2/28以来、約1ヶ月ぶりの”大場ストーリー”です。リーマンブログの更新がなかなか捗らず更新遅れました。悪しからずです。
さてと、前回同様これまでの壮絶な試合をざっと振り返ります。
1R、大場のいきなりの奇襲が見事にハマり、サラテをビクつかせますが。終了間際サラテの左フックをモロに食らいダウン。
2R、今度は大場が無理な減量で疲弊したサラテのボディを抉り、悶絶させると、ムキになったサラテに左を合わせ、ダウンを奪う。
3R、とうとう牙を剥いたサラテは狂った様に猛攻を仕掛け、大場は自らカンバスに膝を落とす。仕留めに掛かるサラテのがら空きのボディをカウンターで突き刺し、今度はサラテがダウン。
4R、焦るサラテは闘牛の如く突進し、強引に距離を詰めようとするも、大場の速射砲の餌食に。右目を負傷したサラテを大場は一気に攻め立てた。いやその筈だったが今度は、サラテの殺戮の左が大場の顎をえぐる。真一文字に伸びた大場だが、直ぐに立ち上がり難を凌ぐ。
運命の5R、大場はフルスロットルでサラテに襲いかかる。まずは右ストレートでサラテの左目を潰し、両目を塞いだ後は、疲弊したサラテのボディに左右の連打を乱舞する。腰が落ちたサラテの顎を左アッパーで抉り、打ち下ろしの右でトドメを刺した。倒れても倒れても不死鳥の様に立ち上がるサラテに、大場もまた不死鳥の如く襲いかかった。
サラテは伸びたまま、テンカウントを聞いた。
会場は異様な雰囲気に包まれた。次から次へと興奮した観客がリング状になだれ込む。インタビュアーはリングの外に放り出され、会場内は騒然となる。
流石の大場もその光景に飲み込まれようとしてた。警備兵が出動し、二人を取り囲み、リングを支配した。それでも会場内の興奮は収まる筈もない。
そんな状況の中トレーナーの桑田は言い放つ。
”お前は今まで日本の誰もが成し得なかった偉業を達成したんだぜ、もっと喜べよ。お前は神の領域にあるボクサーなんだぜ”
”嗚呼わかってる。俺がした事くらいは分かってる。でも不思議と感激が湧いてこないんだ。この世の俺とは思えないんだ”
”何舞い上がってんだ。だがなこんな偉業誰が信じるもんかね。俺だって信じられないさ。でもな、この異常な光景が証明してるぜ”
”でもサラテの奴、気持ち良さそうに寝てましたね。何だか可笑しくて、リング上で吹き出しちゃいそうでしたよ”
”いやそれより、ヤツの愛人のグシャグシャになった顔をお前に見せたかったな。猛禽類の様な顔してたぜ。全くお互い様だよな(笑)”
”笑っちゃいけないよ桑田さん。俺はその猛禽類を相手にしてたんだから、少しは同情してよ”
”ああスマンスマン、今度はまともな人間をマッチメイクを要求するから安心しな”
”でも暫くはボクシングの事忘れたいね。今夜は殴り疲れたよ、やっぱりプランXは無理があったね”
”何言ってんだ、プランXはマー坊が提案したんだろ、長い試合はイヤだって”
”そうだっけ?でもねホントは1分でも長く試合したかったよ。奴は本物の殺戮者だったからね。全てのパンチが殺気に満ちてた。顔が猛禽類じゃなかったら負けてたね(笑)”
”ガハハハ、よくいうぜ。でも愛人の方が本当の殺戮者じゃねーのか?奴が殴られる度、白目剥いてたぜ”
”桑田さん、ボクシング見ないで愛人の方ばかり見てたでしょ、直ぐにわかりましたよ。でもその時、今夜の試合は俺も楽しもうかなって”
”アララ、お前この試合を楽しんでたのか?全くボクサーってもんは何時の世も呑気なもんだな”
”呑気なのは桑田さんの方でしょ、早く結婚でもしたら、猛禽類の女でも紹介しますよ”
”言うねお前も。おっと、客が押し寄せる前に控室へ戻ろうや。この件に関してはその後だ”
”でもオレ達の通路が全く塞がってますよ”
”サラテ陣営に変装して、逆の通路から逃げようぜ”
”勝ったというのに敗者の通路ですか?それも悪くないね”
”ファイトに勝者も敗者もないさ、あるのは拳と拳がぶつかりあう音だけさ”
大場と桑田は、サラテ陣営のトレーナーを羽織って、逆の通路から逃げ出した。サラテの控室の通路は地元のメディアがいるだけでひっそりとしてる。
メディアが大場に気付き、騒いだせいか、サラテ陣営の老トレーナーが控室から顔を出した。
”オオバ、ナイスファイト、ユーアーグレーテスト、ファイトアゲイン”
そう言うと再び控室に戻った。
大場はサラテの控室に入って挨拶でもと考えたが。桑田が止めた。
”独りにしとこうぜ。だからトレーナーが顔見せたんだ。これから奴らは大変だぜ、母国のメキシコでは酷く叩かれるだろうな”
”すみません、気が利かなくて。早くお母さん(長野ハル会長の事ですよ)に報告しなくちゃね”
”ああ、変装したまま直行だ”
二人は何とか裏口から大場陣営の控室に潜り込んだ。メディアは大場がいないとお騒ぎしてた。
長野ハルは喜ぶどころか顔を真っ赤にして怒鳴った。
”何モタモタしてんのよ、全く。インタビューも何も受けず、姿くらますんだから。心配したじゃない。マサオ!少しは奥さんの事も考えなさいよ”
大場は頭を垂れた。
”嗚呼、悪いー悪いー。リング上がパニック状態になって、インタビュー受けようにも身動き取れなくて。でも桑田さんの指示で、こうやって変装し、やっと逃げ込めたんですよ”
桑田は言い放つ。
”ハルさん、許してやってよ。今夜の試合は特別なんだから。単なる世界タイトル戦とは次元が違ったんです。もう最初から大変だったから、ハルさんにも生で見せたかったな、砕けきった愛人の顔を(笑)”
大場は大笑いする。
”またその話題ですか?好きですね桑田さんも”
その時2人の娘を抱きかかえた妻が言い放つ。
”政夫さん、笑ってる場合じゃないですよ。どうやってここから出ればいいの?ファンやメディアに囲まれて身動き出来ないんですよ”
一方、サラテ陣営の控室は静まり返ったままだった。
サラテはドクターから傷の手当を受け、緊急の検査を受けたが、異常はなかった。しかし愛人の姿はなかった。勿論サラテは、俯いたままだった。
老トレーナーは呟いた。
”今さっきオオバと会ったよ。グレートと言ってやった。今夜はアイツが主役だったし、俺が思った以上のファイターだった。俺も奴を見くびってた。もっと詳しく調べ上げるべきだったな。トレーナとして失格だ”
サラテはようやく顔を上げた。
”戦ったのは俺だ、アンタらに何ら責任はない。俺は負けるべくして負けただけの事さ。責任は全て俺にある”
その時、突然愛人が姿を表した。涙で目を腫らした表情がその場に緊張をもたらした。
”私にも責任があるわ。油断してたのはお互い様ね。貴方をコントロールできなかった私も悪いのよ。そういう点では大場の奥さんは偉いわね。控室で祈ってたそうよ、娘さんと一緒に”
サラテは言い放つ。
”コントロールできなかったのは俺の方さ。倒す事ばかり考えて、先が読めなかった。オオバは常に先を考えてた。それなのに俺は今しか考えなかった。それが全てさ”
老トレーナーは肯いた。
”全くだな。俺も過去と今しか頭になかった。オオバの頭の中を見抜けなかったのさ”
サラテは頷いた。
”奴は単なる狂気の男じゃない。常に考え、学ぶ事の出来るサムライなんだ。考える事をやめた時ファイターは、単なる暴走マシンとなり、思考に駆逐される。俺は今まで何も考えないで殴り合ってきた。勝つ事しか打ちのめす事しか頭になかった。負けて当然の男さ”
愛人は笑った。
”結局、私達は同類ね。思考をやめたケダモノは、勝つ事で搾取してきた人種は、負ける事で全てを失うの。そして私達はいま全てを失ったのね”
老トレーナーも笑った。
”ああ全てを失ったさ。でも俺達は今夜の敗北で多くを学んだじゃないか。日本だって戦争で負けたが、多くを学び経済大国として君臨した。俺たちはチームだ、まだまだ終わっちゃいない。勝負はこれからだ、違うか?”
サラテも照れくさそうに笑う。
”俺が言うのもなんだが、負けたって全てを失う訳じゃない。オオバという友人を得たし、思考がファイトを征する事も教えてもらった。レイニー(愛人の名前)、俺は生まれ変わる。そしてこのケリは必ずつける。俺を見捨てないでくれ”
愛人は照れくさそうに呟く。
”それは私のセリフかもね。このままじゃスラムの女に直行だもの。みんなで生まれ変わりましょ。私達はチームよね”
老トレーナーは胸を張った。
”ああそうだ、俺たちはチームだ。どんな目に逢おうと、俺たちは一つさ。それだけは変わらない。さあメキシコに帰って一から出直しだ”
ホントは、この”その9”で最終回にしたかったんですが。試合後の両陣営の表情をサラッと紹介するつもりが一つのドラマ風になってしまいました。
次回”その10”で大場ストーリーを最終回にする予定です。悪しからずです。
でもあくまでフィクションなんで、全ては想像ですが。サラテの愛人のイメージがなかなか思いつかなくて、どんな顔してんのかなって思うだけで笑っちゃいますね。
大場と桑田の会話は自分でも良く出来てると思います。10分程で書き上げたんですが、実際にこういう会話になるんだろうかって思います。
サラテの愛人のイラストも見たかったな。猛禽類の顔がどんなだか?でも見たら吹き出しちゃうかも。
転んだサンもボクシングやってたと言ってたね。プロになろうとは思わなかったの?でもやんないでよかったね。猛禽類くらいじゃないとボクシングって務まんないかもね。