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「初陣」 隠蔽捜査3.5  今野敏  新潮文庫

2014-06-30 | 読書



ここまで来ると、竜崎の周りの人たちも気になりだす、まずは、伊丹、戸高、野間崎管理官、補佐役の課長たち。貝沼さんも。

3.5と言うのも珍しいが、3巻~4巻の間の裏話と言うところでしょう。話は伊丹刑事部長のあれこれ。
伊丹刑事部長と呼べば、まぁ俳優なら今、時の人香川さん、内野聖陽さんかな。
ところが伊丹俊太郎となると、体形に気を配り、マスコミ受けを狙い、現場にも常に顔を出して捜査陣をねぎらう、行き届いた人を演じ続けてすっかり身についている。スマートさが売りなら、佐々木蔵之助さんのような人を想像する。俊太郎って名前、なかなか似合っているような似合わないような。

短い話が8編で、どれも面白い。今野さんは話が短くても長くても、うまく、それも無理なく収める、名人かも。


さて本編は

指揮
 伊丹は福島県警本部長から警視庁刑事部長へという辞令が出た。引継ぎは三日間で、もたもたすると次の部長が着任してくる。自分も次の任地に行かなければならないしいそがしい。
だが竜崎にちょっと電話してみた「なんだ?」溜息とともにいつものように愛想無い。伊丹は勝手に親しみを感じているが、竜崎は長官官房の総務課長に抜擢されていた。
後任者の到着前日、いわき市で殺人事件が発生。後任が来れば引継ぎをして自分も移動しなくてはならないが、捜査本部ができればそこに立ち会いたい、それでは決められた着任日に間に合わない。
現場主義の伊丹は迷う。そこで竜崎。距離を置いて客観的に、原理原則どおりにやって見る。体の移動ができないときは電話も使え、という竜崎の指示。迷いは物差しさえ間違えなければ案外すんなりと片付くと言うことで、めでたし。

初陣
 裏金問題が浮上した。竜崎は長官官房の総務として、国会の質疑応答の原稿を作る。これが表立った竜崎の「初陣」だという。
資料のため、と言うことで伊丹に質問してくる、なに?裏金? 費用のやりくりに苦しい所轄などは何らかの方法で経費の不足はまかなっている。具体的に? 話すから友達ならうまくまとめてくれ。名前は出すなよ。マッタク!
案外伊丹は小心だった。どうなるのかやきもきする。

休暇
伊丹はやっと三日の休暇をとった。榛名山に向かう坂道にある古い温泉、伊香保に行こう。車で飛ばせば一時間。
だがそこで又大森署管内で殺人事件、捜査本部だ現場主義なら立ち合わねば、せっかくの温泉で、休暇なのに。
竜崎は、本部など要らない、連絡網は完璧な現代、ゆっくり休養しろと言う。
それでいいのか、伊丹は悩みながらの休暇。

懲戒
 晩秋の雨が冷たい日、」時枝課長が言いにくそうに、選挙違反の話を伝えに来た。本当なら懲戒免職だな。でもなぜ話がここに来た。聞いてみると伊丹の知っている警部補だった。刑事部長が言うには、「伊丹から処分を聞くのではなくあくまで参考意見を聞きたい」そうだ。だがその結果が悪ければ・・・妻も子もいるのだ。
白峰をよんで話を聞くと大物議員の選挙運動中の出来事だった、やはりここは竜崎の智恵だ。
電話をすると、単純明快な答え。伊丹も取り越し苦労だと思えた。そう旨くいくのか。

病欠
 いくら頑張ってもインフルエンザには勝てない、それでも伊丹は頑張る。現場主義だ。
しかし応援がいるとき、どこの署もインフルエンザのせいで人員不足だった。しかし大森署は予防接種の徹底で欠勤はわずかだった。
 竜崎に応援を頼むと、危機管理がなってないなどと皮肉られながら10人を出して、指揮も取ってくれるという。困ったときはお互いさま、仕事第一というのが竜崎の原理原則だ
伊丹は体力も限界で家に帰る。そこにたまたま別居中の妻が来ていた。ほっとして、なんだか幸せ気分になった。

冤罪
4件の放火事件があった、二件の犯人をすぐに拘束した。ところが近くで小火がありその犯人が前の4件は自分だと自供した。
こまった。最初の犯人は庭で焚き火をしたただけなので無罪だと言っていた。誤認逮捕!冤罪か。
 竜崎は、こういうときはどうするのだろう。

試練
 藤本警備部長は、かねがね聞いていた竜崎の原理原則を試すために、女を送りこんでみたらどうかと伊丹に言う。
そして3巻の<疑心> のような話になる。これには仕掛けやうら話があった。

静観
 時枝の態度が気になった。
「何か問題があるのか」
「落ち着きが無いように見えるが」
「何があった」
「悪いことと言うのは重なるものでして・・・」
「大森署の竜崎署長がちょっと面倒な立場におかれておいでです」
「要点を言ってくれ」
大森署で事故死で処理した事案が殺人事件だった。
車両同士の事故で交通課係員ともめた。
窃盗事件があり話を聞いた相手が、犯人だったが、その時は見逃してしまった。
なんと三重苦か。
伊丹は早速電話した。
「まだわからんことばかり、静観中」と竜崎は言った。




伊丹側から見れば難事件でも、竜崎の考えに照らせば悩むことは無い。まるで大岡裁きの前の岡っ引き。
でも伊丹の心は見かけによらず繊細なのだ。人の気持ちはそうすっぱり割り切れるものではない。それが伊丹の持ち味である。
竜崎だって人の心が判らない訳ではない。しかし法の下で人を見るとなれば、原理原則が第一、騒ぐことはない。彼には忍耐力もある。


短編もいい。早く読めるし。解決も綺麗で早い。
コメント
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