チリ大地震と津波
南米チリの大地震でチリ政府は1日、これまでに723人が死亡したと発表した。AFP通信によると、うち500人以上が沿岸部で犠牲になっており、津波が犠牲者を増加させたとみられている。
ビダル国防相は2月28日、「判断に過ちがあった」として、軍による津波警戒警報の発令が遅れたことを認めた。津波の高さは10m以上に達した。沿岸部では行方不明者も多く、死者数はさらに増える見込み。被災地では略奪行為が拡大しており、治安の悪化が懸念されている。
今回のチリ地震、地震規模を表すマグニチュード(M)は8.8。放出されたエネルギー量は今年1月のハイチ地震の500倍超で、観測記録の残る世界の大地震の十指に入る。
チリは世界でも地震発生の多い国だ。1960年には、観測記録に残るものとして最大のM9.5の大地震が起きている。
それほどの巨大地震に対して、東北地方の三陸沿岸に高さ3メートルの津波が押し寄せる恐れがあるとして、気象庁は28日午前、17年ぶりに大津波警報を発表した。幸い津波の高さは予想より低く、各地で10~120cmが観測され、人的被害の報告はなかった。
ここ湘南でも津波の高さは1mと予想されていたが、実際は30cmほどで、何か拍子抜けした津波警報になった。だが、これで安心して、油断が生じないかが心配である。
拍子抜けした地震警報
気象庁の予測と観測値とのずれについて、河田恵昭・関西大教授(巨大災害)は「日本近海での地震を中心に想定している現在の予測体制では仕方がない」と指摘する。
津波の予測は、日本まで伝わる経路の海底地形に左右されるが、調査が進んでいる日本近海と違い、太平洋上の諸国では調査が不十分なところが少なくない。観測網が張り巡らされた日本と違い、海外の発生国では地震計が少ないことも多く、地震像がつかみにくい。
津波がハワイに到達した時点での観測値を基に、過去の例などを加味して予測しているものの、精度が悪くなる傾向があるという。河田教授は「予測と実際が異なるからといって甘く見ず、警報に従って避難することが重要」と指摘する。
佐竹健治・東京大地震研究所教授(地震学)も「波高を測る観測点に比べ、湾の奥などでは複数の波が重なって倍近い高さになる。今回の予測の食い違いを『外れた』と言ってはいけない。今後も気象庁の情報は『最悪のケース』を想定しているとして、しっかり受け止めてほしい」と話した。(毎日新聞 2010年3月1日)
日本にも大きな被害
一方、今回の津波の被害は日本でも深刻だ。塩釜市や石巻市などは3月2日、カキやワカメなど養殖業の被害状況を明らかにした。被害額は塩釜で約6億円、石巻で数百億円と試算したが、いずれの金額も速報値で今後、被害額は膨らむ可能性が強い。養殖業者の間では「壊滅的な被害」との認識が広がり、行政の支援を求める声が強まっている。
塩釜市がまとめた漁業被害額(速報値)は総額6億5060万円。内訳は、養殖用の棚、イカダなど施設が2億6530万円▽ノリ、カキ、コンブ、ワカメの生産物が3億8530万円と試算した。
県漁業協同組合は石巻市の被害総額は数百億円にのぼるとみている。被害を受け、同組合の阿部力太郎代表理事と船渡隆平専務理事らが2日、同市の亀山紘市長を訪れ、被害状況の報告と、市に災害復興の支援や災害資金借り入れの金利補助などを要請した。
各漁協支部の「中間報告」を基にした現時点での被害状況は、牡鹿半島部の表浜支所の小渕浜から石巻市東部支所の狐崎間の養殖施設が壊滅的な被害を受けた。市東部支所では、今秋収穫予定のカキのうち約7~8割の養殖施設が被害を受け、秋からの収穫が絶望的という。(毎日新聞 2010年3月3日)
津波の高さどう測る?
ところで、各地の津波テレビ画面を見ているだけでは、いつ津波が来ているのかわからなかった。ただ、映像を早送りしてみると、確かに潮位が上がっているのがわかった。どうやって津波の高さを測定しているのであろうか?
気象庁が発表している津波の高さは、全国の海岸など171か所の施設で観測される。このほとんどを占めるのが、海岸から10メートル程度陸に入った場所に、深さ数メートルまで掘った井戸で観測する「検潮所」である。
地中に埋めた直径20センチ程度の導水管から海水を引き、井戸に浮かべたブイの浮き沈みを基に潮位、つまり海面の高さを観測している。わざわざ井戸に海水を引き込むのは、風などで生じる細かい波の影響を排除するためだ。同庁が発表する潮位は、日本各地の標高と同じように、東京湾平均海面を「0」として計算している。
平常時の潮位に比べ、潮位の上昇分が津波の高さとなり、データは、オンラインで東京・千代田区の気象庁まで常時届けられている。
津波の玄関・南鳥島
観測施設の中には、チリ地震など遠地で発生した津波を、日本で最も早くキャッチするための特殊な施設もある。今回も全国で最初に10センチを観測した小笠原諸島・南鳥島だ。
日本本土の南東約2000キロに位置する日本最東端で、チリからの津波だと、本土よりも約1時間早く到達する。このため同庁は、同島近くの水深数メートルの海底に圧力計を設置して、上を通過する水の量を測ることで潮位を計算している。データは同島観測所から運輸多目的衛星「ひまわり6号」を経由して送信され、同庁幹部は「日本への津波の規模を知るうえで、重要な手がかりとなる」という。
今回の津波は、10~20センチの場所も多かったが、津波の危険性は、津波の高さだけで決まるものではない。
例えば、高さ20センチの津波でも、満潮時なら、被害が出る可能性もある。「干潮時に50センチ以上の津波を観測しても、海面の高さは普段と変わらないように見えることがある反面、満潮時なら20センチの津波でも岸壁を乗り越える危険性がある」。気象庁海洋気象課の白石昇司主任技術専門官はこう指摘している。(2010年3月2日 読売新聞)
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