少し前に「陽だまりの偽り」「傍聞き」を読んで、好きな作家ベスト10になった。暖かい作風で種明かしも絶品だと思い久々に気持ちのいい読後感だった。
やっと「教場」を読むことができた。ふんわり暖かい作風だと言う先入感は読みはじめから少し違っていた。
警察官が勤務先が決まる前に入る警察学校が舞台だった。警察官の卵が受ける教育は、過去の遺物のような規律厳守の軍隊方式で問答無用の世界だった。
入学するとまず警官としての心得が叩き込まれる、平常の生活にはない規律で縛られた世界は、ゆとり教育で育ったいまどきの若者には耐え難い、厳しい訓練がある。
適正が認められなければ退学になる、警察として生き残れるかどうかの「篩」にかけられる場所であった。
訓練中に起きるエピソードが6話とエピローグからなる。
独立した短編のような6話は、学校内の行事や、訓練の様子などともに警官教育の中で起こる個人的な問題が書かれる。狭い校内なので、問題解決後はそれが校則関係ならば違反すれば退学しなけれならない。
職務質問は二人一組で練習するが、教官と組むこともある、これにも手順があり、相手の心理を読む想像力がいる、人間性も出る。読んでいて、なるほどこんなことも基礎はきちんと習うのかと納得した。
警官として向き不向きは有るだろう。しかし天職とは自分で作る以外にはめったに出会うものではなく育っていくものだとしみじみ思った。
職務質問は受けたことがないが、身に着ける基本的なテクニックは読み手にも雰囲気がわかる。職務質問での検挙率は高いそうで教えるのも気合が入る。
幸い現実では体験することは少ない、でも大切な仕事なのだ。
平凡な日々で育った学生たちが、緊張してこの授業に臨むが気もちはわかる。
こんな世界をよく書き上げられたものだ。警察や犯罪小説ではない。
狭い教場が舞台でも、スリルも、ミステリも、嫉妬もライバル心も 、復讐もある。
背後には教官の温情もある、この話は厳しい生活を潤すエピローグとして生徒にも読者にも心に残る。
友情も壊れたり繋がったりする。起伏に富んだとても面白い一冊だった。
身近なおまわりさんもこうして公務を身につけていたのかと思う。そんな発見もあった。
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