この摩耶雄嵩さんと埴谷雄高という「死霊」を書いた作者がどうもこんがらがって、本屋さんで、あの植谷さんはこんなふざけた(ゴメン )話も書いていたのか、まさかまさか、と思っていた。
何しろ探偵もの。
だけど詩人ポーだってホラー小説を書いた。
装丁もクラシックだし、帯の「5年ぶりの最新刊」というのも、5年ぶりに復刊されたのかとこれも瞬時に思ってしまった。
その上「人形芝居を思わせる抽象性の魅力」ときたので納得の上で勘違いをした。
要は植谷雄高という作家を良く知らない、名前を読んではいたが記憶に残っていない、難解な幻想的な作家と思い込んでいたということだった。
その上、ハニヤと読まずにウエタニと読んでから、あっ、あのハニヤ、すでに亡くなった植谷さんだと気が付いた(笑)
そんなわけで図書館に予約したが、読み始めて一頁目でやっと人違いだと気が付いた。
思い込みとは恐ろしい。
とは言うものの、面白かった。
5つに分かれた短編で、それぞれが発端は本格ミステリ風に始まる。
事件が起きた状況はさまざまだが、そこに偶然だったり招待されていたり、呼び寄せられたりして、犯人を割り出すことになる。
それが自己申告の「貴族探偵」というわけで、彼の名刺には金の箔で一行「貴族探偵」と書いてある。
20代の痩身の美青年で、いつもメイドや運転手、ボディガードまで引き連れている。
美人と見ると歯の浮くような美辞麗句でいい気にさせてデートに誘う、トンでもないお坊ちゃんに見えるが、使用人の作法のしつけや陰日向のない仕え方を見ても只者ではないらしい。
そんなプロフィールを織り交ぜて事件は解決するのだが、働くのは、使用人で、彼らが事件の糸をほぐして推理し、犯人をあげて謎解きをする。
そしてその間、ソファに座って美女を口説いていた探偵は、解決後は優雅に去っていくということになっている。
こういうのは珍しい、車椅子探偵でも頭は使う。
「ボーン・コレクター」でも一本の指と頭は使っていた。
しかし、このありえない探偵は面白かった。
作者のプロフィールがはっきりしたので近刊の「隻眼の少女」を予約したが、人気らしく何時回ってくるかわからない、しかたない、楽しみに待っている。
読書
48作目 「貴族探偵」★3.5
面白いし本格派チックだが軽いので。