妖精の粉
「指がはえてきた!」3月28日午後9時からのNHKスペシャル「人体製造」は衝撃的で面白かった。ラジコン飛行機のプロペラで切れてしまった、指の先端に“妖精の粉”をふりかけたところ、1ヶ月で指が再生したのだ。
“妖精の粉”がよく使われるのは、イラクで負傷したアメリカ軍。ハリス軍曹は爆発により、全身を負傷し3本の指を根元から失った。そこに“妖精の粉”をふりかけたところ、50日で1cm傷口が盛り上がり再生した。同じくヘルナンデス伍長は70%太腿の筋肉を失った。そこに“妖精の粉”をふりかけたところ、10%回復、動物実験では30%回復しているという。
妖精の粉の正体は?実はブタの膀胱から細胞を取り除いてつくった「細胞外マトリックス」であった。再生のしくみはわかっていないが、細胞外マトリックスに含まれる物質が、骨髄の中の幹細胞を呼び寄せ、血管、骨、筋肉が再生していると考えられている。
細胞外マトリックス
細胞外マトリックス(Extracellular Matrix)とは生物において、細胞の外に存在する超分子構造体である。通常ECMと略され細胞外基質、細胞間マトリックスともいう。
多細胞生物(動物、植物)の場合、細胞外の空間を充填する物質であると同時に骨格的役割、細胞接着における足場の役割、細胞増殖因子などの保持・提供する役割などを担う。植物における代表的な細胞外マトリックス成分は、セルロースである。
ヒトを含めた脊椎動物に顕著な成分は、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチンやラミニンといった糖タンパク質(一部は細胞接着分子)である。
細胞外マトリックスを操作することで組織や細胞を制御し再生医療などに利用する方法をマトリックス工学という。また個々の細胞外マトリックス成分やその複合体は細胞培養などに用いられ、既に医療応用も盛んである。
特にブタの膀胱から抽出した細胞外マトリックスはアメリカ合衆国において実用化が進められており、ヒトにおいても事故で切断した指先を再生することに成功している。
「幹細胞」利用整形
最近の研究で、幹細胞が腹部の皮下組織にあることが発見されている。番組ではこの皮下組織の幹細胞を使った事例を紹介している。
北九州の北村薫医師は、この細胞を使って乳ガンの切除などで凹んだ女性の胸部を再生することに成功している。自分の細胞を使ってへこみが治った女性は「これで友達と温泉に行ける」と喜んでいた。だが、臨床試験段階で副作用を探っている段階だ。
この結果に目をつけたのがロンドンの美容整形のアーメル・カーン医師。副作用の可能性があっても自分の細胞ならば安全だ。保険適用外で契約書にサインをした人を相手に整形手術を行っている。
ミュージカルスターを目指す、若い女性の胸部をふくらませることや、頬のこけた貧相な顔立ちの女性がふっくら豊かになった。これからは美しい女性がどんどん増えることになりそうだ。
幹細胞利用「再生治療」
幹細胞については、白血球などの血液の病気治療に骨髄幹細胞やさい帯血幹細胞などが使われている。
2007年11月のNHKの番組「眠れる再生力を呼びさませ」では、骨髄幹細胞を使って脳梗塞や心筋梗塞の治療に効果をあげている札幌医科大学附属病院の事例を紹介している。
その再生治療に使われるのは、患者本人の骨の中にある骨髄の細胞である。骨髄の幹細胞と呼ばれる細胞を体内から取り出し培養、患者の血管に注入すると、傷ついた脳の神経が再生するという。番組では、この臨床試験に挑んだ脳梗塞患者を8ヶ月に渡って取材。左半身に運動マヒを抱えた患者が、今までの治療では考えられない回復を続けている様子を描く。
また、自らの骨髄の細胞を使った再生治療は、心臓でも行われている。ドイツでは心筋梗塞患者が骨髄の細胞で治療を行った。その結果傷ついた心筋細胞が復活し、スポーツが出来るまでになった。
参考HP NHKスペシャル「人体製造」・Wikipedia「細胞外マトリックス」・アイラブサイエンス「再生力を呼び覚ませ!」
医療再生は可能か (ちくま新書) 川渕 孝一 筑摩書房 このアイテムの詳細を見る |
エスカルコ゛・サイエンス 再生医療のしくみ (エスカルゴ・サイエンス) 八代 嘉美,中内 啓光 日本実業出版社 このアイテムの詳細を見る |