為には、この対称群の中から正規部分群(内部自己同型における不変部分群)を抽出し、最終的に単位置換(恒等置換)になる必要がある。これを”可解群”と呼び、ガロアは方程式が代数的に解ける条件とした。

 因みに、この”正規部分群”もガロアの大発明と言われ、”代数的に解ける条件”の大きな鍵を握る。定義では群Gの部分群Nが、任意のg∈Gに対しgN=Ngの時、NはGの正規部分群とされる。正規部分群は”normal subgroup”と言われ、gN≠Ngになる様な”異常な群ではない”とも書けそうです。”その1”も参照です。

 つまり四則だけでなく、乗算を繰り返す”べき乗”の演算でも自明な解が導き出せ、正規部分群を利用して”べき根”を作れる訳です。

 故に5次方程式では、(解の)置換の対称性が崩れない(曖昧な置換が削れない)。つまり、5次方程式のガロア群が”可解群”ではないケースが存在する(正規部分群の列では表せない)から、代数的には解けないと。
 有り体に言えば、5次方程式では解というボールと解でないボールが混じって返ってくる。拡大体をはみ出すとは、体の限界を超えるとは、こういう事なんですかね。

 つまりガロアは、方程式が与えられた時の、こうしたガロア群の正規部分群という特異な構造に注目したんです。単に解を求めるという従来の古臭く複雑なアルゴリズムではなく。
 故に、このガロア群の構造が恐ろしく難解なのは言うまでもないんですが。

  

ガロアの危険な賭けと
 
 この事は、方程式が代数的に解けるかどうかは、ガロア群の構造を分析すれば判るという、ガロアの”無謀な突撃”でもある。

 前述した様に、方程式のガロア群が可解群(可換群から群の拡大を用いて構成できる群)であれば代数的に解けるという”ガロアの革命”は、当時においては非常に危険で大胆なものでもあったんです。


 数学では、100%証明された事実に基づき議論を進める。確かに自然科学は実在する事物を対象にし、理論が間違ってれば現実との齟齬が生じ、そこで修正可能だ。
 しかし、数学が対象とするのは、人間の思考であり、公理と矛盾しなければ何でも許される世界だ。それを支えてるのが、人間の理性による証明だけという脆さもある。

 ただこの様な数学観が生まれたのはごく近年の事であり、ガロアは実在する数学的な対象を確信してたのではないか。少なくとも一世代前のオイラーはそれを確信していた。信仰厚きオイラーは、神の存在と同様に、虚数iの存在を信じていたし、それは現実となった。

 同じ様にガロアは、ガロア群の存在を信じ、現実にそれは実在した。そのガロアだって、確かだと思えない命題を提出するという危険をよく冒してきた。これはガロアの短くも危うい人生と見事に合致してる。
 


叶わぬ恋とガロア群と

 「方程式のガロア群」の著者の金重明氏は、ガロア群の難解な構造を、男女の”叶わぬ恋”に喩える。
 まず貴方の前にある女性が登場する。男が女に好意を持ち始めた時、恋の可能性は沢山存在し、対称性(曖昧さ)は残っており、彼女との置換(恋)は可能だ。付き合っていく内に想いは拡大し、同時に置換群は縮小するが、まだまだ置換は可能だ。

 そしてその想いが極大化した時、つまり体が限界まで拡大し、群が単位元のみしか含まない単位置換にまで縮小した時、あらゆる置換は不可能となる。そう彼女は文字通り、”かけがえのない人”(自明なガロア群)になるのだ。
 
 しかし現実では、男と女の関係には同型写像(相思相愛)が存在する。私達がフィクションの恋物語に涙するのも、この同型写像のお陰だ。

 悲しいかな女に振られ、自暴自棄になったガロアが生み出したガロア群は、この”叶わぬ恋”がモデルになったのだろうか。簡単なようで複雑で難解なのが、ガロア群の正体なのかもしれない。

 

3次の2項方程式(x³=2)の場合

 前置きが長くなりましたが、ガロア群の難解な構造を一言で語るのはとても不可能です。故に簡単な方程式を一つ一つガロア流に料理していく事が理解の一番の近道ですね。

 さてと前回は、2次の”既約”の2項方程式(x²=2)を見てきましたが。今回は、3次の2項方程式(x³=2)を考えてみます。x³=2の係数体は有理数体Qですね。
 この方程式の解は”その3”で述べた様に、x=³√2、³√2ω、³√2ω²でした。これらは有理数ではないし、有理数体Qの範囲内で因数分解できないので、この方程式は”既約”ですね。

 そこでこの方程式のガロア拡大体をEとすると、E=Q(³√2、³√2ω、³√2ω²)。これを見ると、ガロア群がx²=2の時の様に単純でない。特に、”1の3乗根”であるωが邪魔なんです。

 しかし、この1のn乗根は代数的に求める事が出来る。1のn乗根は、xⁿ=1の解より、この式を移項し因数分解すると、
 xⁿ−1=(x−1)(xⁿ⁻¹+xⁿ⁻²+xⁿ⁻³+•••x²+x+1)=0。
 この1のn乗根を求める事は、方程式xⁿ⁻¹+xⁿ⁻²+xⁿ⁻³+•••x²+x+1=0を解く事を意味する。つまり、1のn乗根は有理数の加減乗算と累乗根で表現できるので、1のn乗根は無視しても構わない。


 そこで、基礎体として有理数体Qに1のn乗根を必要なだけ添加した体を考える。この様な基礎体をK=Q(ω)とすると、ガロア拡大体Eは、E=K(³√2、³√2ω、³√2ω²)となる。基礎体とは拡大体の元となる体でしたね。

 ここで、K(³√2)の元は³√2に、ωと有理数を加減乗除した全ての数です。³√2のみについて整理すれば、K(³√2)の全ての元は結構複雑ですが、次の様な形をしてます。
 (qₘ³√2ᵐ+qₘ₋₁³√2ᵐ⁻¹+•••+q₀)/(pₙ³√2ⁿ+pₙ₋₁³√2ⁿ⁻¹+•••+p₀)
 ³√2ⁿは³√2²と³√2を延々と繰り返すので、次の様に簡略できます。
 (q₂³√2²+q₁³√2+q₀)/(p₂³√2²+p₁³√2+p₀)

 この”分母を有理化”すれば、a(³√2²)+b(³√2)+c、a,b,c∈Kで表されます。これを少し変形すれば、a/ω²(³√2ω)²+b/ω(³√2ω)+c、a/ω²,b/ω,c∈K。故にこれは、E=K(³√2)=K(³√2ω)を意味する。
 同様に、a/ω⁴(³√2ω²)²+b/ω²(³√2ω²)+c、a/ω⁴,b/ω²,c∈Kと変形でき、E=K(³√2)=K(³√2ω²)を意味する。
 結局、E=K(³√2、³√2ω、³√2ω²)=K(³√2)=K(³√2ω)=K(³√2ω²)となりますね。
 
 因みに”分母の有理化”ですが。一般にガロア群の置換を全て施した全ての式を分母•分子に掛ければ、分母は基礎体の元となる事から証明できます。


 故にガロア群は、(³√2、³√2ω、³√2ω²)の3つの元(解)を置き換える置換となる。この置換の1つをσ:³√2→³√2ωとすると、σ:³√2ω→³√2ω²、σ:³√2ω²→³√2、ですね。
 次に、σ²(σを2回実行)を考える。σ²:³√2→³√2ω→³√2ω²となり同様に、σ²:³√2ω→³√2ω²→³√2、σ²:³√2ω²→³√2³√2→³√2ωとなる。
 故に、もう一度σを実行すると元に戻るので、σ³=ε(単位置換)となる。
 よってこのガロア群は、{ε、σ、σ²}となる。つまり、この群の位数は3ですね。
 一方この置換を³√2→³√2ω²から始めても同じで、この置換をτとすると、τ=σ²より、τ²=(σ²)²=σ⁴=σ、τ³=(σ²)³=ε。故に、{ε、σ、σ²}={ε、τ、τ²}と、群としては全く同じとなる。


 そこで、この置換は解である(³√2、³√2ω、³√2ω²)の置き換えだ。この置換の順列組合せは3!=6で、しかしガロア群の位数は3。

 そこで、(³√2、³√2ω、³√2ω²)の元の3つの置換を左から右へ置き換えてみる。
ε=(³√2、³√2ω、³√2ω²)→(³√2、³√2ω、³√2ω²)
σ=(³√2、³√2ω、³√2ω²)→(³√2ω、³√2ω²、³√2) 
σ²=(³√2、³√2ω、³√2ω²)→(³√2ω²、³√2、³√2ω)

 これ以外にも3つが存在する筈。
(³√2、³√2ω、³√2ω²)→(³√2ω、³√2、³√2ω²)
(³√2、³√2ω、³√2ω²)→(³√2ω²、³√2ω、³√2) 
(³√2、³√2ω、³√2ω²)→(³√2、³√2ω²、³√2ω)
 しかしこの3つは、自己同型写像ではない、いや明らかに置換としては矛盾してる。

 つまり、3つの元(解)の置換は6通りある筈だが、そのうち3つがダメなのは、³√2、³√2ω、³√2ω²が独立ではなく、お互いに深く繋ってるからです。故に、3つの元が互いに独立してる場合を”3次対称群”と言う。

 こうやってガロア群から曖昧な置換を削る事で、つまり置換の対称性を崩す事で、ガロア群が”可解群”になり、代数的に解けるという訳です。

 何だか”素数の謎”に続き、”ガロアの洞窟”に舞い込みつつありますが、ゆっくりと焦らずにです。

 という事で、今日はここまでです。次回は、いきなり5次の方程式へと話を進めます。



4 コメント

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続けてhitmanさんへ (lemonwater2017)
2019-05-29 05:23:15
一般方程式のガロア群に関しては、2項方程式よりもずっと複雑になるんですが。剰余群と正規部分群の関係が掴めると少しは楽になります。

正規部分群ではアーベル群の概念もとても重要なので、アーベルなくしてはガロアも語れないという事でしょうね。

代数系が全くのダメで、数学に背を向けてたんですが、ガロアとアーベルのお陰で少しは理解できるようになったかなです。

コメント有難うです。これからも宜しくです。
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ガロアの直感 (hitman)
2019-05-28 16:10:36
体とは数の集まりの限界で、拡大体とは体の限界で、群とは置換の仕組みの限界と考えていいんですかね。

環が整数の限界だとすれば、体は有理数の限界とも言えるかもしれません。昔の数学者はこういった数の可能性に全てを捧げてたんですか。

そんな中、ガロアは自ら生み出したガロア群の中に一般解が存在する条件を見出した。当時は群という概念はないので、自己同型を満たす置換の集まりをイメージしてたんですかね。

そのガロア群の中で解の置換の対称性を崩す事が、方程式を解くとはイメージ的に掴みにくいんですが。対称性が非可換であるという事に気づけば、可換な置換をピックアップする事で解を導き出すという事なんでしょうか。

正規部分群とか可解群とか、聞き慣れない言葉が出てきますが。ガロアの時代はそういった言葉すらなかったんですよね。そんな時代に僅か数年で群の起源を作り出し、代数方程式の解法と結びつけ、代数学を一気に飛躍させたんですか。

同世代にアーベルがいた。彼はアーベル群(可換群)は正規部分群を満たし、解が導き出せる事を背理法で証明したらしいんですが。ガロアにとっては大きなヒントになったかもしれません。
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TVとうさん (lemonwater2017)
2019-05-24 14:04:23
コメントどうもです。

そういう考えも、100%間違いとは言えないかもです。
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象転さんへ。 (テレビとうさん)
2019-05-24 08:28:07
「5次方程式には一般解が存在しない」

人間が認識できるのが「3次元空間+1次元時間」の4次元時空間なので、現在の人間の認識では5次方程式の一般解は解けないと思います。

5次方程式の一般解が解ければ、2次元時間(行き来できる直線状の時間)を制御できるタイムマシンを製作できると思います。

但し、過去(離れた場所)を見ることは出来るので、特定の5次方程式の(一般)解は求めることが出来ます。
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