空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「言語小説集」 井上ひさし 新潮社

2012-09-17 | 読書

 

 

今日は笑いたい気分なのに、ユーモアが好きなのに小指にも足りない、と思っているならこれ!すぐに読めてしまうので。
悲しみや憂鬱や気に染まないことが、こころの半分くらいだったら、もう抱腹絶倒間違いなし、ほとんど憂鬱に占められていてもウフフくらいはいける。
作家がほめる、批評家も文句なしに認める言葉の手品師、言語マジック、それは亡き井上ひさしが残してくれた、日本語の美しくも妖しい、まるでそれは言葉ではないかのように、新たな命をもった言葉や記号たちが、新しい目を開かせてくれる。

「括弧の恋」

「 は 」に恋している。「 があれば遠からず(遠くても)」がついていく。二人で寄り添っているべきなのです。という。
記号同士がもめている。!はどこだ。高圧的な●は!に言う。
だが∵が論理的に結論付けようとする、繰り返し記号はそうだそうだと同意する、次には何でもまとめたがる〆がでてくる。
ひとつの壊れかけたワープロの中でこんな騒ぎが起きている。
簡単に抜き出してみたが、こんなものではない、たくさんの記号たちがそれぞれの出番で右往左往する。
これは名作。



「極刑」

文章には法則があり、それで意味が伝達される。
それがまったく文法を無視したせりふを振られたら、役者がどうなるか。
思いもかけない着想がせりふがまた一段と面白く、読んでいても目を白黒する。



「耳鳴り」

耳鳴りは同じヘルツの音を聞いて消すのがいい。治療の確立していない病気に医者の診断も確立してない。
そういわれた患者は、、、。



「言い損ない」

言い損ないってあるある。
でもアルバイト先で「ベーコンエッグです」を「エーコンベッグです」なら許容範囲かもしれない。ところがところが、見合いの席で、あがった彼は言い損ないの連発。よくもこんなに間違えそうな言葉を集めたか、その上意味不明な会話がなんだか危ういピサの斜塔のように、わかるようでわからない、その滑稽さは群を抜いている。



「五十年ぶり」

方言に詳しい男が、五十年前のできごとをおもいだす。
作者の博識と方言についての造詣の深さに驚く。
ストーリーがまた秀逸、場所が風雅な旧式のトイレである。



「見るな」

これも方言に由来した話。東北の方言は作者ならでは。
そこに過去のマレーとの交易の痕跡を見つけ、ちょっといい話。



「言語生活」

これはある言語学者の講演記録ということになっている。
ヒポクラテスに誓って他言しないと、
聴衆の学生たちに釘をやんわりさして(このところも面白い)ある男の病歴を話す。

まじめで信用のある男が言葉に変調をきたして行くその言葉がまた、ありそうでなさそうで、この本の有名なくだり、駅員になった男は
「大便ながらくおまたせしました。間もなく一番線に新宿行き快速が入ってまいります。そのまましらばくれてお待ちください」
聞いた助役は駄洒落だと思った。
だが、つづいて
「一番線に電車が這ってまいります。どなたも拍手でお迎えください」
「車内ではおたがいに席をゆすりあいましょう」と言い
「お年寄りや生活の不自由な方に席をゆずりましょう」
「この先ゆれますので五十円ください」

理由を聞くと
「お前は何をやっているんだ、冗談にも歩道と車道があるぞ・・・とにかく自分をほめて・・・いえせめていたところです」と悲しんでいる。




大幅に割愛しましたが、これは字数の都合でお読みになって笑っていただくほかなく、これに続く部分もすばらしく占めのところは身につまされるところもあり、もう笑わずにはいられない。

★文句なく 5

 
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「陽だまりの偽り」 長岡広樹 双葉社

2012-09-17 | 読書

「傍聞き」より前に書かれた短編集で、読みやすい。

陽だまりの偽り


淡い青のなかは

プレイヤー


写心


重い扉が



どれも最後は暖かく終わる、ミステリ仕立てであるが、思いやりや人情の豊かな土壌に、事件に巻き込まれたときの人間的な心情が、暖かく包まれるのを感じる。
迫力のなさ、長編の持つ厚みにはかけるかもしれないが、こういう読書の楽しみ方もあっていい。肩の凝りがほぐれる。


「陽だまりの偽り」 


地域の名士と自負してきた育造は、自分の痴呆症、アルツハイマーを自覚した。だが人に知られないように密かに隠し、ばれない工夫も怠りなかった。
嫁に頼まれて郵便局に送金にいく、月の一度の仕事は失敗してはならない、しかしふと置いたバッグがなくなった。
彼の涙ぐましい自衛策は裏目裏目に出てしまう。
これは面白かった。

★4

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